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ひよこの足跡ブログ

漫画やゲームなどの感想を書いています。 ネタバレが含まれることもありますので、ご注意ください。

Sorge il sole 第四話

第四話 招待状



  暗い世界の片隅で竜が咆哮した。
 魔界の奥地に封印され石と化していては、不死の魂を持つ彼といえども蘇ることはできない。
 彼は、竜の騎士バランとの闘いに敗れたところを天界の精霊に封じられ、今まで動けなかった。
 自分の身体一つ動かせぬ苛立ちが、大空を飛翔できぬ悔しさが、他の勢力が世界を手にしようとしているのに何もできぬ焦りが、竜の意識を苛んでいる。
 戦いたい。
 力強く翼を動かし、空を翔けたい。
 世界を支配したい。
 荒々しい叫びを上げた竜は、突然戒めが緩んだため戸惑いの声を漏らした。
 動けぬ状態で情勢を窺っていたが、自分の封印が解けるような出来事――大魔王が天界に攻め込むといった事態はまだ起こっていない。
「どういうことだ?」
 困惑を助長するように、身体が軽くなる。
(これは……!)
 天界の住人は故意に封印を解こうとしている。
 魂に干渉する力が波のように押し寄せ、彼の自我を消し去ろうとする。眠りにさらわれるかのような心地よい感覚の中で、彼は相手の目的を悟った。
 手駒として利用するつもりだ。
 長い年月を経て蘇るはずの身体が、すでに形成されつつある。相手が復活を促す力を送っているのだろう。
 その代償に、魂に鎖が巻きつき、意識を閉ざしていく。
 身体を縛られただけの状態ならば、封印が解かれると同時に抵抗できた。だが、魂が剥き出しになった無防備な存在では直接力を受けてしまう。相手も竜の置かれた状況を狙って駒にすることを決めたに違いない。
 干渉に抵抗する中で、竜の脳裏に宿敵の顔が浮かんだ。
(奴と戦わせるつもりか……!)
 元は対立する陣営の長同士であり、現在も敵意は消えていない。そこに付け込み利用する意図があるのだろう。敵意を燃やす相手の方が、洗脳された状態でも力を発揮しやすいはずだ。
 意識が消え去る直前、竜は笑った。
「貴様らの思い通りになるものか!」
 自身を指しているのか、宿敵のことか。
 封印を解いた者が確かめるより先に、竜の意識は闇に飲み込まれた。

 天使の襲撃があったが、被害は予想に反して少なかった。
 魔法は通じにくくても直接破壊できることがわかったため、勇者以外の者でも対抗できる。
 襲撃後、神々の宣告を伝えられ動揺したものの、国民は深く絶望したわけではない。特別な能力を持たない者もそれなりに戦えるのだ。希望的観測に笑みを浮かべる者すらいた。
 現状を憂いている者ももちろんいる。ダイやアバン、ポップらだ。
 あまりにも手ごたえがなさすぎる。あくまで偵察で、本隊はもっと数が多く、強く、行動が複雑なのかもしれない。意思を持たぬ機械仕掛けの人形では、使い捨てにすると言っているようなものだ。
 もう一つ気になったのは、天使の置き土産だ。砕かれた彼らの体には虹色の水晶が埋め込まれていた。握り拳よりも少し小さく、弓の紋様が浮かんでおり、危険を承知で破壊しようと思ってもできないため慎重に研究が続けられている。黒の核晶のように爆発しては大変だ。
 ダイやマァム達は戦闘の準備や遺跡調査に走り回り、ポップはアバンとともに古文書などから情報を収集している。メドローアを除く単純な攻撃呪文が効きにくい場合、他の呪文を覚えておけばダイのサポートができる。天界についての知識が手に入れば、どこかで役に立つかもしれない。
 天界についての記述を見つけたポップは声に出して呟いた。どこまで信用できるかわからないが、無いよりはマシだろう。
「天界の住人は主に精霊と呼ばれる者で、戦う力は弱いが封印など不思議な力に長けている……か」
 その代わりに機械仕掛けの天使を作り、直接的な戦闘にも対応できるようにしているのだろう。
 書物によると、少数とはいえ高い戦闘能力を持つ者もいるらしい。そのような者達は守護天使と呼ばれているようだ。
 神の力が衰えていることも書いてあったため、一同はほっと胸をなでおろした。
 バーンが神をも超える力を持つと言われたのは、彼自身が強いだけでなく神々の弱体化も含まれている。竜の騎士や神の涙が遺産と称されたのも、力が落ちたためだろう。
(それにしても、神様が世界を破滅させようとしているのを精霊はどう思ってるんだか)
 主には絶対服従なのか。愚行を苦々しく思っているのか。それとも、何も知らないまま日々の生活を営んでいるのか。
 もしそうならば納得できない。勝手な行動をとる神々にも、安穏とした生活を送る天界の住人にも。
 そこまで考え、ポップは暗い気持ちになった。魔界で生きる者達もこのような心境かもしれない。

