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ひよこの足跡ブログ

漫画やゲームなどの感想を書いています。 ネタバレが含まれることもありますので、ご注意ください。

寄生獣感想 5

寄生獣感想 5



第四十二話 小さな家族1

コンビニに買い物に行った間に倉森の妻と娘が惨殺された。
最後に聞いた妻の言葉が「ハム買ってきて」なんて切なすぎる。
当たり前のように続くと思われていた日常と、それがブチ壊されたことが表現されている。
「たった十五分」という倉森の言葉が悲しい。
彼が身を引く決断を下した時はがっかりしたけれど、これで安全だと思ったのに……。

ミギーはドアの鍵を開けられるしスリも得意。
犯罪に利用しようと思えばいくらでも活かせますね。
「でも……ドロボーでしょ?」
「そうだよ」
とか、
「神様……どうかお許しください」
「? それはキリスト教か?」
とか、
やりとりがいちいちコミカルです。
危機から脱したばかりなのに和やかです。

倉森家が襲撃されたと知って父親が危ないと連絡をとる新一。
息子が寄生生物に襲われたと聞けば、父の性格ならば心配します。説明を求めるのも当然です。しかし、新一にとって事情を全部説明するのは不可能だ。
不器用ながらも伝えようとする彼の背後を、幸せそうな親子連れが通り過ぎていくのがにくい演出です。
かつて奪われ、二度と失いたくないものの象徴のようです。
寄生生物に奪われた倉森の「小さな家族」と、これから奪われようとしている新一の「小さな家族」、そして平穏無事に暮らす「小さな家族」。これらがサブタイトルに絡んでいるのでしょう。
「とうさん……お願いだから! 家からすぐ出てくれよ!」
息子を信じ、安全を確認し、気をつけるよう伝える父親が男前です。
新一の強さは彼から受け継がれているんだな。
サブキャラもいい味を出しています。

第四十三話 小さな家族2

探偵の家族を殺して本人を逃がした失態について、人間の本質を知らなさすぎると批判する田村。
「人間は自分の頭以外にもう一つの巨大な脳をもっている。それに逆らったとき、寄生生物は敗北するわ」
「きのうまでとはまったく性質の異なる存在になっているはずだわ。敵として……」
人間を観察してきた彼女が言うと説得力があります。
追いつめられた倉森が逆襲に転じますから。

上条は新一を心配する里美に気をきかせる。いい男です。
仲直りさせるためカバンを持っていかせる気の遣い方がにくいぜこの野郎。

沈み込む倉森と平間警部補のやりとりもいい。
「子供のころから……名探偵にあこがれていました……」
「なれますよ……名探偵に」
この時の警部補の表情が味があります。
奮起した倉森は妻子の敵を討つことを誓う。弱い人間の意地を見せて、一矢報いようと決意している。
実行したのは田村ではなく草野の仲間なのですが、彼の行動が鍵となるんですよね。
その頃田村は赤子に母乳をあげて相手の存在を不思議に思っていました。
「寄生生物(われわれ)はなぜ生まれてきた……?」
小さな家族とは、彼女と子供も指しているのでしょうか。

第四十四話 性急に

田村を危険視し、殺そうとする草野と愉快な仲間達。
「命を絶つ前に小さな満足感をやろう」
草野さん、そんなこと言ったら間違いなく失敗します。
現に田村は余裕たっぷり。
「人間が言いそうなやさしいセリフが言えるのね。おどろいた」
「寄生生物それぞれがこれほど大きな個体差――というより個性を持ったということを、わたしはむしろ喜ばしく思う。この私刑についてなどは感動すらおぼえるよ」
微笑む表情は皮肉や強がりではなく本物です。間違いなく仲間の見せた可能性を喜んでいる。知的好奇心で動く彼女らしい。
いったん目を伏せ、上げると、柔らかな笑みは冷酷なものに変わっていた。
「……三人いれば勝てると思ったのか?」
この風格……カリスマオーラが全開です。
彼女がそこらの寄生生物にやられる光景が全く浮かばない。
草野の台詞も合わさり、三人組が撃退される結末しか予想できませんでした。

