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ひよこの足跡ブログ

漫画やゲームなどの感想を書いています。 ネタバレが含まれることもありますので、ご注意ください。

からくりサーカス感想 7

からくりサーカス感想 7



凄まじい盛り上がりを見せたからくり最終幕から幕間を経て、勝は真実を知るために動き出します。
何故自分一人に父は財産を遺したのか。
全てが始まった場所を訪れた勝に衝撃的な言葉が突きつけられます。
『おまえは才賀勝では、ない』から、『父さんはおまえを誇りに思うよ』までの台詞に震えました。
自分の意識が消され、乗っ取られることへの恐怖が伝わってきます。
貞義にとって勝は「誇り」ですね。都合のいい器という意味で。
乗っ取る側の禍々しさや被害者の恐怖などが描かれているので「許せん! 外道め!」と感情移入できます。
……後でわざと乗っ取らせて撃退する展開がありそうだと思いました。

回想で登場した勝の祖父、正二と対面。
正二は貞義が勝になりかわっていると思いこみ、憎悪の目を向けてきます。
大好きな爺ちゃんから「おまえは勝ではない、貞義だ!」と言われ、演技に決まっていると決めつけられた子供の気持ちを考えるとやるせない。
自分の行いの重さを知ってから死ねと言われた勝は、正二の記憶を体験することに。
正二――正二郎と白銀の出会い。
次に、アンジェリーナとの出会い。
彼女は後に母性を発揮するようになりますが、この時点では精神的に脆い部分があります。
正二との出会いで変化し、たくましく成長したのが感じられます。
永劫の時を共に歩く相手がいた。それが彼女を力づけた。

今度は正二と貞義、アンジェリーナとギイ、そしてフランシーヌ人形の関わる記憶の旅へ。
爽やか好青年のディーンと、真夜中のサーカスからこっそり姿を消したフランシーヌ人形が登場。
金から捨てられた彼女の表情が苦しげで、見ていられない。
首を絞められ、人形らしく整った顔がゆがみまくりです。
「私が笑えないのがお気に召さないのであれば、私は笑うことを学びますから」
横たわり雨に打たれる彼女の姿は悲しい。
フランシーヌ人形も可哀想だ。
彼女のせいでゾナハ病に苦しむ者達が生まれたわけですが、人形である彼女に人間にとっての善悪を判断しろというのも酷な話です。
彼女にとっては「造物主の心にそうこと」が最優先で、造物主たる金は彼女の考え方をクローグ村の虐殺などで誤った方向へ進めてしまった。
人間が体内から生まれることや自動人形に比べると成人までに遥かに時間がかかることを知らず、人間に対する知識はゼロに近かったわけですから。
自分が笑うためだけに人間を苦しめ、今度は真夜中のサーカスも止めないまま壊されることを望むのは勝手な話ですが、そんなことは彼女は考えられないんですよね。

ギイvsアンジェリーナは燃えます。
「頭から落ちたよ!」「動けなくしてやる」などと言うギイは台詞も表情も悪役のそれ。
己を捨てた母親に対する憎悪を、アンジェリーナにぶつけているように見える。
アンジェリーナはお腹の赤子を庇い、太ももを切られたり顔面から地面に落下したり……本当に体を張る。
「一世紀ほど早かったわね、坊や」には痺れました。母は強し。
自分を痛めつけたギイを助け、温かく接し、心の氷を溶かす。
敵のリーダーであったフランシーヌ人形を信用し、大切な者を託す。
度胸と根性があります。

「人間は……人間を自分の体内で創り出すのですか!」と驚いているフランシーヌ人形はちょっとズレてる。
素直じゃない言い方で火から遠ざけたり上着をかけたり赤ん坊の世話を焼くギイも。
エレオノールに指を握られた、汽車のおもちゃを作った、おむつを取り替えた、パウダーをつけてやったと張り合う二人。子供か。
登場したばかりの頃は無機質だったフランシーヌ人形が次第に柔らかい表情を浮かべるように。

フランシーヌ人形の命令が通じない自動人形の集団が襲ってきた時、彼女はエレオノールを任されます。
「この子だけは私が、守ってみせる!」
と決意するフランシーヌ人形の表情が勇ましい。
敵から逃れる中で彼女は自分や造物主のしたことの恐ろしさや重さを噛み締め、間違いだったと悟る。
彼女の考えや言葉を最古達に聞かせてやりたい。
彼女がこの場を切り抜けたら真夜中のサーカスを止めに行ったかもしれない。
赤ちゃんを守るためにボロボロの身体で必死で走り、井戸に落ちた時も彼女の身を案じ、子守歌を歌う。
泣きやませようと「べろべろばあ」をするおどけた顔は、もはや人形の無機質な面ではありません。
恐ろしい人形である自分に笑ってくれたことにフランシーヌ人形は驚愕し、もう一度。

「べろべろ……」
「ばあ……」

鳥肌が立った。
一言で表すならば、美しい。
最古の四人がこの場にいれば、と思いました。アルレッキーノやパンタローネが切望した表情が浮かんでいます。
造物主のために表情を動かすのではなく、大切な誰かのために自然と「笑う」ことができた。
笑えないことに絶望していた人形は最期に笑えた。
自分が溶けて消えそうになりながらも満ち足りた笑みを浮かべ、赤子を守って最期を迎えた。
フランシーヌ人形が笑うことはぼんやり予想していたはずなのに、「無知だったゆえに一方的には責められないけど、多くの人間を苦しめた。いいやつみたいな描写されたって感動は……」と思っていたはずなのに……!

