探し屋トーコ
ギギ様制作
『探し屋トーコ』の感想です。
「探偵は事件をカッコよく解決するヒーロー」という幻想を抱く学生、坂崎慎吾が、ドライな探偵間宮桃子のもとで働くADV。
こんな方におススメ
・推理ものではなく探偵もののゲームを遊びたい
・暗い描写や重い要素も大丈夫
・探偵が事件を解決した後はどうなるんだろう?
特徴
・推理ものではなく探偵もの
皆さんは「探偵が主人公」と聞いてどんな話を思い浮かべるでしょうか。
複雑なトリックを暴き、犯人を追い詰めるのか。
難解な暗号を解き明かし、財宝を手に入れるのか。
この作品にはそういった内容は含まれておりません。
家出少年の捜索や浮気調査といった地味な依頼を地道にこなしていきます。
殺人事件もありますが、犯人は悪魔じみた冷酷さ・知恵を持つわけではありません。
ものの弾みと言うべきか、間が悪かったというか、いったん道を踏み外してずるずると……という感じですので緻密・周到なトリックはありません。
とはいえ、重い要素・描写が含まれており、スケールが小さく見える依頼も重大な事件だと感じさせます。
・物語
華麗に事件を解決してめでたしめでたしとはいきません。
ハッピーエンドどころか、探偵が依頼を達成することで苦しむ人間がいます。
ですが、桃子は仕事は仕事だと割り切っています。依頼内容に含まれないことには関わらない、利益にならないことはしないというスタンス。
どうなるか予想できても依頼人に調査結果を報告する桃子と、理想と現実のギャップに悩む慎吾の対比が目立ちます。
真相が明らかになって事件が解決したように見えても、被害者や依頼人は幸せになったのか。加害者の家族は。
変わった点、変わらない点も含めて、それぞれの生活が続きます。
後味スッキリとはいきませんが、それでもいいという方におすすめしたい作品です。
・視点
物語は複数のキャラクターの視点から語られます。
桃子ではコマンドを選んで捜査し、高校生の坂崎や他のキャラ視点ではテキストを読み進めていく形になります。
重複する部分もありますが、心境や背景をより詳しく知ることができて楽しい。
ただ、捜査パートがクセモノで、進行が分かりづらい箇所があります。
コマンドを総当たりするのは面倒でした。
歩き回って情報を集める探偵の苦労を体験できると言えるのかもしれません。でもやっぱり分かりにくい。
キャラクターについて
坂崎慎吾:正義感に任せて突っ走り挫折し立ち直るキャラ。
探偵を「華麗に事件を解決する正義のヒーロー」扱いするってどうなんだと思っていたら作中でツッコまれるし、それで己を支えていた部分もあるので納得しました。
彼の甘さや青臭さは好みが分かれるかもしれませんが、そういうキャラがいないと殺伐としてしまう。
間宮桃子:首を突っ込もうとする慎吾と突き放す桃子でバランスが取れています。桃子も徹頭徹尾冷血なわけではなく、情はあるんですよね。
マルガレーテ:細々と依頼をこなしていくのかな……と予想していたプレイヤーをいきなり重い気分にさせる。
半田ひかる:いい子。癒される。
遠山銀二:謎が多い。彼の境遇も気になる。
二ノ宮雅和:「主人公の友人で眼鏡かけてる穏やかそうな男は怪しい……裏で何か企んでるんじゃないか」と思っていましたが、別に主人公に悪意を抱いてはいない。ごめん。
あと地味だと思ってました。ごめん。
片桐修:この作品の清涼剤。頼りないが何だかんだで助けてくれる。
特に印象に残ったのは6話に登場するキャラと、最終話の犯人……ラスボスです。
ラスボスの方は犯行動機を語るところで、顔芸しながらノリノリで喋る姿を見て「こんな典型的なヒャッハーキャラだったのか……」「最初からぶっ飛んだ野郎だったか」とガッカリしました。
しかし、その後内面が掘り下げられて、そうではなかったと知って安堵しました。
ラスボスはクズだと自覚しているし、その通りのことをやらかしたわけですが、「酷い目に遭っても道を踏み外さない人もいる」「一件目はともかく、二件目は擁護の余地なし」というのは大前提でちょっと同情してしまう。
過去がマルガレーテとは別方向に重いので。
直接暴力を振るわれることこそなかったものの、虐待だろ……。
最終的に、憎みながらも拠り所になっていた父親からあの扱いなのが酷い。
慎吾が仮面を見抜き、友人でいてくれるのが唯一の光と言っていいのかどうか。
一番印象に残ったのは6話の人です。
「平凡で善良そうだから裏がありそう!」と安直に疑いましたが、家族を愛する人でした。勝手に決めつけてすみません。
そんな平凡で善良で家族を愛する一般人だからこそ、復讐に全てを捧げる覚悟とその裏の絶望が際立つ。
ここからはネタバレになるのでたたみます。