第四十五話 冷血の戦い

サブタイトルからテンションが上がりました。
彼女の作戦は見事です。
仲間の性格を完全に把握し、どう行動するか読み切った上で策を練り、大胆なそれを実行に移す。かなりリスクの大きい作戦であるにも関わらず、失敗する気がしない。
今まで何度も高い知能を持つと言われてきた過程に相応しい内容になっています。
彼女の頭脳を活かした戦い方は盛り上がります。
新一とミギーの連携、後藤のでたらめな身体能力も素晴らしいですが、彼女の戦い方もまた魅力がある。
きちんと三人でかかった草野も用意周到ですが、相手が悪すぎた。あの後藤に「いい戦いができるかもしれん」などと言わせる相手ですから。
クールさの中に軽い態度を混ぜるところもいい。
「痴漢対策」
「頭の中はカラッポだよ~ん」
「キャハハハハハッ」
知的でクール、落ち着き払っていますが、その気になればいくらでも人間らしく振舞えたんだな。
表情も茶目っ気たっぷり。不自然さゼロです。
石を詰め込んだバッグで草野の最後の抵抗を防いだのもポイント高い。思い通りに事が進んで優勢になっても油断せず、行動を読んできっちり叩きつぶしている。
戦闘力自体はそう変わらないのに機転のみで三対一の状況から勝ってみせ、なお余裕がある。
能力や強さは大差ないので、いっそう機転が光ります。
文句無しに切れ者だ。頭脳で勝ってみせるキャラを訊かれれば真っ先に挙げたくなる。
「自分はどこからきてどこへ行くのか……なあんて人間ぽく考えたことある?」
実力、知略という分野を超えた「格」が完全に草野より上です。

そんな彼女を動揺させたのが、正真正銘ただの人間である倉森だった。
大切な者を奪われ怒りに燃える人間が、底力を見せて格上のはずの相手を追いつめる……熱い展開です。
「……よっぽど手ごわいじゃないか。探偵さん」
素直に相手を認める度量のある田村も素敵。
「てごわい」と表現するほどですから、赤ん坊への関心、執着が大きいことがうかがえます。

第四十六話 となり町の公園

田村が里美に「うらやましい」と言ったのは、里美が大切な相手を心配する心を持っていることが羨ましかったのか?
それとも、誰かに案じられる新一の方か?
ミギーとは違う方向から同じくらい、もしくはそれ以上に人間に近づいた寄生生物です。
田村に復讐しようとしている倉森ですが、実行犯はすでに田村が殺しているんですよね。
そう考えると皮肉のきいた構図だ。
「こおっ」の爺ちゃんに和んだ。

第四十七話 人の子の親

赤子を抱いて田村と対峙する倉森の表情に恐怖は見えません。しばらく前まで寄生生物にビビりまくっていて、会話することなんて思いもよらなかっただろうに。
自分の気持ちのほんの一部分でも思い知らせるべく赤子を高所から投げ落とそうとする彼を、田村は触手で刺し貫き、赤子を助けた。
「ひ……ひっかかりやがって……。人間が……人間の赤ん坊を殺すわけ、ね……ねえだろ」
現実はそう言い切れないのが悲しい。
田村自身自分の行動に驚いている。
あれほど高い知性を持つ田村を驚かせたという一点で倉森の意地が報われる。
庶民代表的な、平凡な人間が覚悟を決めて一矢報いた。
くそ、熱い!

新一をモンスター呼ばわりしていた彼が、最後に新一を人間と言ってくれた。自分と同じ小さな家族があり、奪われ、苦しんだと表現するのがまた泣かせる。
新一を認めてくれたんだな。
赤子を殺さなくてよかったという台詞は、途中のやりとり・表情の迫力と「冗談だぜ」と合わせて以下のように解釈しています。
最初から殺すつもりなんてなかった
→話しているうちに感情が昂り、演技との境界がわからなくなった
→田村の行動に驚きながらも我に返る
→やっぱり殺さなくてよかった
ではないかと思いました。
全部演技として割り切れてはいなかっただろう。
倉森を名探偵と呼ぶ平間さんも熱い。
登場時は「そっとしといてやれよ」、新一にご高説かました時は「そんなこと言われてもなぁ」、戦おうなんておかしいと言った時は「そうだよな、下手に関わるより退いた方がいい」と思っていた倉森さんが、ここまで印象に残る最期を迎えるとは思いませんでした。
大勢の人間が死んでいるのに、インパクトが薄れない。

人間にとっての寄生生物、寄生生物にとっての人間とは何なのか考えた田村が出した結論は……。
「あわせて一つ。寄生生物と人間は一つの家族だ。我々は人間の子供なのだ」
「我々はか弱い。それのみでは生きてゆけないただの細胞体だ。だからあまりいじめるな」
さらに怖ろしい強さを誇る後藤についてもこう評する。
「か弱い仲間の一人ではあるが……無敵だ」
広川について言おうとしたのが遮られたのが残念でした。

