柔道部物語 4巻
・樋口戦
合宿の時とは違う、公式の場で樋口と戦う時がやってきました。
試合が始まると、相変わらず樋口が大きく見えて、まるで相手にならない。
立っていられる気がしないってどんな感覚なんだろう。
「なんでこの男に石川さんが負けたのかわからん……」
この台詞、石川のことを認めてるようでいいですね。
ほんと、何でだろうな。
背負いのキレは優れていても、総合的には遠く及ばないはずなのに。
逃げ回る三五に業を煮やした樋口がさっさと決めようとする。
棒立ちと形容されるなんて油断しすぎです。完全に三五を甘く見ていたんだな。
未熟さが前面に出ていた時期だったからこそ、これほど樋口の油断を誘えたのかもしれない。
下手に実力が近かったら普通に倒されたかも。
油断するなという石川の叫びも虚しく、隙を見せた樋口に三五の背負いが突き刺さる。
二人が顔を見合わせて、同時に審判を見るシーンが面白い。
投げられた樋口だけでなく投げた本人まで驚いてる。
技有り取られて愕然とする樋口の表情を何と形容すればいいのか分からない。
負けるどころかポイント取られたのも久しぶりだろうな。
樋口をウスラバカ呼ばわりする山崎……そう言いたくなる気持ちも分かるけど、もうちょっと冷静になれよ。
樋口を責めるのは仕方ない。
全力を尽くして届かなかったのではなく、油断しすぎただけですから。
でも自分まで頭に血を上らせたら駄目でしょう。
石川の方はまだ状況が見えてる。
・慢心、動揺
動揺した樋口は完全に頭に血が上っている。
あー、この慢心→動揺→敗北のコンボ、どこかで見たな。「ダ」から始まり「ん」で終わる作品の、頭に「ハ」のつくキャラクターで。
樋口が慢心するのも無理はないんですよね。
それを責めるのは酷じゃないかと言えるほど実力が高く、全国でもトップクラス。
自分より体格・体重が上の相手ともやり合って、県外の実力者達と戦って、勝ち続けてきた。
そこらの選手相手なら勝って当たり前。早く片付けろと急かされるレベル。
高校まで柔道未経験だった、一年の白帯となればなおさらです。
実力者とされる飛崎や石川が敵だったらポイントを取られても冷静に反撃の機を窺い、逆転できたかもしれません。
そもそも彼らとの対戦なら隙を見せずに倒すか。
・隙
片手で内股決めた樋口が「おそろしい男だ」と言われてますが、どれくらい難しいのでしょう。
どなたかダイ大で喩えてくれないかな。
残り時間が少なくなり、焦った樋口の技のタイミングが狂い出す。
この時点では精神に脆さがある。
寝技に持ち込んで押さえ込む表情が必死です。
ここまで追い詰められた経験は、高校に入ってからは初めてなんじゃないか?
ギリギリで三五に脱出され、ものすごい表情してる。
山崎も負けじとすごい顔してる。
・決着
敗北が決定し、俯いた樋口。
心配なのは山崎からビンタされなかったかということです。
罵声とビンタが同時に飛んできてもおかしくない。
下手すりゃ拳骨くらいそうだ。
本人が一番ショック受けてるし、樋口なら誰に言われなくても猛省して鍛え直すでしょうから、あまり酷い扱いしなければいいんだけどな。
仲間達の反応も気になってたまりません。
・戦いを終えて
新聞に載った途端あれほど反対していた母親が掌を返したのには笑った。
調子いいんだから、全く。
父親の方は淡々としている。いつ見ても対照的な二人だ。
黒帯を取るために昇段試合に挑む三五達。
樋口に勝ったのだから当然楽勝のはずが、中学生相手に四引き分け。
三五、スランプ突入。
大物を倒して燃え尽きた様子。
樋口が見たら「こんな男に負けたのか……」と愕然とするんじゃなかろうか。
頼むからしっかりしてくれ。
ゆりに惚れてると指摘されてストレートに肯定する秋山。
恋愛要素もありますが、告白や多角関係等でグダグダせず進むので心地よい。本筋の柔道が停滞しないからちょうどよく感じられます。
