柔道部物語 感想
あらすじ
高校に入学した主人公の三五十五は、柔道部の先輩の甘い言葉に乗せられて入部することに。
入ってみると……話が違う!?
騙された形になるが、負けん気の強さから退部を選ばず、練習や試合を経て強くなっていく。
こんな方におススメ
・熱いスポーツ漫画を読みたい!
・部活、特に運動部に所属していた方
・時代を感じさせる描写も楽しめる
柔道の知識が無くても大丈夫。
ルールや技に詳しくなくても、すらすら読み進めることができます。
・ストーリー
シンプルにまとめるなら、柔道未経験の主人公が強敵との試合を乗り越えてどんどん強くなっていきます。
高校から柔道を始めた主人公が何年も前から柔道をやってきた生徒達を倒す展開は、一歩間違えれば「何だよ、天才な主人公様がちょっと練習しただけで必死に努力してきた連中を蹴散らすのかよ」と反感を抱かせかねない。
ですが、説得力を感じさせます。
主人公が柔道のセンスに恵まれているのは確かですが、努力が描かれているからです。
学校での練習以外にも長距離をボロボロの自転車で通学し、タイヤを括りつけた丸太を背負い投げの練習台にするなど、強敵を投げ飛ばす華やかな光景の裏には地道な鍛錬と大量の汗が詰まっています。
入学時には線の細かった主人公が三年の夏にはムキムキに。
そこまで鍛えれば強くもなるだろうと思えます。
ストーリーはサクサク進みます。
主人公がスランプに陥る時もありますが、長々と引きずりません。
ダレているなどと一切感じさせずに突き進みます。
時には「そこをすっ飛ばすの!?」と大胆な進行に驚くことも。
他校の生徒の試合や過去等もっと見たいと思いつつ、ギュッと詰め込んだゆえの面白さだとも感じます。
・キャラクター
仲間もライバルも個性派ぞろい。
先輩だけでも、
・豪快でワガママ、ガキ大将が筋肉の鎧を纏った鷲尾
・お調子者で口が上手いが、口先だけではない小柴
・常識的で堅実、上の二人に欠けているものを補う平尾
と挙げられます。
顧問の教師も同様。
・いい加減な性格で腹筋も腕立て伏せもろくにできないが、「柔道が得意」な主人公達の顧問の五十嵐
・今の時代なら体罰で糾弾不可避、理不尽なまでに厳しいが生徒への情もあるライバル校の山崎
・力に溺れた生徒を止められず増長させてしまうが、入院している身で会場に駆けつける鈴木
と、それぞれ特色があります。
完璧な教師はおらず、長所も短所も備えています。
強敵たる他校の生徒達もインパクトたっぷり。
主人公達に敗れた一人一人にも、それぞれの柔道部物語があるのだと思わせます。
特に私が好きなキャラは樋口と西野ですね。
どちらも超えるべき存在……強大な壁として主人公の前に立ちはだかります。
彼らの表情も印象的。
試合中、あるいは試合後に顔が崩れ、ゆがみます。
泣く寸前は顔がくしゃくしゃに。
力んでいる時に澄ました顔なんてできないし、感情がこみ上げて泣くんだから綺麗な表情もできないと言われればその通りです。
・部活の空気
先輩後輩の上下関係。
全然合理的じゃないのに何故か続く伝統。
「汗くせえ道場なんか二度と来るか」などと言っていた先輩が涙ぐむシーンなど、青春模様が描かれます。
「上級生が引退して自分達の天下だと解放感を味わいつつ、一抹の寂しさも」や「引退して練習しなくていいと思うと気が楽だが、物足りなさも感じる」といった心境に覚えがある方も多いのでは?
部活動の熱い面だけでなく、負の側面も描かれています。
先輩からシゴキじみた謎の儀式を強制された主人公達ですが、「自分達の代で断ち切ろう」とはならず、後輩にしっかりやります。
それで新入部員が大幅に減ったので、後輩にもうこんなことはするなと言うのですが、後輩は断る。
自分達がされたから同じようにするという負の連鎖が発動しています。
良くも悪くも柔道「部」の物語です。
・躍動感
魅力を語る上で外せないのは、試合の描写。
ビームやオーラのようなエフェクトは描かれず、スタンドみたいな映像も出ない。
便利で強力な特殊技能を備えていることもない。
得意とする技はあっても、出せば敵が吹き飛ぶ必殺技ではない。
それでも迫力があります。
相手に技を仕掛け、勝負を決める瞬間は手に汗握る。
いくら台詞で「すごい背負い投げだ」「なんてスピードだ」と言われても絵がついてこないと説得力がありませんが、表現しきっています。
一瞬で懐に潜り込んだり、背後に回ったり。
相手を綺麗に回転させたり、締め上げたり。
動きの素早さや力の込め具合がしっかりと描かれています。
一本を取ったシーンは思わず戻って読み返してしまう。
一気に読んでしまうおススメのスポーツ漫画……部活漫画と呼べるかもしれません。
このまま終わるのも物足りないので、もう少し語ります。
ネタバレが含まれるのでたたみます。