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ひよこの足跡ブログ

漫画やゲームなどの感想を書いています。 ネタバレが含まれることもありますので、ご注意ください。

寄生獣感想 6

寄生獣感想 6



第五十六話 首

広川の演説と正体判明で盛り上がった次の話でテンションが下がるかと思いましたが、そんなことはありませんでした。
後藤の暴れっぷりが気持ちいい域に達しています。
普段の振舞いが知性を感じさせる分、次第に闘争本能を剥き出しにしていく様が怖ろしい。
「おれにとっては戦いこそが……!」
戦いこそが生きがいというキャラは大勢いますが、生まれた意味を探し続けた田村を思い浮かべながら読むと感慨深いものがあります。
「もっと工夫しろ……人間は地球上で最も賢い動物のはずだろ」
参りました。
漫画等で「おれたち人間の最大の武器はこの知恵だ!」という考えをしばしば目にするため、この挑発に「そうきたか!」と思いました。見事に切り返された。
肉体の強さに頼り切らず、能力の限界を把握し、最大限に力を発揮するよう戦う。頭脳が立派な武器になっています。
その上で親切に説明したり「片づけた。いや……ちらかしたと言うべきかな」と発言したり、ユーモアを忘れない。上手いこと言いやがって。
怪異vs人間だと前者は力任せ、後者は知識や連携を駆使して戦うイメージがありますが、構図が崩されています。
山岸が負けるのも無理はない。あなたは良く頑張った。
圧倒的な差にもめげずに対処しようとしていたし、絶望的な状況で最後まで戦い抜いた。
ただ、相手が悪すぎた。
生首を正視できない。
そして後藤の標的は新一&ミギーコンビに。

第五十七話 ヒーロー

今までも純粋な力と力のぶつかり合いは少なかったけれど、後藤が相手だとますます戦闘力で決めるような戦いはできない。
ミギーと新一の作戦・連携で勝利と思っても、後藤も頭を働かせて戦う。全く頭を使わない猛獣ならば対処のしようもあるでしょうけど。
後藤に殺されるという恐怖のせいで新一の精神状態が危ない。
涙を流せるようになる前ならばここまで取り乱さなかったかもしれませんが、取り戻したゆえにすっかり情緒不安定に。

何だかんだで新一は里美と結ばれて想いを伝えました。
生きる気力を取り戻したようで何より。
こんな時にと思わなくもないですが、生命の危険を感じると本性が出るという説明がされているのでまだわかる。本気で打ちのめされていた新一が「生きたい」と前向きにならないと、そのまま殺されそうですし。
夢もロマンもない言い方をすると子孫を残そうとする本能が働いたのかもしれません。
それに皆が危機的な状況でイチャイチャするわけでもない。これが世界を守るために戦っているヒーローだったら「んなことやってる場合じゃねえだろ!」とツッコみますが、あくまで個人レベルで描かれているので違和感は薄い。まだ戦いが始まってはいませんし。
さっさと後藤がムードをぶち壊しにしてくれたので、緊張感が損なわれません。

車を盗んで逃走。スリから自動車泥棒か。犯罪のスケールが大きくなっている。
ミギーは運転もマスターしていました。日本語も一日でマスターするくらいですから、大した難易度じゃないんだろうな。
「む、この地形グッド」
という台詞がツボです。
直後の豪快な作戦とのギャップがすごい。
後藤の運転する車目がけて、自分が使っていた車を落とす!
秘技・車落としと名付けたくなった。
里美との触れあいとのギャップが激しい。
展開が早い漫画です。

第五十八話 ミギー

勝ち目が薄くてもミギーは冷静。新一が動揺していても落ち着かせる。頼もしい相棒だ。
「戦は兵力よりも勝機だよシンイチ」
一か八か、と言いつつもただの捨て身戦法ではない。リスクが大きいけれど気合任せじゃない逆転の根拠が示されている。ミギーの立案能力はこれまで散々描写されてきたし、以前交わされた会話の後藤の弱点、火炎放射器に関する台詞が伏線となっているため、成功してもや無理矢理さは感じません。
しかし作戦は失敗し、分離したミギーが危機に晒される。胴から離れていてはミギーは生きていられない。
助けようとする新一にミギーは逃げろと叫ぶ。
新一を攻撃しようとする後藤を足止めし、なおも叫ぶ。
「なにやってる! このまぬけ! はやく行け!」
ミギー……!
自分の生存こそがすべてに優先するはずの寄生生物が、他人を逃すために行動した!?
「献身」は最も理解できないと言っていたくせに!
散々情なんか無いと主張していたのに!
今まで甘さの感じられない描写が積み重ねられてきただけに、ここで精神的なつながりが強調されてグッときた。