秋山が前進する一方、ひろみが別の男といるところを目撃した三五はフられたと勘違いし、自分には柔道しかないと思い込む。
何だかんだでスランプ脱出しました。
三五のスランプは、柔道への熱意で調子が戻りかけていたところに、ひろみが最後の一押しで復活させるパターンが多いです。
・春の選手権大会・県予選
史村や取材に訪れた記者の前で練習する三五達。
「あれだけきれいな背負いができる奴は日本中さがしてもめったにいねえぞ」
一年の段階でそのレベルって半端ないな。
三五にレギュラー取られて複雑な顔してた青柳ですが、普通に接してます。嫉妬でネチネチしなくてよかった。
選手権大会へ向けて、まずは県予選から。
マドンナ――大会に優勝したら買い替える予定の車――は一体何なんだろう。
試合は派手な必殺技や便利な特殊能力が飛び交うことのない、現実寄りの内容ですが、試合の外は結構ファンタジーが発生する。三五の眉毛のミステリーサークルとか。
今回樋口は右肘を怪我して補欠に。
目標の不在に三五は拍子抜け。三五の中で樋口の存在が大きいな、本当に。
樋口の方は一回戦から三五に注目している。
以前は三五だけが気にしていましたが、今は樋口もしっかり見てますね。
ハンサムな敵の大将に対する言葉に笑った。
「たしかにハンサムかもしれんが、あいつは女にはもててねえはずだ」
「え! 本当ですか!」
「それはなぜですか!」
「それは……柔道部だからだ」
悲しいこと言うなよ。
少なくとも千代崎は絶対モテるぞ。
中身も外側もハンサム。努力家で、礼儀正しくて、爽やかな好青年。
モテないはずがない。
同じく実力と人格のバランスが取れていて、爽やかな容姿の内田もモテそうです。
ハンサムな大将を投げる際に印象に残ったのは三五……ではなく、副審の動きです。
慌てて椅子を持ってどく様がリアル。
・二回戦・飛崎戦
先鋒で五人抜きした三五に対し、飛崎が出てきた。
樋口がいなければ間違いなくインターハイに出ていた男。
樋口に「どう思う? 樋口!」と訊く桜木は、樋口が三五にこだわっていると思っているんだろうか。実際こだわってますが。
感想を求められた樋口いわく、「飛崎の方が上」。
言葉通り、三五が得意の背負いに行こうとしても潰される。
もたもたしたら飛崎の内股が飛んでくる。
誰もが飛崎の勝利を確信し、三五の健闘を称える中で……三五は諦めてはいなかった。
組めないと悟った三五は、なんと片手で背負いに!
投げたぁ!
このシーンがトップクラスにカッコいい。
釣り手だけの背負いは五十嵐の得意技だが、教えてはいなかった。
三五は自力で、土壇場で辿りついた。
飛崎兄戦は全体通しても好きな戦いの上位に位置します。
三五の素質が発揮され、樋口の意識が変わる戦いですから。
飛崎にとっても重要です。
ここで三五の力を知ったからこそ、後の喝につながるのでしょう。
「お……おいおい、樋口~!」という桜木の反応に笑ってしまった。
この口ぶりだと桜木もわりと仲良いのかもしれない。
劇的な逆転勝利を目撃した樋口の様子が……!?
「なんでこんなときにケガなんかしてしまったんだ」
「三五ともう一度勝負したい……」
「こんな気持ちになったのははじめてだ……」
今までなかったのか。
中学の時に敗北の経験もあったわけですが、その時は感じなかったのか?
日本一になった後に負けた相手ということで注目していたところに突き刺さったのでしょうか。
そういった理屈は抜きにして、目の前であんな試合見せられたら火が点くか!
今までも三五と再戦して勝ちたいという意思はあったはず。
ただ、おそらくこの時まで三五の勝利はまぐれだと思っていて、心から認めてはいなかった。
油断した己への怒りの方が大きかったのではないでしょうか。
それがこの試合で、「勝負したい、倒したい」という意識になったのだと思っています。
三五をライバルとして認めた!
熱い展開です。