『暴走族夜怪 再帰』
ホラーノベルゲーム『暴走族夜怪』のリメイク版です。
暴走族の不良達が順番に怖い話を語っていきます。
話の方向性は様々。
「怪異よりも生きている人間が怖い」系の話は好きなのですが、そればかりだと「怪異ももっと頑張れよ!」と言いたくなるので、どちらも入っているのが好みです。
この作品はバランスよく楽しめます。
怖い話ばかりではなく不思議な話……どちらかと言えばいい話も含まれています。ほっとする話があるから怖い話の威力も上がる。
語り手による違いも注目したいポイントです。性格とか語り方とか。
穏やかに語る者もいれば飄々とした態度の者もいる。お調子者らしく軽い口調の人間も、怖がりなのに強がる人もいます。
まとめると、話の方向性や語り手の違いで色んな味を楽しめます。
リメイクによって上記の特徴が強化されました。
新規の怪談やエンディングが追加され、ますます違いが生じることに。
リメイク前の方もプレイしてからだといっそう楽しめます。
同じ話でも展開や結末が変わるなど、知っているからこそ驚きます。
頼もしい味方だった寺のお坊さんがいなくなったり、もっと酷い目に遭ったり。
グラフィックもパワーアップしました。
スチルがたくさんある!
リメイク前はどんな姿かわからなかった怪談の中の人物達にも立ち絵がつきました。
臨場感が増して物語を盛り上げます。
また、『僕らの都市伝説』と同一の世界観であり、「これってあのキャラの……」となりま
す。思ったよりガッツリ関わっています。
ここからは怪談を一つ一つ語っていきます。
ネタバレが含まれますのでご注意ください。
※リメイク前に収録されていた話には(リ)をつけています。
時計回り
・恨みの銘柄(リ)
リメイク前との違いを一番感じたのは酷い目の遭い方です。
豪快になってる。
仲間達のその後も後味悪くなっています。
増えたスチルが精神を追い詰めてくる。
そりゃトラウマにもなるよ。
・怪しいタバコ屋
怖さより愚かさを感じる。
タバコを吸って様子が変な人より、吸う前からおかしい二人の方がよっぽど不気味。
・持病と金魚(リ)
怖さの系統がかなり違う。
もはや謎のクリーチャーになってない?
・いわくつきロード
いちいちビビりじゃないと強調する様が面白い。かえってバレるって。
中本がどうなったか語られていないのですが、彼もいなくなったのかな。
・呪いの産声(リ)
エグさが増してる。
武田を諫める桜がかなり辛辣。言葉のナイフに笑いました。ちくちくどころか滅多刺し。
他人と深く関わろうとしない桜なら、普通なら軽く注意する程度だろうに。
それも当然と言えるほど武田が酷い。
おかげで無残な最期にも心が痛まずに済む。リメイク前は助かったのに……。
この呪いは『僕らの都市伝説』にも登場します。
・非常識な友達
グロいわ!
浅岡は極度の悪戯好きというか構ってちゃんというかとにかく迷惑レベル100。
人をビックリさせることに人生懸けすぎ、体張りすぎ。
何が彼をここまで駆り立てるのか。
怖いのはこの話を笑顔で語れる桜です。
浅岡がヤバいのは分かりきっているけど、桜もかなりアレなのでは?
・訴えるCD
怖さより不思議さを感じます。
声の主が気になりますが、三塚の行動で救われたと思いたい。
「三塚なのに怖い話なのか?」とホラーノベルにあるまじき感想を抱きかけたものの、しんみりして終わりました。
こういう話が入ることで他の話がより恐ろしく感じられる。緩急や落差が重要ということですね。
・たとえ死んでも(リ)
三塚が不良や暴走族の道へ進んだことにリメイク前から引っかかっていたのですが、詳しく語られて納得しました。
母親とのすれ違いや軽いいじめが重なってグレてしまった。三塚にも荒れた時期があったんだな……。
程度こそ違えど、いじめに遭って力を求めたのは『強制救済ゲームシャングリラ』の今蛇に似ていますね。
かなり危うい状態に陥っていましたが、叔母さんがいい人で助かった。
今の三塚の穏やかさはこういった出来事の上にできていると考えると、重みが増します。
母親と健やかに過ごしてほしい。
・ピンクの訪問者(リ)
ぬいぐるみの性質の悪さがレベルアップ。せんでいい。
・恐怖のペナルティ
怪異のスケールがデカい。団地丸ごとって……。
厄介さで負けていない怪異は他にもいますが、規模は今作上位では?
ぬいぐるみがじわじわ接近して侵食する怖さで、こちらは引きずり込んでくる怖さです。
途中までの井原のビビりようは迫真の演技か?