遠ざかる背にミギーは別れを告げる。
(いちばんはじめにきみに出会って……きみの……脳を奪わなくてよかったよ……おかげで友だちとして……いろいろな楽しい……思い出を……)
(これが……死か……)
比較的冷静に己の死を受け止めるのがミギーらしい。
初期や中盤に同じ展開があってもここまで感動しなかった。
「すんなり友情や自己犠牲に目覚めてよかった」と受け止めるだけだったかもしれません。
寄生生物との考え方の違いや埋められない溝、生存への欲求が繰り返し描かれ、同時に田村の変化、新一とミギーの絆といった一般の寄生生物との違いも描かれるようになってきた。それらの要素が少しずつ成長し、この段階まで至ったからこそ心が揺さぶられた。
右腕の断面を押さえて泣く新一にシンクロしそうです。
サブタイトルの「ミギー」を見直してミギー退場に絶望した。

第五十九話 老婆

美津代さんが登場しました。
渋い言動といい、曲者と思わせる表情といい、インパクトがあります。
傷の手当てをしてくれたり夕食をご馳走したり泊めてあげたり親切です。
わざわざ買い出しに付き合わせたのは新一の心境を慮ってか。ぶっきらぼうだけど優しい人物です。
数日が過ぎ、新一は帰って父に全て話すことを決意した。
右腕をなくしたわけ、ミギーという名の友だちがいたこと。
(あいつの知力、勇気、何をとってもおれは到底かなわない。あいつこそ本当のヒーローだ!)
新一……。
ヒーローという言葉は単純ですが、よく表現している。
たとえ後藤を倒しても、それだけでは喪失感が消えることはないでしょう。
父が息子の境遇を知ったら、ミギーについて聞いたら、どんな反応を見せるか気になります。

第六十話 覚悟

殺人事件が発生し、後藤を連れてきてしまったのは自分だと新一は責任を感じる。
「生きぬくつもりでした。おれのために死んでいった友だちもいる……でも、もうおれ一人逃げるわけにはいかないんです!」
「おれは……まだやるだけのことをやっていない! おれの命を使わなきゃならないんだ!」
新一もヒーローですよ。
命を使うなんて軽々しく言うなと怒る美津代さんもいい。闇雲に止めるんじゃなくて経験から言っている気がする。
どうしても行くとなったらアドバイスしてくれますし、亡き夫に新一の無事を祈ってくれる。
読んでいて、勝ち目のない戦いに行ってほしくない気持ちと、逃げたままでいるわけにはいかないだろうという気持ちが湧きました。

第六十一話 異形

ミギーを失い、隻腕で戦闘生物に挑もうというのは無謀です。
ナタも駄目、木の槍も無駄、素手で殴りかかったところで意味は無い。
後藤のパンチ一発でゴミ山に叩きつけられ、盛大に吐血。
駄目だ……勝てっこない。
田村玲子とならなかなかの戦いができたかもしれないと語る後藤ですが、彼女でも正面から戦って勝つのは難しくないか?
どういう策を使うか、それ次第か。
周辺の設備や道具などを利用して戦うんだろうか?
そんな中、山岸達の健闘が弱点を暴くきっかけになったのは熱い。彼らの戦いは無駄ではなかった。
(ほとんど可能性ゼロに近いじゃないか! でもやらなけりゃ……確実なゼロだ!)
必死な表情の新一がカッコいい。

第六十二話 朝

一撃を食らわせるも追いつめられ、新一は覚悟を決める。
彼が目を閉じるのと反対に、腕の目が開いたのが印象的でした。
右腕に残ったミギーの欠片で後藤の刃を受け止めると、後藤から分離した肉片が腕に絡みつき、戻ってきた!
「やあ……」
ミギー復活!
これは嬉しい!
後藤に取り込まれて生きていた、という展開は不自然ではなく、復活を素直に受け入れられます。
「おまえが死んだと思って……それがどんなに悲しかったか……!」
「あ、そう」
相変わらずドライですね。感動の再会をさらりと流します。
新一も久しぶりにギャグ顔になって呆れています。
よかった……。本当によかった。