第四十八話 ただいま

再びサブタイトルが秀逸。
己のピンチを悟りながらも白を切りとおす豪胆さがある田村と、発砲が躊躇われる状況で実行した平間の度胸に震える。
惑わされずに発砲した彼を素直に認める彼女の器の大きさにも惚れ惚れします。
「おみごと……正解よ」
彼女なりの、最上級の褒め言葉ではないでしょうか。
ただ一撃を浴びせたから評価したのではなく、状況判断や立場、責任問題などを踏まえたうえでの発砲ですから。
撃たれても反撃せず、赤子を守りながら近づく彼女の台詞が好きです。
(まて、新一……ここで逃げられては困る……どうすればおまえを……おまえという人間の心を……)
田村が母の顔へ変化したことをミギーは罠だと叫ぶが、新一は違うと見抜いた。
寄生生物であるミギーより先に新一が理解したというのが感慨深いです。

田村は生まれてきた意味を探し続けた。
彼女の思想は掴みにくいというか、実感するのが難しい。
疑問が解けるとまた次の疑問がわいてくる。始まりを求め、終わりを求め、考えながらずっと歩いていた。どこまで行っても同じかもしれない。歩くのをやめてみるならそれもいい。
哲学的だ。こういう風に考えて生きている人がいそうです。
「すべての終わりが告げられても……ああ、そうかと思うだけだ。しかし……それでも今日また一つ……疑問の答えが出た」
「ああ、そうかと思うだけだ」は前話の倉森の台詞と対応していますね。彼の言葉・行動は何かを彼女に残したんだろう。
田村は普通に育ててやってくれと赤子を託し、新一は心配するなと答える。
そして田村から寄生生物にはありえない言葉――感謝の言葉が述べられる。
「ありがとう」
ミギーが驚愕している。
戦おうと思えば戦えたし、逃げることだってできたはずなのにそうしなかった。
死を望んだというより、単に彼女にとって優先順位が「己の生存<赤子を渡す」になっただけのことなんだろう。
悪役とは言い切れませんが、「ありがとう」の言えるキャラは素敵ですよね。
「この前人間のまねをして……鏡の前で大声で笑ってみた……なかなか気分が良かったぞ……」
彼女も最後は「心にヒマのある生物」になっていたと思います。
自身の歩む先についてあれこれ思いめぐらせるのも、生存を後回しにしてでも何かをしようとするのも、心にヒマがある証ではないでしょうか。
今まで他の寄生生物の危険さや彼女自身の冷酷さ、考え方の違いが描かれてきただけに、「人の心が理解できました」「優しい感情が芽生えました」だけで片づけるには惜しい重みがあります。

新一の中で母の記憶や占い師の台詞などがフラッシュバックする。
最後に浮かんだのは、旅行から帰ってきた母の笑顔と「ただいま」という言葉。
・いなくなった母が帰ってきた(それによって胸の穴がふさがった)
・里美からは遠くへ行っていた新一が帰ってきた
この二つがつながった台詞とサブタイだと思います。
泣けなくなっていた新一の目から涙があふれ出す一連の流れはもう……よかったなと思います。
占い師の胸の穴についての台詞は、あの時点では
・新一の心の傷の深さを強調
・「その相手なら殺したよ」の台詞を引き出し、精神の変化を示す
という働きがあると思いました。
しかし、ここで胸の穴を開けた、母の顔をしている相手と会うことができ、胸の穴がふさがった。綺麗な伏線回収です。
予言が的中したことになるわけですから、彼女の能力はすごいな。ピンポイントで当てているぞ。

前半の緊迫感と熱、後半の感動に滅多打ちにされました。

第四十九話 お見合い実験

前半をサイレントでサクッと進めたのが上手いと思いました。
余韻も保たれ、スムーズに次の展開に入っていけます。
浦上は『魔人探偵脳噛ネウロ』の放火魔、葛西を連想しました。

第五十話 凶器

寄生生物を前にしても動じなくなった新一が一人の人間に怯えるのが新鮮でした。
化物よりも怖ろしいと言いたくなる浦上の所業にヒいた。
血も涙もない人間がいるかと思えば、田村みたいな寄生生物もいる。
生存のために人間を殺す寄生生物と快楽のために人間を殺す人間の対比が聞いてます。寄生生物もその気になれば人間を食う必要はないか。
寄生生物討伐を「害虫駆除」と呼んだ山岸にも別種の恐ろしさを感じる。
相手は人間と同等もしくはそれ以上の知能を持つ、コミュニケーション可能の生物なのに。
田村みたいに人間に近づいた寄生生物もいるという流れの直後に、寄生生物を駆除する対象とみなす人間をもってくるのが上手い。

