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ひよこの足跡ブログ

漫画やゲームなどの感想を書いています。 ネタバレが含まれることもありますので、ご注意ください。

からくりサーカス感想 6

からくりサーカス感想 6



ルシールの復讐劇を「しろがね」達も読者も見守るしかない。

立ち上がることだけできたドットーレを言葉で散々いたぶり、サーベルで服を切り裂き、朗らかに笑う挑発のレベルの高さ、見習いたい。
最古を破壊する好機ですが、「しろがね」達はルシールだけの戦いであることを感じ、手を出さない。
ルシールのやり方は合理的でも効率的でもないけれど、そんなことは百も承知のはず。
ドットーレをただ壊しても彼女の復讐は完成しない。「フランシーヌ様への忠誠を貫いて破壊された人形」となり、ドットーレにとって大事なものは無事なまま終わります。
それに、修理されたら復活してしまう。
深く絶望しながら完全に壊れてこそ意味がある。

「フランシーヌなど自分に関係無い」と思えば、偽物の人形の命令に縛られず、自由に動けるようになる。
だが、フランシーヌ人形を笑わせるために生まれた自動人形にとって、それは自分の存在理由を否定することに他ならない。
己を案じるミンシアにルシールは娘の姿を重ねる。
体内に柔らかい石を入れられ、自動人形をおびき寄せるエサにさせられ、ずっと戦い続けたアンジェリーナ。
実の娘の背負った過酷な運命を知りながらルシールは厳しく接していた。
ミンシアに「お前は私のことを嫌いなはずさ」と言うルシールは、まるで娘に語りかけているかのようです。
(私を嫌っておくれ。アンジェリーナ)
という独白がもう……。
ミンシアは涙をこぼしながら「キライなわけないでしょ、クソババア!」と叫び、死なないでと懇願。
ここまで感情のこもった「クソババア」は初めて見た。

それを聞いたルシールは迷いが晴れたように顔を上げ、言葉を叩きつける。
とうとうドットーレの怒りが頂点に達し、フランシーヌなど己に関係無いと叫んでルシールに致命傷を与えた。
あと一息で殺せる位置にいたから、彼女が己の命を懸けたからこそ、ドットーレが動けてしまったのだと思います。
己を闇色の血が流れていると評し、人間らしさなどまるで無いと考えていた彼女ですが、溢れたのは、熱く温かい真紅の血でした。
得意げなドットーレの頬に手を当て、お馬鹿さん呼ばわりするルシールが素敵。
頬に手を添える光景が何故か好きなんですよね。優しい手つきでドキッとする。
存在理由を棄ててしまったドットーレは自壊。
ルシールは絶望という人間の心を最期の贈り物として渡した。
相手の最も大事なものを完全に破壊する。それも、自らの手で放棄させる。
最高に残酷な復讐です。

夢か現かわからぬ世界で、ルシールが瞳を見せて鳴海に微笑み、その後ろに昔の姿が映る。
Au revoir、ルシール。
最古のしろがね、ルシール・ベルヌイユ、退場。
退場が惜しまれますが、命を燃やし眩しく生き切った。十分すぎるほど生き様が描かれた。
彼女の復讐劇は物語を最高に盛り上げてくれました。

ドットーレも見事な悪役・憎まれ役を演じきってくれた。
格下とは思わないので、彼を除け者にして最古の三人扱いされるとモヤっとする。
ルシールの子の命を奪ったのがドットーレだったからああなったものの、仮にパンタローネがやっていたらあんな風に壊れるのはパンタローネだったはず。
半端な敵ではルシールの相手役は務まらない。命懸けの復讐劇が盛り上がりません。
ルシールという女優を輝かせたのは彼の働きあってこそです。
四人の中で最も早く人間の感情を知ったのはドットーレであり、人形の宿命から解放されたと言えるかもしれません。