後藤が統制を失ったのは、新一の一撃で鉄棒に付着していた毒が体内深くにねじ込まれたから。
不法投棄されたゴミのおかげで勝てたと思うと複雑です。
「要するに……人間サマにゃかなわんてことさ」
ミギーのしみじみとした呟きに「悪魔に近い生物は人間」発言を思い出しました。
確かに後藤は脅威ですが、人間が彼を本気で仕留めようと思えばできてしまう。
種全体で見ると人間の方が怖ろしく、強いのかもしれない。特に、異質なものを排除しようとする時は。『仮面ライダークウガ』でグロンギの強者、ドルドが倒された時も思ったことです。

復活しかけている後藤にとどめをさすかどうか、ミギーは新一に判断をゆだねた。正直意外でした。
ミギーならば危険だから当然即刻排除すると思っていました。
「すばらしい」発言や居心地が悪くはなかった経験などもあり、後藤を相当認めていたのか。
(誰が決める? 人間と……それ以外の生命の目方を誰が決めてくれるんだ?)
人間とは別の生き物に人間の都合ばかり押しつけたくないと立ち去ろうとする新一に、ミギーが語りかける。
「わたしは恥ずかしげもなく“地球のために”と言う人間がきらいだ……なぜなら地球ははじめから泣きも笑いもしないからな。なにしろ地球で最初の生命体は煮えた硫化水素の中で生まれたんだそうだ」
このミギーの台詞はどんな意味がこめられていたんでしょう。
新一の行動をどうこう言うのではなく、思ったことを漏らしただけなんだろうか。

新一は振り返り、倒れている後藤に近づいていく。
(おれはちっぽけな……一匹の人間だ。せいぜい小さな家族を守る程度の……)
「ごめんよ。きみは悪くなんかない……。でも……ごめんよ」
自分を殺そうとした相手に涙を流し、謝るのか……。
後藤が害になるのは明白で、実際に大勢の人間の命を奪った。自分も殺されかけました。迷いや相手への理解を見せずに手を下しても、誰も新一を非道だとは思わないでしょう。
それでも悩み、一度は手を下さずに去ろうとしたことで新一の立ち位置の独特さが表現されたのではないでしょうか。
左手でナタを持って振り上げるのも、ミギーではなく彼が手を下したという重みが伝わってきます。
化物の死体発見を聞いた美津代さんの「やったのか! 新一!」が熱い。

最初新一は後藤を見逃し、そのまま立ち去る予定だったそうです。
しかし、苦悩しながらも主人公自らが手を汚したことできちんと決着がついたといいますか……苦しくても彼なりの答えが出たのだと感じられます。
「人間の都合ばかり押しつけたくない」→「小さな家族を守るため命を奪う」という思考の変遷が自然で受け入れやすい。
後藤も、田村の生き様を考えると彼なりに生きる意味を探していたんじゃないかと思えます。
スカッと胸がすく最期ではなく、どこか哀しい。
個人的に、悪役の退場の仕方で好きなのは「燃えると同時に胸が痛むもの」です。後藤はまさにボスに相応しかった。
主人公を追いつめ、物語を盛り上げ、あり方を問うたいい敵役でした。

第六十三話 日常の中へ

「ミギーはほんと相変わらずなんだからなー、あっけらかんとしてさ。でも本当に……生きててよかった」
この台詞は後藤を倒した帰り道のものでしょうか?
あるいは帰宅後か。
淡々と返事するミギーが目に浮かびます。
その場面を見たかった。

夢の中で別れを告げるミギー。
長い眠りにつき、ただの右手に戻る……せっかく戻ってきたのに!
寄生生物が出ても新一ならば大丈夫。
「それより交通事故に気をつけろ」はミギーらしい台詞だと思いました。
「だいたい自分の手と会話する人間なんている方がおかしいんだぜ。本来は」
この台詞は、母を乗っ取った寄生生物と対峙した時に新一が言ったものとよく似ています。
あの頃はミギーに冷たい態度を取っていたのに、すっかり変わりました。
目を覚ましたらこの夢のことも忘れる、だから自分のことも一緒に忘れてほしい、忘れることができると言って最後に礼を述べる。
「いままでありがとう……シンイチ」
田村が「ありがとう」と言った時に驚いてたミギーが感謝の言葉を……?
影響を受けすぎだ。
目を覚ました新一が右手に
「忘れるわけないだろう! ばかやろう!」
と叫ぶのも熱い。
その後小さく「ばか……」と呟くのは可愛いと思いました。