第五十一話 針路

ノートを見せる代わりに料金徴収する気の女の子が何気に好きです。
えげつないと友達に言われれば、彼女がいるんだもんと返す。それくらい求めても罰は当たりませんよね。
体育の授業で新一は100メートル10秒5のタイムをたたき出す。
教師に肩を揺さぶられながら
(これじゃ9秒台も軽いな)
なんて考えてます。
ただの高校生が世界記録レベルまで身体能力上昇……それがあんまり羨ましいと思えないのは過酷な状況を乗り切ってきたからか。
部屋の隅で着替えていたら何恥ずかしがってんだと服をとられました。
クラスメートに胸の傷跡を見られてしまった。
凄まじく重い空気が漂い、服をとった男子は気まずい表情。
そこで「ばか」という一言とともに頭を軽く小突いた上条のイケメンさに痺れた。空気が若干軽くなりました。
上条みたいなクラスメートがさりげなく輝いています。

里美との穏やかな時間は、雄々しく立つ平間に破られました。
平間の意見は正しいけれど状況をもう少し考えてほしかった。
自分達が勝つというのも、あと一つ何かが足りないというのも、怖ろしいほど的中している。新一のもとへ来るのも間違っているとは言えない。それでもなぁ……。
「もともと普通の道のはずだよ。ただの通学路のはずでしょ? ただの……。なのにちょっと歩くとそこが……血でべっとりしてる!」
普通の学生である彼女の視線からはそう見えるだろうな。
もう十分すぎるほど赤い道を歩いた新一にさらに踏み込めというのか。
そっとしておいてください。

第五十二話 包囲

冷静な顔の裏では「やる気か! 人間ども!」と不敵な台詞を呟き、避難するよう勧められても受け流す広川から大物の落ち着きが漂っている。
寄生生物を後回しにするための方便がさらりと出てくるあたり、田村みたいな厄介さを感じさせます。
対人間の弁舌は田村以上かもしれない。

第五十三話 口火

数匹同居のパラサイト、後藤に効果的な武器は無いか新一に尋ねる山岸との会話は面白い。
反射のズレについて「ギョッとする」という表現を用いるミギーが可愛いです。言葉のチョイスが身近で実感しやすい。「転ぶかもしれん」と言われて新一が転んでどうする。
この場面での山岸の対応には好感が持てます。
火炎放射器という提案に対し笑ったものの、素人の浅知恵と全面的に否定するのではなく、検討した上で納得できる理由を挙げて却下しましたから。
ここで「ふふん、何もわかっとらんなぁ」みたいな小物臭全開な対応をとられたら幻滅していた。
作戦実行時も敵の特性や恐ろしさを十分に理解・把握し、相応しい策や武器を用意し、適切な指示を出している。
怪異vs警察・軍人という構図だと後者が小物扱いされ、敵を甘く見てまともに対処しないケースもありますが、プロ意識が高い方が嬉しいです。頼もしい存在への期待が高まり、敵の打つ手に興奮し、主人公とどう関わるか興味が湧きます。
主人公とは違う方向から敵を追いつめていく過程に盛り上がる。仮面ライダークウガの警察もそんな感じでした。

広川も負けてはいない。
「市民に銃口を向けるとは何事だ!」
という一喝は上手いと思いました。
人々の感情を誘導するのが得意なんだなぁ。自然に自分の望む展開に持っていける頭のキレが脅威です。
広川も山岸も互いに策を練り、次の手を打つ。
どっちにも負けてほしくないと思ってしまう。

第五十四話 制圧

寄生生物達が正体を現し、混乱に陥った市民達を黙らせたのは山岸だった。
床に伏せさせ、許可なく立ち上がった者は容赦なく射殺してのける。
前話もそうですが、判断力や決断力に富んだ男だと思いました。急転した状況に動揺することなく冷酷なまでの判断で結果を出す。
修羅場を潜りぬけた者の凄味がある。
血も涙もないように見えますが、ここで下手に情けをかけて勝手に行動させると寄生生物達に隙を与えることになり、被害が一気に増大する。
絶対に失敗するわけにはいかない作戦なので強硬な態度で臨むしかない。

後藤と広川の会話には注目したくなります。
今回は特に気になる発言が後藤から飛び出しました。
「なぜ逃げようとしない? あんたなら包囲をぬけるのもたやすいだろう」
「きみもな」
後藤は極めて高い戦闘能力があるためわかりますが、武闘派には見えない広川が逃げられる理由は何なのか。
最初読んだ時は三つほど予想しました。
・後藤をも超える戦闘力の持ち主
・田村玲子のような知謀の持ち主
・寄生生物を操るなどの特殊能力の持ち主
「さあ、どんとこい!」と解答を待ちかまえていました。