 頭を悩ませながら読書に没頭していたポップは、突然の大声に思わず机に突っ伏してしまった。
「た、大変です!」
 見張りの兵士の慌てた声に、彼は半ばやけくそになって叫んだ。
「なんだよ、まさか天使の次は神様でも攻めてきたってのか!?」
「……紙です」
「え?」
 兵士達は腕に紙片を山ほど抱えている。全て同じ外見の、華美な封筒だ。
「空から大量に降ってきて……天界からのようです」
 その場にいる全員の顔が困惑にゆがんだ。ポップが試しに一通取り上げ、恐る恐る開けてみる。
「何が書いてあるんだ? えーと」

『先日は天使撃退御苦労であった。あの程度で世界を滅ぼそうなどとは思っていないから安心したまえ。
 本日この手紙を差し上げたのは君達を天界にご招待したいからだ。
 招待する相手はこちらで決めさせていただく。あまり大勢来られても満足なもてなしはできまい。
 以下の者はぜひとも天界へ。
 勇者ダイ
 大魔道士ポップ
 兵士ヒム
 陸戦騎ラーハルト
 目立つように天への道を作るから、そこに向かうように。
 それでは、会える事を楽しみにしている。
 皆の太陽 人間の神キアロより』

 ポップの朗読に反応はない。冗談としか思えない文面に沈黙するしかない。
 皆の太陽という箇所には打ち消すかのように線が引かれている。それだけでも目立つが、線の数が多い。塗りつぶしそうな勢いで書き殴られている。他が綺麗な文字で綴られているため、そこだけ異彩を放っている。
 さらにポップは紙の隅に小さく書かれている文章を発見して、それも読み上げた。
『無視しないよう大量に送ったのは申し訳ない。内容は全て同じだから、一通でも読めば大丈夫だ』
 気まずい空気が流れる中、ポップは体を震わせながら全力で叫んだ。
「いったい何のつもりなんだよ……嫌がらせかよ!?」
 相手が「はい」と言うまで同じ台詞を延々繰り返すような行為だ。あまりの迷惑さに頭痛を覚え、ポップは悶えた。
 殺される可能性が高いのに指示に従うなど冗談ではない。
 罠に決まってる、と吐き捨てて手紙を握りつぶそうとしたが、それを嘲笑うかのような文章も載っている。
『追伸 門を開けるのは期間限定だよ。滅びたければ無視すればいい』
「選択肢は無いってことか……!」
 ポップはこみ上げる怒りにまかせて、手紙を燃やした。

 招待に応じるしかないため、ポップは再び古文書含む書物の山に埋没していた。次々と本を引っ張り出しては紙面に顔をうずめるようにして悪戦苦闘している。
「え~と、この呪文役に立ちそうだし、おれにもなんとか使えないかな。……まったく、なーにが皆の太陽、だ。馬鹿にしやがって」
 取り上げた本の表紙にちょうど太陽が描かれていたため、ポップは乱暴に机に叩きつけた。
 アバンが「書物に当たってはいけませんよ」とたしなめつつ取り上げ、ざっと目を通す。
「なかなか興味深いことも書いてあります。防御力を高めたり速度を向上させたりする補助呪文や、その反対呪文が存在するんですね。現在では使われていませんが、使えたら便利でしょうねえ」
 防御を高めるスカラやスクルトに対し、ルカニ、ルカナン。速度を上げるピオリムに対するボミオスなどがあるらしい。
「……先生楽しそうっすね」
 活き活きと語るアバンにつられて、ポップも紙面をのぞき込む。乱雑な扱いから一転、慎重にページをめくろうとしたところでアバンが苦笑する。
「太陽と……補助呪文について書いてありますが、我々が使うのは難しいようです」
「へっ? 補助呪文がもし使えるなら役に立つじゃないですか。何とかして覚えたいですよ」
 アバンの眼鏡がキラリと光った。
「代償や生贄という単語が出てきますからやめておいた方が無難でしょう。使われなくなった理由もそこにあると思いますよ」
 ポップは唾を飲み込み頷いた。便利で強力な呪文が簡単に見つかるはずもない。何のリスクもなければ、現在も使われているはずだ。
「ダイの力になりたいってのに、このままじゃ――」
 拳を握りしめ、机を叩く。
 苛立つポップの姿に、休憩を促しにきたメルルは目を伏せた。
 大切な者の役に立てないもどかしさは彼女も味わっている。常人には見えぬものを見る力を役立てる時だというのに、能力は沈黙している。

 しばらく続いた平穏は、再度叫び声で破られた。
 本を枕に眠りの世界へ旅立っていたポップは乱暴に現実に引きずり戻され、よだれを拭きつつ叫んだ。
「今度は何だよ!?」
「破邪の洞窟に異変が起こったそうです!」
 光の柱のようなものが立ち上ったという。そこから天界に行けるのだろう。
 招待された者達はアバンとともに破邪の洞窟へ向かった。
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