人間と他の生物についての新一の台詞が印象深い。
(他の生き物を守るのは人間自身がさびしいからだ。環境を守るのは人間自身が滅びたくないから。人間の心には、人間個人の満足があるだけなんだ。でもそれでいいし、それがすべてだと思う。人間の物差しを使って人間自身を蔑んでみたって意味がない)
「愚かな人間どもよ」という広川の思想で終わらなかったことで、肯定と否定のバランスがとれています。
環境問題に限らず、自分達の物差しで考えるのは避けられない。
確かに「地球のために」は「地球で暮らしている我々が過ごしやすくなるために」という部分があると思います。ただ、それは悪いことばかりじゃない。
人間本位で間違ってる、と全部否定するのではなく、「自分達の物差し」があると自覚するのが大事なのかもしれないと思いました。
「人間自身を愛さずに地球を愛するなんて結局矛盾してるんだよ」
広川の演説だと、地球全体のバランスにこだわるあまり人間を蔑んで、それはそれで偏った思考になっている気がする。そういういびつさが出るのもある意味人間らしい……のか?

寄生生物について、狭い意味では「敵」でも広い意味では「仲間」だと考えるようになった新一。
「みんな地球ここで生まれてきたんだろう? そして何かに寄りそい生きた」
再び見事にタイトルとつながりました。
・寄生獣って寄生生物のことでしょ?
・人間だった!?
・「寄」りそい「生」きる「獣」
このコンボには脱帽するしかない。

ここで終わっても十分ですが、穏やかな日常を過ごす新一と里美の傍に不穏な気配が……。
やっぱり浦上は生きていた。
浦上の恐ろしさは通り魔的で、現実味があります。

最終話 きみ

最後までサブタイが輝いている。
最強の戦闘生物、後藤を倒した後に浦上が出てくるのはアリだと思いました。
「人間サマにゃかなわんてことさ」というミギーの台詞もあるし、寄生生物をも上回る脅威となるのは頷ける。
里美を人質にとって質問する浦上。
「なんでおれ以外の人間はこうガマン強いのかねえ。人間てなもともとお互いを殺したがってる生き物だろ? 大騒ぎしすぎなんだよ、みんな血に飢えてるくせしやがって」
「寄生生物なんざ必要ねえのさ! 人間はもともととも食いするようにできてるんだよ。何千年もそうしてきたんだ!」
浦上と広川は意気投合したかもしれない。広川なら「多すぎる人間の数を減らしてくれたまえ」とか言いかねない。
浦上がどんどん新一を追いつめていく。
混ざっていることも、体のどこかだということも見抜いている。
「おれこそが正常な人間だな!? ただ本能に従ってるだけのことだ!」
精神的に崖っぷちの新一を救ったのは里美でした。
先ほどまで殺人鬼に怯えていたのに啖呵を切る!
「あんたこそ寄生生物以上のバケモンじゃない!」
今まで里美はずっと異質な存在に振り回され、事情を知らされず、変わってしまった新一と距離を感じたことも多かった。
超人的な肉体も人間離れした精神も鋭敏な感覚もなく、ただの一般人の枠から出ることは無かった。
新一を追いかけてきた彼女が、最後の最後で追いついたことに感動した。
平凡な人間がギリギリで踏ん張り、意地や勇気を見せるのが最高です。

新一の腕にナイフが刺さった理由を考えると、
・穏やかな日常に動物的な勘が鈍っていた
・超人的な力が薄れつつある
・慌てすぎ、力みすぎ
が混ざり合った結果かと思いました。
突き落とされ落下する里美に手を伸ばすが、掴めない。
ここからのシーンはひたすら素晴らしい。
人間の取り柄について、腰に手を当てて誇らしげに宣言するミギーが格好いい。
「心に余裕(ヒマ)がある生物。なんとすばらしい!」
力説するのではなく、あくまでさらりとした言い回しなのが押しつけがましくなくて素敵。
「だからなあ……いつまでもメソメソしてるんじゃない。疲れるから自分で持ちな」
新一が右手を見ると、里美が掴まっていました。
ミギーが助けてくれた……。
助けたことについても、「自分で持ちな」と突き放すようなクールな物言いが心地いい。
里美を抱く右手のアップに、ミギーがいることを感じた気がした。
『何かに寄りそい……やがて生命が終わるまで……』
寄生獣、完結。
中だるみや急ぎすぎた展開も無く、綺麗に終わりました。
後味もよく、文句のつけどころが無い終わり方です。
「寄生」というネガティブな印象の言葉に、「寄」りそい「生」きるというプラスのイメージが加わりました。
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