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ひよこの足跡ブログ

漫画やゲームなどの感想を書いています。 ネタバレが含まれることもありますので、ご注意ください。

final messenger

SS『final messenger』
※原作開始前、魔界でのバーンとミストバーンの話。戦闘メイン。



 偽りの光が空にある不毛の地、魔界。
 雷鳴がとどろき、宮殿を照らした。その主は老人だが、皺の一本一本から威厳と余裕が溢れている。
 彼は玉座にてかすかな溜息を吐いた。傍らに立つ影が要望に応えようと動きかけるが、大魔王は何も語らない。
 手に握られているのはチェスの駒。彼は盤上に目をやり、叩きつける。
 チェックメイト。
 しかし大魔王の表情は物憂げだ。
 彼を苦しめているのは、退屈という病だ。
 忠実なる部下、ミストバーンは困ったように眼光を明滅させた。主の命令ならば何でも実行するつもりだが、心の内に巣食う敵を抹殺することはできない。
 バーンは気だるげに再び息を吐いたが、眼に明るい輝きが灯る。
 軽く手をかざすと映像が映し出された。
 魔族が魔物を率いて城へと進撃している。
 その狙いは大魔王の首。弱肉強食の理に従い、大魔王の代わりに豊かな生活を手に入れようとしたのだろう。
 部下からも報告がもたらされ、バーンは不敵な笑みを浮かべた。
「来客をもてなさねばなるまい」
 ミストバーンは無言で頷いた。主が命を落とす心配は毛ほどもしていない。来襲する軍勢では不可能だと見抜いている。仮に危機が迫っても自分が盾となって守り抜くと誓っている。

 大魔王の軍勢が迎え撃ち、両者が競り合う中、空気が重みを増した。
 敵軍の前方に大魔王が姿を現したのだ。
 なかなか決着がつかないことに業を煮やした様子もなく、どこか嬉しそうに。
 大魔王の配下は速やかに後退し、場を譲った。直々に応対しようという主の意を酌んだのだ。
 バーンの指先に小さな灯が宿る。凄まじい速度で城門へと進む魔物達へ、爪ほどの大きさの、ちっぽけな火の球がいくつか飛んだ。ちろちろと頼りなく輝くそれが揺らいだ直後、轟音と共に巨大な火柱を形成した。
 あっという間に体を焼かれ上空へと吹き飛ばされる味方の姿に驚愕したように進撃の勢いが鈍るが、戦意は失われていない。それを見たバーンは笑みを漏らし、手を動かして挑発してみせた。
 弾かれたように放たれた閃熱呪文がバーンへと迫るが、ミストバーンが素早く主の前方に飛び出し、己の体で受け止めた。闇の衣が翻り、増幅された閃熱呪文は術者へと跳ね返り、焼き尽くした。
 ならば直接攻撃あるのみ、と周囲の魔物達が己の爪や武器で斬りかかったが、瞬時に伸びた鋼鉄の爪が彼らの全身を穿った。
 一瞬で集団を蜂の巣にしてもミストバーンの動きは止まらない。すぐさま爪を縮め、軽く跳ぶ。生じた空間に飛来したのは圧縮された暗黒闘気の弾丸。直撃した魔物は凄まじい衝撃に断末魔を上げすことすらできず絶命した。
 大魔王へ飛びかからんとした魔物の動きが止まり、逆に味方の魔物の首を切り落とす。空中に浮かぶミストバーンの手から暗黒の糸が伸び、魔物の四肢を絡め取っている。敵を傀儡として操ることのできる、暗黒闘気の扱いに長けたミストバーンにこそ可能な技だ。同士討ちに混乱しかけたのもつかの間、裏切り者が斬られ、崩れ落ちる。

 生じた綻びを縫うようにミストバーンは優雅に降り立った。怒りと怯えの綯い交ぜになった表情で攻撃しかけた魔物達の動きが止まる。その全身は漆黒の網に絡め取られていた。軽くミストバーンが拳を握っただけで獲物を締め上げてゆく。それだけでも十分に殺傷力があるが、容赦ない死の宣告が大魔王から下された。
「とくと見よ、これが余のメラゾーマだ」
 先ほどの火炎呪文とは比べ物にならぬ膨大な魔力と熱に魔物達の顔から血の気が失せた。彼らを統制する魔族達も流石に強張った表情をしている。
 魔界の頂点に立つ大魔王が得意とする呪文。古より、その優雅な姿と想像を絶する威力から畏怖と敬意を込めて異なる名で呼ばれていた。
 カイザーフェニックスと。
 腕に纏わりついた紅蓮があっという間に不死鳥の姿を形成し、身動きのとれない雑魚へと飛来した。悲鳴を上げる暇すらなくある者は炭と化して砕け、またある者は灰となって散った。
 あまりの威力に呆然とする敵へ、ミストバーンが躍りかかった。伸ばされた爪が剣を形成し、敵の強靭な体を易々と切り裂いていく。舞うように斬り込んだミストバーンは軽やかに動き、敵を次々と屠っていく。
「消耗を待つつもりなら無駄だと言っておこう。余の部下は疲れを知らぬぞ?」
 余裕たっぷりの大魔王の言葉に魔族達は顔を見合わせ、頷き合った。
 部下である魔物は所詮消耗品。相手の力を少しでも削げるならばと思い率いてきたが、準備運動にしかならないと思い知らされた。
 ならば駒が残っているうちにと、魔族達は戦闘態勢を取った。
 数に物を言わせ、押し包むように攻めてくる相手にバーンは余裕を崩さない。ミストバーンが複数を相手に渡り合っているのを興味深げに見守っている。