侵入者の心を読み取って、「らしい」人物像を作り上げるのでしょうか。
だとしたら厄介さも相当です。規模の大きさに負けていない。
反時計回り
・それを背負う覚悟
江藤は止めてもらえてよかったな。そんな考えじゃ間違いなく散々利用された挙句命を落としていたぞ。
叔父さんもきっと呪われたんだろうな。アカガミ呪法とは別のやつで。
恐ろしい呪いが何種類も存在する世界、嫌だー……。
・真犯人(リ)
須崎は何なんだよ!?
「怪異より生きている人間が怖い」系の話ですが、私からはほぼ怪異に見えます。全然理解できないので。
この町治安悪すぎないか?
そもそも語り手の磯之自体深夜に学校に侵入して、軽い気持ちで窓ガラスを割ろうとする男です。
・黒猫ばあちゃん(リ)
とても好きな話です。ストレートにいい話。
『真犯人』の後だと特に心が浄化される。
……こんなに優しい子だった三塚が親とのすれ違いやいじめで荒んでしまうと思うと悲しいなぁ。立ち直れてよかったという気持ちが強まります。
話を聞いて目を潤ませる四狼が地味に好きです。
沢田号泣してんの!?
何で不良やってんだ、あんたら。
・殴られ屋
恋愛色がはっきり出ているのは珍しい。
今回も他のキャラの話とは空気が違うだろうなと思っていたのですが、こういう方向は予想外。
真相が明らかになった時にそっと離れる三塚の気遣いが光る。
殴られ屋は不気味ですが、理不尽さはあまり感じません。
襲ってこない、買わなくても怒らない、しつこく勧誘しない。
関わっただけで破滅へ向かう厄介さはない。
「人間に不幸を振りまいてやる」という悪意を感じない。
もちろん痛みを味わう側にとっては理不尽ですが、利用する人間の責任だと感じます。
利用者とターゲットの関係や使った理由の方に注意が向いて、殴られ屋そのものに感情を向けづらい。
安全な場所から一方的に攻撃する道具や装置に近い感覚なんですよね。
そんなわけで胸糞悪くなる怪異でも話でもありません。
・フラッシュバック(リ)
正体が〇〇の〇〇だと語られたのはリメイク前と違いますね。
前は桜が犯人という方向でした。
結局時計を落としたのは最初に屋上に行った時で、特に何もなかったってことでいいのかな。
……語り手が桜なので安心しきれない。
・ファイブコールアルバイト
じんわり嫌な感触が浸食してきます。
現実にありそうで怖い怖い怖い!
あの、この流れでバイト紹介されても絶対やりたくない。
・××××さん(リ)
怖いのですが、それ以上に「え、この後どうなるの!?」という気持ちが強い。
リメイク前でも何もなければ気味の悪さを感じて終わりだったでしょうけど、リメイク前のエンディングで登場→今回のエンディングでは触れられず、なので気になってしまう。
前向きに考えれば、思い出すルートが描かれないわけですから、曖昧なまま何事も起こらないと思いたい。
・香る先生
沢田の話ということで予測した方向と全然違う……。
内容をよくよく考えると結構怖いのですが、沢田視点であるためか控え目です。何せ怖がりですから、聞く方がキツい領域に行く前に本人が話せなくなるでしょう。
そんなに怖がりの沢田が覚悟を見せるのが意外。
・束縛の強い彼女(リ)
数々の話を見てきて「リメイクで恐ろしさやおぞましさがパワーアップしているなら、彼女の描写はどこまで破壊力を上げてくるんだ?」と冷や冷やしていたのですが、マイルドになっていたのでホッとしました。
・アカガミ呪法
う、うわあぁぁ!
『僕らの都市伝説』の内容にガッツリ踏み込んでる!
桜の話と僕らの都市伝説に出てきた呪いが同じなのはリメイク前からなんですが、ここではっきり分かりますね。
代償……己も呪われることが明言された。
話は短くてあっさりしていますが、最終話なのでここからがメインです。
エンディングに向けて力を溜めている。
ここからはエンディングです。
・END1
王道。怪談を始めようとする時に『誰か』が紛れ込んでいるのはお約束。
猫について喋ったのは三塚かな?
気味が悪くても犠牲者が出なかったのでまだマシです。
・END2・END3
み、三塚ぁぁ!
三塚の人柄や家の様子が掘り下げられたのは嬉しいけど……。
『たとえ死んでも』を経てこのエンディングはつらいです。
四狼が三塚を尊敬していると判明したのがせめてもの救いです。
END3では「四狼って相当強いんじゃないか?」と思いました。
正気を失い殺意に満ちた相手を返り討ちにしたので。
でも四狼が強ければ強いほど酷いことになりそうで嫌。
・END4・END5
三塚と磯之の組み合わせの時は一緒に行くかどうか選択肢があったのに、桜と沢田だと自動的についていくことに笑った。
不安しかないもんな、この二人だと。
強キャラの風格があった桜もやられる。
面白がりながら他人を観察して澄ました態度を取るキャラクターがずっと安全圏にいたらモヤモヤするかもしれませんが、そうはなりませんでした。
全員どこかで被害を受けるので、辛いながらもある種の爽快感があります。
END5はEND4と立場が逆転したように見えますが、取り壊されてもずっと捕らわれるならその方が嫌かもしれません。
その後はさすがに桜も好奇心を抑えるようになったと思いたい。
・END6・END7
描写がマイルドになっていたから油断していました。
リメイク前の印象が強い分死角から刺された……くそっ、やられた!