見事な散り際の多い藤田和日郎作品の中でも最高級の退場の仕方。
「微笑」という題名に全てが込められており、これ以外考えられません。
無邪気に笑う赤ん坊を見て白面の者の最期を思い出しました。
満足する死とは何か、別の形で魅力的に描き切っています。
『からくりサーカス』には素晴らしい笑顔が多いですが、ひときわ輝いています。
ヒョウさんや白面のゆがんだ笑みを描いた人物と同じとは思えない。むしろ、暗い感情やそこから生じる表情の凄まじさがあるからこそ、明るい顔がいっそう輝くのかもしれません。
戦闘シーンの「激」「動」も見事ですが、「静」の絵も素晴らしい。
思い出すだけで鳥肌が立ち涙ぐむシーンは初めてかもしれません。
単純に「一番泣いた、感動した漫画は?」と訊かれれば「からくりサーカス!」と答えるしかない。
退場させるべき時にきちんと退場させる。その代わり、魅力を最大限に引き出し、物語を盛り上げる。
死んでほしくないキャラクターが命を落とすのは読んでいて辛いですが、強引に生き延びて展開に無理が生じるよりは、物語が面白くなる方がずっといい。

見事に生き切ったのはアンジェリーナも同様。
ギイを庇い致命傷を負った彼女は、ようやく「ママン」と呼んでくれたことを喜び、エレオノールのことを頼み、最期の一瞬までギイを守り、逝く。
大切な女性の死を背負ったギイが進化。
二百体の人形を一瞬で壊した人形破壊者が誕生。
ここまでカッコいい「ママン!」は聞いたことがない。
今までただのマザコンだと思っていたのが申し訳ない。彼の想いを見た後に今までの「ママン~」を読み返すと心が痛くなります。

正二とアンジェリーナが出会う前からずっと彼女を愛していたと語る貞義の顔の歪みっぷりが半端無い。
「日本なんぞという小島の、未開のサルのつれあいになっていたとさァ! 笑っちゃうよなァア!」
うひいい。
自分を選ばなかったから手のひらを返し、用は無いとアンジェリーナを殺そうとした。
そこで相手を祝福して幸せを願えない性根だから上手くいかないのでは。
転送まで三年かかるという説明台詞には笑ってしまいました。

時と場所が移り、再び正二対貞義。高速道路での戦いは熱い。
まさか高速道路を舞台とするとは、ここまで熱い戦いが繰り広げられるとは思いませんでした。
一巻で軽く説明された状況にこのような背景が隠されていたと思うと感嘆するしかありません。
記憶の旅から戻り、多くの謎が解けた勝ですが、ギイがアンジェリーナの仇を討つため殺そうとします。
怖いよママン。
普段のクールさなんて欠片もなく、復讐の念が剥き出しになってる。

殺されかけた時、勝に送られた「誰か」の記憶が蘇る。
こんなにどす黒い微笑を浮かべる少年が主人公なのか。
勝の口から金の記憶が語られる。
兄が大好きだったと語り、好きになった順番ではなく相手の気持ちこそが大事だと自分で気づくあたりはいいのですが、最悪のタイミングで二人が結ばれる瞬間を見てしまった。
力ずくでフランシーヌをさらうわ、彼女が逃げ出そうとしたら何度も殴るわ……顔面がはれ上がり、形が変わるくらい殴るなんて最低最悪の男だ。
こんなので愛してるとか言うなよ。
同情したのが間違っていた。

黒幕が現れ、正体を暴露。
白金。
ディーン・メーストル。
才賀貞義。
フェイスレス。
 全て同一人物で世界中にゾナハ病をばらまいた元凶。

サハラで鳴海を庇って死んだはずだが生きていた。こういう「死んだと思ったら生きてた」は大歓迎です。
鳴海に語った過去は自動人形=正二と考えるとしっくりきます。どこまでも自分に都合のいいように解釈・捏造している。
ギイをぶちのめして顔面を踏みつけ「ざまーねえな」と嘲笑う様はラスボスの非道さ十分。

勝vsフェイスレス。
「勝つんだ!!」から、己を操る糸を断ち切り「ちゃんと生きてちゃんと死ぬのが、ぼく達の役目だ!」と叫ぶ勝は、さすが主人公。
それに対し、フェイスレスは微笑。
「僕は自分を信じているもん。自分を信じて夢を追い続けていれば、夢はいつか必ず叶う!」
何この名台詞。
主人公側の言いそうなことをラスボスが語ると一気にインパクトが跳ね上がります。
題名も「黒い太陽」で、己が正しいと確信している彼の笑顔は眩しく輝いています。
太陽という語には前向きで他者を勇気づける印象がありますが、「どす黒く燃える」と形容されることで一気に禍々しくなる。
夢を口にする者は、一歩間違えるとこの男のようになりかねない。そう考えると寒気が走りました。

結局フェイスレスを倒すことはできず、勝はゲームに巻き込まれます。
「僕にかかればみんなが僕の操り人形なのさ」
好きな人には振り向いてもらえなかったのに偉そうだな。
正二の分までしろがねを守るという重い役目を背負うことになった勝。
まだ小学生なのに。
正二は重い運命を背負わせる罪を自覚していますが、ロッケンフィールドさんの最期を思わずにはいられない。
鳴海に全てを背負わせまいと、知らないふりをして穏やかな微笑で送り出した彼とは対照的です。

巻末おまけはフェイスレス司令の恋愛相談室。
問「二人の好きな子がいます。どうしたらいいでしょう?」
答「二人ともさらって逃げちゃえよ」
 おい!
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