 ふと、バーンは何かに気づいたように空を見上げ、ポンと手を打った。
「おお、名残惜しいが別れの時が近づいておる」
 そのまま部下達に別の場所へ向かうよう指示したため、彼とミストバーンだけが残ることとなった。
 まるで脅威と認識していない態度に憤りつつ魔族達が襲いかかろうとしたが、バーンは無造作に指で得物を挟み、止めてしまった。軽く手を振って吹き飛ばしつつ、腹心の名を呼ぶ。ミストバーンは大魔王の続く言葉を待つ。
「そろそろ招かれざる客にお引き取り願おう」
 主の真意を悟り、ミストバーンの眼が凄絶な光を放った。ギラリと燃え上がる眼光が敵の心臓を射抜く。同時に不気味な鳴動が起こる。ミストバーンの全身から今までとは比べ物にならぬほどの鬼気が噴き上がる。
「許す」
 ただ一言。
 それをきっかけに首飾りが砕け散り、ミストバーンの素顔が露になる。白銀の髪が揺れる。閉ざされた双眸と、口元に浮かんだ笑みが謎めいた迫力を生み出していた。
 一見整った顔立ちの青年が、激戦をくぐりぬけてきたはずの魔族達を黙らせ、委縮させる。

 怯えを振り切るように地を蹴り、突進した魔族の眼が見開かれる。彼の予想をはるかに超える速度でミストバーンが掌圧を繰り出したのだ。ただそれだけで後方に吹き飛ばされ、叩きつけられる。
 大魔王をも超える強さに思わず固まった彼らにカイザーフェニックスが襲いかかる。かろうじて横っとびに地に身を投げ出すようにして回避したが、ミストバーンの掌が視認できぬほど高速で動き、火の鳥を弾いた。あまりの速度に掌から炎が上がる様は不死鳥の羽ばたきによく似ていた。正確に跳ね返された火の鳥をかろうじてマホカンタで反射したものの、完全には防げずに焼かれる。
 さらに大魔王の両手から無数の爆裂呪文が放たれた。魔力で形成した障壁によってひたすら耐え続けるしかない魔族達は恐怖に顔を引きつらせた。
 爆裂呪文の嵐の中、平然と歩を進めるミストバーン。その顔には傷一つついていない。大魔王の爆裂呪文の一つ一つが極大爆裂呪文級であるというのに、全く気にも留めずに歩み寄ってくる。
 残った魔物達が悲鳴と絶叫をまき散らしつつ斃れていくのと対照的な、あまりにも非現実的な光景だった。
「バーン様の気晴らしになったのだ。光栄に思い、そして死ね」
 魔族の剣がまるで薄い木の板か何かのようにへし折られ、捩じ切られる。鎧も握り潰され、砕かれる。
 絶対に抗えぬ理不尽な存在。
 人生の最後に現れる、冥界からの使者のような。

 魔族達が全員倒されたのはその直後だった。
 再び玉座に戻ったバーンは優雅に酒を嗜んでいた。
 グラスを手に取り、香りを楽しむ表情から、先程の戦闘を食前の軽い運動程度にしか考えていないことが読み取れる。
「……多少は楽しめたのだがな」
 ミストバーンは沈黙で応えた。
 主の好きなこと。それは鍛え上げ身につけた力で相手を圧倒すること。
 魔界の頂点に立ち、その力が知られ渡っても挑む魔族はいる。
 期待をもって応じたものの、ある程度退屈がまぎれただけだ。
 許可を与えたとはいえ、極限まで追い込まれて封印を解いたわけではない。
 大魔王と忠実な影が揃っていれば、どんな敵であろうと脅威にはなり得ない。
 最強の主従を阻む者が現れるのは遥か先だった。
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