瀕死の鳴海をかつぎ、
「この男を死なせたくない!」
「おう、死なせるものか!」
と叫ぶロッケンフィールドとティンババティが熱い。
しかし、血を流しすぎた鳴海の体は石化が始まり、右腕と両足が粉々に砕け散ってしまった。完全に失い、もう二度と戻らない。
主人公がどん底まで叩き落とされ、重要人物でも容赦なく退場しますから、緊張感が半端ない。その分物語に引き込まれ、逆転のカタルシスも大きくなります。
重傷を負っていたダールは鳴海に輸血した後、自動人形の集団に突撃し、自爆。
「ナルミ……生きろよ。生き残りやがれ!」と願いながら。
懐から落ちた小さな靴は昔死んでしまった息子のものでしょう。ずっと持ち歩いていたのか……。

ティンババティはロッケンフィールドに鳴海を助けに行くよう告げますが、彼はティンババティの手助けをする。
理由を訊かれるが、答えは単純。
「人間は、イヤな時にはワケは不要らしいよ」
ロッケンフィールドの助けによってコロンビーヌに最後の技を食らわせたティンババティは、頭を真っ二つにされて果てる。
「あんなに気持ちのいい腕ずもうは、初めてだったな……今度は負けないぞ」と呟いて。
仲間が次々に退場していく……。
キャラクターが死ぬから感動するのではなく、生き抜いた結果として去っていくから心を打つ。
できれば仲間達の過去を詳しく知りたかった。

手足を失った鳴海のためにトーアは仲間のマリオネットの手足を接続。
鳴海を救おうとする中で忌まわしい過去の自分を消すことができ、ロッケンフィールドに後を託して絶命する。
彼の最期を見たミンシアの台詞が心を打ちます。
「しろがねなんてバカよ……始めは人間じゃないような顔してさァ……最後にみんな……自分が最初っから、人間だったってことに気づくんじゃない」
この台詞で、純粋な人間であるミンシアの参戦がしっくりきました。

ようやくパンタローネとアルレッキーノも動けるようになり、ルシールの用意した人形を破壊。
レーザーが撃ち込まれる前にフランシーヌ人形を連れて去ろうとします。
命を捨てる気がない阿紫花は軽い態度のままですが、パンタローネから「どけ」と命じられ、恐怖のあまり従ってしまう。
命じられて従うなんて、人形と変わらない。
面白くなさそうな顔をしていますね。

ファティマは愛する鳴海を守るため、パンタローネとアルレッキーノ相手に諦めずに戦い続ける。
アルレッキーノが敬意を表して名を聞き、パンタローネも彼女の名を覚える。いいなあ、こういう悪役。
ロッケンフィールドも鳴海を庇い腕を斬り落とされる。
もう駄目だと思ってしまう絶望と緊迫感。
「起きてよ鳴海!」
というミンシアの叫びに共感。
ファティマが殺されそうになった瞬間、鳴海が涙を流しながら身を起こす!

鳴海はロッケンフィールドさんを固く抱きしめて告げる。
この手足は人形の手足なんかじゃない、皆の「心」そのものだと。
だから、彼はこう叫ぶ。
「行くぜみんな!」
髪がほぼ銀色になった鳴海は列車をぶち抜き最古の二人のもとへ!
仲間たちの想いを背負って強くなった彼は今までとは違う。
余裕すら漂わせています。
「一秒で死ね」
と叫ぶパンタローネが好きですが、繰り出された凄まじい速度の攻撃をあっさり見切り、
「遅く……なってやしないか、パンタローネ」
と告げる鳴海はさらに威厳溢れている。
大物感漂う敵を圧倒する主人公側はいっそう輝いて見える。
「たかだか二百年の歴史で何の不敗を誇る、パンタローネ。人間はその十倍……戦うことを研鑽してきたんだぞ」
震えるほどカッコいい。
鳴海の勇姿をダイ大のミストバーンが見ればどう反応するか知りたい。こういう人物大好きだろ。
頭部を蹴り砕き、「おやすみパンタローネ」でしめる姿は頼もしい。