寄生生物が駆除される銃声を聞く新一と、小さく笑う後藤のコマに田村の台詞が重なる演出が上手い。
山岸が化物の区別がつくようになったと言うのはハッタリで、一階にいないなら寄生生物だと判断して全部退治するということか。
冷酷に見えますが、躊躇していると自分だけでなく部下も他の人間も犠牲になるばかりなので仕方ない。
後で厳しく糾弾されるでしょうに、保身や体面にこだわらず、被害を最小限に抑えようとしている。
非常事態における適応力が光ります。

第五十五話 寄生獣

ついに後藤が戦闘開始。
怖ろしいほどの強さを見せつける姿は素直に格好いいと思ってしまう。
ただ暴れるのではなく、知的さ溢れる振舞いが威厳や余裕を漂わせている。
一方広川は演説を開始。広川の台詞の内容は当初から書こうとしたものだと感じられます。
「こと殺しに関しては地球上で人間の右に出るものはない」
凄まじい威力の兵器を生み出し使用できるのは人間だけですよね。
人間の数を減らさねばならない、寄生生物という人間の天敵を大事にすべきだ、地球のバランスを回復させるために、と訴える。
過激なエコロジストだ。
「地球上の誰かがふと思ったのだ…………生物の未来を守らねばと」
ここで冒頭とつながるのか!

納得するはずもなく、兵士達は反論する。
「やかましい! 黙って聞いてりゃ何様のつもりだ! このバケ物が!」
「人間サマに指図するなんざ一億年早いんだよ!」
そう言いたくなる気持ちもわからなくはないが、ここまで言われると人間賛歌を通り越して人間至上主義に思える。
人間と同等もしくはそれ以上の学習能力を持つ種族が出てきてもそう言いきれるのか疑問も。
「フン……だから人間どもは好きになれん! 最後にそうひらき直るのならはじめから飾らねばよい! 環境保護も動物愛護もすべては人間を目安とした歪なものばかりだ。なぜそれを認めようとせん!」
地球のためと言うのは「(人間が暮らしていく)地球のため」ってことか。
「人間に寄生し生物全体のバランスを保つ役割を担う我々から比べれば、人間どもこそ地球を蝕む寄生虫! いや……寄生獣か!」
今までずっと寄生する者達は寄生生物、パラサイトと呼ばれてきた。当然、タイトルはパラサイトのことを指しているんだろうと思いこんでいました。
ここにきてようやく、タイトルの『寄生獣』という語が使われた。
当初は「愚かな人間どもよ」という展開になる予定だったそうなので、ここまで一切「寄生獣」という単語が出てこなかったのも、ここでより効果的に見せるためだったと思われます。
しかし、途中で予定が変わったことにより、「愚かな人間どもよ」という思想はあくまで広川個人のものになった。
そのため作品全体の結論はさらに踏み込んだものになっていて、いっそう面白い。
「寄生獣」は人間だった、で終わらず別の意味を込めている。だからこそ後味がよく、印象に残る作品になったのだと思います。

今回の見所は「寄生獣」発言だけでなく、広川の正体にもあります。
二度びっくりだ。
広川を射殺した軍人達は死体を確認し、こう告げる。
「これ……人間ですよ」
思えば、人間である伏線は幾つもありました。
後藤の「あんたなら容易くぬけられる」という台詞、会議の時に一人だけ相手を向いていたなど……真相が判明した後で全てがつながってきます。
唸るしかない。
ただの人間が寄生生物のボス的立場におさまり従わせてきた。
主張に共感できずとも、人食いの化物を率いる胆力や頭脳、信念の強固さは認めたくなる。
非難するばかりでなく、彼なりのやり方で真剣に社会を変えようとしていた。食われたくない人にとっては甚だ迷惑ですが。
あくまで寄生生物にとっては「よくわからんやつ」としか思われていないのも面白い。
調停者や役割について意識していたのは広川だけで、彼らにその自覚はないのもバランスがとれている。
おそらく寄生生物にとっては「我々に協力してくれる便利なやつ、食事がしやすくなるから従おう」程度の重みしかなかった。田村だけは食事の便利さより広川の思想に興味を惹かれて行動していたと思いますが。
普通に暮らしている人間が言うのではなく、寄生生物が言うのでもなく、寄生生物を率いてきた人間が口にすることで重みが増します。
ただ、人間の傲慢さについて非難した広川も、「人間らしく」自分の意見を振りかざし、押しつけている気がする。
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