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ひよこの足跡ブログ

漫画やゲームなどの感想を書いています。 ネタバレが含まれることもありますので、ご注意ください。

からくりサーカス感想 1

からくりサーカス感想 1



父の遺産目当てに狙われる少年才賀勝と、誰かを笑わせないといけない病気――ゾナハ病にかかった加藤鳴海、そして勝を護る謎の美女しろがね。
三人が出会ったことで運命の歯車が回り始める。

序章とは思えない密度と展開です。
まず思ったのは、鳴海が18に見えない。
この頃の鳴海は、拳法を使う以外はただの気のいい兄ちゃんという感じでした。
そう、ただのお人よし。通りすがりの。壮大な宿命とは無縁であるはずだった。
自分ひとりで死ねばよかったと詫びる勝を叩いて力づける。この時の笑顔が力強い。
「あがいてあがいてダメだったらそん時ゃ……にっこり、笑うしかねえけどよ」
笑顔があったけえ……。

ピンチの時にしろがね登場。
彼女は人形であることから脱却したくて、勝を守るためにやってきました。
勝の祖父、正二との会話は初見では心温まるシーンです。
思わず笑みが漏れる……けど読み返すと笑顔が引きつる。
いい話だなーと思わせる回想がおぞましいものに早変わり。
彼女はあるるかんで敵の人形を蹴散らし、勝は自分が守るから安全な日常に戻るよう鳴海に告げる。
従おうとする鳴海だが、これから先、敵は小さい子まで巻き込むかもしれない。
それを知っていながら他人を笑わせていられるのか。こんなことが続けば、笑ってくれる人間がいなくなるのではないか。
笑う。
『からくりサーカス』のテーマの一つは、「笑顔」だと思います。

怪我した勝のために奮闘する二人が頼もしい。
勝が「一人にしないで。お兄ちゃん」と縋るシーンは、記憶の旅やラスト付近でよみがえってきます。アイツも同じ気持ちだったんだろうな。
母の墓を作ってあげたいと語る勝に涙ぐむ鳴海、いい兄貴分です。
ロールキャベツを切ってあげたり、口の汚れをふいたり、かいがいしく世話を焼く。
兄弟みたいだ。
この作品では「兄弟」はとても重要な関係です。
勝に料理をほめられた時のしろがねが可愛い。
入浴シーンでは堂々と裸体を披露。間違えて入った鳴海もびっくりしますって。

いじめられて泣いてばかりだと明かした勝に鳴海は自分のアルバムを見せる。
他人を励ますために恥ずかしい過去の姿を見せるなんて勇気あるなぁ。
自分も強くなれるか尋ねた勝に、「ああ、オレよか強くなれるぜ」と頼もしく言いきる鳴海。
この台詞が後々活きる。

穏やかな時間も長くは続かず、襲撃され、立ち向かう二人は勝に逃げろと叫ぶ。
勝は……逃げる。
今まで泣いてばかりだった子供が簡単に勇気を発揮できるはずがない。
しかし、すぐに捕まり浚われる。

遺産目当てに誘拐した善治の顔は金の亡者そのもの。清々しいほどの悪党面だなー。
敵か味方か迷わなくて済むのでありがたい。
さらに、勝の父の貞義が勝に莫大な財産を与えたのは、争わせるエサにするためだったと判明。
ろくな連中いないな!
右も左も外道だらけの中で助けにきた鳴海の姿にスカッとします。しろがねも同様。
罠にはまり、勝を助けるため先に行くよう告げたしろがねに人形みたいで反吐が出ると叫ぶ。
「自分の命が惜しくねえヤツにゃ、他人の命の重さなんぞ、絶対わからねえからよ!」
他人を助けるために命を懸ける鳴海にしても、死ぬのが怖くないとか自分の命がどうでもいいとか思っているわけじゃないんですよね。
それなのに自分を大事にしなさすぎですが。

発作が起こった鳴海が、しろがねに笑えないと確信させて進ませようとする。
「おまえはオレの女になる」
「ああ……それは……笑えないな」
と答えるしろがねがきれいだ。
この台詞が実現する。
人形であることから脱したいと思っているしろがねにとって、鳴海が人形じゃないと言ってくれたのはとても大きかったんだろうな。
二人がいちゃいちゃしてる光景をラスボスに見せたい。
「もうこれ以上はないと思っていたおじいさまのことば……それよりもっとあたたかいものがあなたの腕から流れてくるから」
という台詞を見た時は、そんなに鳴海の言葉が心に響いたのかと驚きました。
読み返すとそりゃそうだとしか言えない。回想の正二がアレなので。

鳴海に憧れた勝も生まれ変わる決意を固める。
腕を縛られ痛めつけられた状態で、自由になるために塔から飛び降りる!
「いつも笑える、ぼくになる!」
弱かった少年が勇気を武器に立ち上がる!
ここは何度見ても胸が熱くなります。
逃げる、逃げないの二択で「逃げない」を選び、それが「闘う」に変化した時にはしびれた。
「立てえ、あるるかん」にも。
勝を助けてくれと鳴海から10円で頼まれ、承諾する阿紫花もナイス。

発作が起こってしまった鳴海のためにしろがねは笑おうとしますが、笑えない。
必死で叫び、詫びる彼女に対し、鳴海は苦しみをこらえて明るく笑ってみせる。
彼の笑顔が人形のようだったしろがねを人間にした。
しかし、この後彼の方は心を凍らせ人形を破壊する人形へと近づいていく。対照的です。

鳴海は勝を助けるために炎の中に飛び込み、崩れ落ちる建物の破片を背に浴びながら、勝を抱きしめて守り抜く。
「何かあったら心で考えろ。今はどうするべきかってな」
「笑うべきだとわかった時は泣くべきじゃないぜ。な、勝」
己を抱く左腕を見つめ、助かったと喜びながら勝が振り返った先には――誰もいなかった。
左腕だけを残し、鳴海は舞台から去ってしまった。
見開きの衝撃的な絵を忘れられません。
勝の表情と読者の心境がシンクロしています。
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