残る最古はアルレッキーノ一人。
鳴海に向かって「私は君を好きだったのだよ」と語る彼。
かよわい人間が作り上げ継承してきた格闘技とそれを使う鳴海に、はかない人間の美しさを感じ、敬意すら覚えた。
だが、髪もほぼ銀色の完全なしろがねになったことに失望した。
「死なずに破壊のみを目指す生物が、地上にいるか!? しろがねはこの地球に現れた、もっとも醜く唾棄すべき生物なのだ!」
死なずに破壊のみを振りまくのは自動人形も同じでは?
「私が浄化してやろう。さらば、醜悪になりしナルミよ」
共感できるかどうかはさておき、信念を感じさせます。
信念ならば鳴海も持っている。
「死ぬから人間はきれいなんじゃねえ! 死ぬほどの目にあってもまだ自分が生きているってコトを思い出してにっこり笑えるから、人間はきれいなのさ」
両者の距離が縮まり、手が動く。
 瞬斬。
アルレッキーノを一撃で……!
全盛期の最古を一蹴するなんて強すぎる。
ここまで急激に強くなったことが自然に受け止められるのは、本当に崖っぷちまで追い込まれ、「鳴海が立たなければ誰が戦う!?」と思えたから。仲間たちが命とともに託したものを受け取ったのだから、都合のいい覚醒や奇跡に頼っている印象は受けず、一気に逆転する快感が大きくなる。

アルレッキーノを真っ二つに切り裂いた鳴海はフランシーヌ人形へ近づいていく。
これで全ては終わる。
刃を振りかざした瞬間、残酷な事実が明かされる。
漫画を読んできた中で一、二位を争うほどに絶望したかもしれません。白面の者が復活した時の絶望感を思い出します。
ここにいる人形は、フランシーヌ人形によって造られた。
本物のフランシーヌ人形は笑えないことに「疲れて」いずこかへ去り、ゾナハ病の止め方も謎のまま。
鳴海は本物のフランシーヌ人形の行方を聞き出そうとしますが、偽物の人形は停止。
多くの仲間が血を流し、身を削り、犠牲となった戦いに意味などなかった。
鳴海は顔をゆがませ、行き場のない思いを叩きつけるようにして首をはねる。
フランシーヌ人形が壊されたことに満足げに微笑むファティマは、微笑みながら石と化し、最期を迎えます。
鳴海は真実を告げられず……。

レーザーの雨から逃れるためにコンテナに乗り込むことになるのですが、定員は二名。ミンシアを気絶させて運びこみ、残っているのは一人分。
自分が残ると言ったロッケンフィールドに鳴海がくってかかります。
しかし、ロッケンフィールドは闘の反動で動けなくなった鳴海を運ぶ。
「君が死ぬのが……イヤなんだよ。イヤな時は……ワケなんて言わなくていいんだろう?」
自分の言葉がこんな風に使われたらいっそう辛いだろうな。
「お願いだ。リッチーの劇は、あんたが見てくれよう~!」
最古を蹴散らした勇猛な戦士が、懇願しながら子供のように涙を流す。
卑怯だ。
ロッケンフィールドさんの男気と相まって、泣くしかないじゃないか。
生き残るための席を鳴海に譲り、穏やかな微笑とともに送り出すロッケンフィールドは強い。
本物のフランシーヌ人形を壊せなかったことを薄々察しながらも、鳴海に重荷を背負わせないために知らないふりをして、自由に生きるよう告げる。
背負い込む性格を知っているからこそ言わずにはいられなかったんでしょうね。
その危惧は的中し、仲間たちから生命を譲られ生き延びた鳴海は、一人で重い物を抱え込むこととなります。

コンテナを発射するボタンを手に、ロッケンフィールドは空を見上げて呟く。
「しろがね最後の一発は、星空に向けてだ……ロマンチックな父さんだろう、メアリ、アル、リッチー」
待っている家族がいるのに、若者のために生命を譲ったロッケンフィールドさん。
どこまでも穏やかな笑顔がかえって胸をえぐります。
脱出し、絶望の淵に叩き落とされた鳴海の表情はただただ痛々しい。

『しろがねと自動人形の最終戦終結。この戦いにより双方は地上から消滅した』というナレーションが重い。
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