・END8
桜ぁぁ!
そういう奴だと描かれてきたから納得はするけど勘弁してくれ!
好奇心に仲間を巻き込むのはやめてください。
四狼が何したってんだ。
END4・END5も桜の好奇心でたどり着いたようなものですし、ほんとひどい。
そう考えると桜は話を動かすのに最適なキャラクターですね。
怖がりだから関わろうとしない沢田・磯之、わりと常識的な四狼や優しい三塚には任せられない役回りです。
・END9
何事も起こらず一安心と思いきや……それでも犠牲者は出なかったからセーフ。
END1の『誰か』の正体でしょうね。
意外と爽やかな終わり方です。
ここからは真シナリオとエンド二つ。
「何事も起こらなかったエンドはすでにある。どう展開するんだろう?」と疑問を抱いていました。
まさかそっちに行くとは。
・真シナリオ
またしても『僕らの都市伝説』とガッツリ絡んできました。
本編では語られませんでしたが、実は田畑の妹も名前に『陽』がついています。あの兄妹絡みの要素がここまで含まれているなんて思いませんでした。
太陽の神=光をもたらす恵みの神というイメージですが、この話だと恐ろしさを感じる。近づく者を焼き滅ぼす苛烈な神という感じで。
・END10
この後! この後!
もどかしい。
・END11
こちらだと鶴橋の境遇が語られます。
四狼が踏み込み、手を取った。
よくやった! そのまま走れ!
恐ろしさや後味の悪さが好き・流れが奇麗で好きというエンディングは他にもありますが、「一番この結末になってほしい」というエンディングはこれです。
犠牲者が出ないという点以上に、救われてほしい・幸せになってほしいという気持ちが強い。
最後にキャラクターについて思ったことを述べます。
・猿飛四狼
不良で暴走族だけど意外と常識的な印象を受ける。
序盤とエンディングで四狼視点になる=話を進めるために説明やツッコミがプレイヤーに近くなるためか。
仮に四狼がプレイヤーが全然ついていけないことを考えたり言い出したりしたら、読み進めるのが難しくなりますから。
コーヒーは砂糖入りが好きだったり、動物の感動系の話で涙ぐんだりといった描写も大きい。
喧嘩や暴力などの直接経験したことのない要素よりも、普通の人という印象の方が強くなります。
それゆえか怪異や狂気に呑まれると抗いがたいイメージが……。
実際、主人公ポジションだけど容赦なく死ぬ。
・沢田耕二
ビビり自体は仕方ないけど、隠そうとして変に強がるところは直した方がいいと思う。
墓穴を掘りまくってる。
おまけのキャラクター設定でそこまで怖がっていたのかと驚きました。
素直に怖いと言えよぉ!
・桜風香
リメイクで底知れなさが増した。
話も怖いがお前も怖い。
「こいつ……楽しんでやがる……!」と言いたくなることが多い。好奇心に任せて動くのはいいけど仲間を巻き込むのはやめてくれ。
いい性格している。性格がいいのではなく、いい性格。
近くにいてほしくないが、味があって面白いキャラクター。
飄々としていて強キャラ感が漂いますが、やられる時はやられるので結末を分からなくさせる。
余裕綽々の態度をほとんど崩さず好奇心で人を振り回す……だけだと「何だコイツ」で終わりかねないので、自分もきっちり巻き込まれることで好感度が上がりました。
・三塚典加
語り口も顔つきもお人よし感が増している。
過去が語られたので「不良や暴走族に向いてないよ……」という想いがますます強くなった。
本作のいい話担当です。
そんな三塚も犠牲になるので結末を予想しづらい。
私の中では四狼、桜、三塚が『安全圏は無いと知らしめて結末を読めなくする三銃士』です。
ちなみに、彼女がいることがさらっと判明しました。どんな人物か気になる。
・磯之服部
リメイクで幼く見えるようになりました。
お調子者という印象通りの言動です。
しかし話はしっかり怖い。
沢田と違って素直に怖いと言えるのはいいですね。認めることは大事です。
軽いノリで窓ガラスを割ろうとするので、この作品の中で不良に向いている人材ではないかと思いました。
・鶴橋日向
リメイクで一番驚いたキャラクター。
まさかここまで重要な位置に来るとは……。
兄の存在が気になる。絶対、劇的な物語があるでしょ!
一気に全部のエンディングを見ました。
とても面白かったです。