柔道部物語 5巻
・決勝・江南戦
「言っとくけど三五はな、屁をこくんだぞ!」
人間は誰でもこきます。
他にないのか、人気を落とす要素。
「ききた~い!」と返す女性陣に何を言おうと効果はないか。
決勝も横でアドバイスしたりサインを送ったりしない五十嵐。
自分が煩く言われると調子崩すタイプだったから、とのことですが、生徒達も同じとは限らないだろうに。史村がツッコんでくれてよかった。
先鋒の三五に主将の桜木をぶつけてきた江南。
68キロの三五に対し、桜木は130。実は140とのことですが、計測の頻度はどうなってるんだろう。
ここまで差のある勝負は現実に行われるのかな。
「選手交代! 先鋒、オレ!」
その発想はなかった。
鷲尾さん無茶です、いきなり順番変更なんてできません。
岬商の人々が動揺する中、三五は落ち着いていました。
「投げますから」
不敵。
一歩間違えれば身の程知らずにしか聞こえない台詞ですが、三五ならと思わせる。
皆が体重で劣る三五が不利と見ますが、樋口は違った。
「結果はわかってる……」
「今回は……全国大会は無理だ……」
勝負の行方をすでに見通しているかのような言葉。
普通なら勝てないような相手に勝つ三五の強さ、恐ろしさは、誰よりも知っていますからね。
しかし見切りをつけるが早すぎる気も。
三五が桜木に勝つとしても、他の勝負はどうなるか分からない。
よほど差があるならともかく、ひっくり返る範囲内です。
大体、勝ち目が薄いと思っていても応援はすべきでしょう。今回は山崎の言うことに同意。
樋口の言葉通り、体重が倍の桜木もブン投げられました。
桜木に勝って漂い出した楽勝ムードを叩き壊したのは、次に出てきた大脇だった。
払い腰しかできない初心者ですが、とにかくパワーが凄まじく、掴まれたら最後。
三五も小柴も強引に投げられてしまう。
樋口が投げようとしたらはね返されて怪我したとのこと。
西野だったら……力負けしないだろうな。
上回るパワーで投げ返しそうです。
そもそも西野のスピードを捉えきれない。
大脇の勝利に湧く江南の面々ですが、その中に樋口は描かれていないんですよね。
このまま一気に勝てるほど甘くないと知っているのでしょう。
力任せの払い腰は強力ですが、つけいる隙はボコボコありますから。
焦る三五達に逆転のきっかけを与えたのは……岡!
試合で戦力になれないキャラが勝利の鍵になる展開は熱い。
初心者ゆえに寝技ができない大脇を、三人目の内田が抑え込む!
内田が笑った~!
「ついにばれたか……」と呟く樋口が困った顔をしている。
大脇を破った内田が江南の三人目と引き分けて、どちらも二人を残すのみ。
森田との対決で、平尾が吼える。
「もう江南は雲の上の存在じゃねえ! 俺たちだってやればできるんだ!」
叫びに相応しく、寝技に持ち込まれそうになったところを背後に回り、片羽絞めで一本!
最後の一人、石川を倒せば決着ですが、彼も譲りはしない。
消耗している平尾を投げ、負けじと吼える。
「まだまだ岬商は全国に出る器じゃない。武道館へ行くのは俺たちだ!」
意地と意地のぶつかり合い。
うーん熱い。
とうとう大将同士の戦いになりました。
鷲尾対石川。
自分よりでかい相手に全く臆さない石川は敵ながら頼もしいなあ。
鷲尾は体格が良くパワー抜群、動きも機敏と素質に恵まれています。
それでも戦績が今一つなのは、集中力がないから。
ガキ大将が体だけ大きくなったようなキャラです。
平尾がやられたばかりなのに、学習せずに同じようなことして技有りを取られる。
「このバカヤロウが~! てめえさっき俺が石川にやられたのを見てなかったのか~!」
なじる平尾が何とも言えない味わい深い表情になっている……。普段落ち着いているのに、表情が見事に崩れてる。
鷲尾の無軌道ぶりは不利な状況を招きますが、それを覆すのもやはりぶっ飛んだ発想です。
「石川は背負いに弱い!」
どうしてそうなる。
三五に投げられたのは背負いが苦手だからではなく三五がすごいからですが、背負いで攻めるという判断は今回間違っていませんでした。
「体の大きい奴はこう攻めるだろう」というセオリーを外して、対応が遅れましたから。
まさかの一本背負いに石川が破れ、岬商が全国行きを決めました。
しかし中一の時以来練習していない技を決めるって……よく分からないけどすごいことなんじゃなかろうか。
やる時はやる男です。
この時樋口は沈黙していますが、何を想っていたのだろう。
・全国出場
岬商にとって18年ぶりの全国大会。そして初となる春の高校選手権出場。
当然学校の話題になり、期待が集まる。
優勝は無理でもどこまでやれるか、会場で、あるいはテレビで皆が見守る中……一回戦負け。
テレビでは試合の映像が流れず、描写もありませんでした。
読んでいて「そこカットするのかよ!?」と驚きました。
早いうちに敗退すること自体は予想できます。
「県の王者となったが、初めて直面した全国の壁はあまりにも高く……」という要素はおいしいので、挫折がじっくり描かれると思っていました。
まさかバッサリ省かれるとは。
詳しく見たかったですが、こういう進め方がテンポの良さを生んでいるのかもしれない。
上には上がいると打ちのめされる岬商。
しかし、小柴は来れただけでも嬉しいと涙ぐむ。
強い斉藤が引退したら岬商はダメになると思われていたが、斉藤達でも行けなかった武道館へ来ることができた。
「○○は強いけど××はダメだな」的な言われ方をされるのは嫌だろうな。
地獄の合宿で強くなると決めたのも、斉藤達によって全国出場が夢物語ではなかっただけでなく、「鷲尾達の代になってからは駄目だ」という見方を覆したいという想いがあったのかもしれない。
尤も、出ただけで満足、ここでお終いとはなりません。
今度はインターハイがある。
・二年になって
セッキョー以上に危険な儀式、「おはつ」。
バケツやヤカンはまだしも、こたつで頭殴るのはやめろ。
死人が出るぞ。
史村、五十嵐、そして史村の後輩で耕談館大付属高校の長谷川が三五の家を訪ねてきました。
長谷川は無口で何考えてるのかよく分からない人です。
史村が何しに来たかと言うと、三五に東京への転校を提案しに来た。
大勢部員がいて切磋琢磨する厳しい環境の方がいいのではないか。
おお、スポーツもので見る展開だ。
三五は断りました。
人数は少ないけど全員やる気がある……主人公らしい台詞ですが、名古屋や八木は?
まだまだ五十嵐に教わりたいことが山ほどある、という台詞には異論なし。
会話の間喋らなかった長谷川が一言。
「残念です」
無口だな。
せっかくの勧誘を断った以上、一回戦負けなんてしていられない。
決意を新たにした三五達のやったことは……セッキョー。
やるのかよ!
普段大人しい岡がキレて暴走しているのが怖かった。
「去年よりはあまくしたつもりなんですけど」
それ小柴達も言ってた。
犠牲になった一年に秋山達が、二年になったときはセッキョーなんてやめろと叫ぶ。
勝手だなー。
自分達はノリノリでやっておきながらお前らはダメだなんて言われても納得できるわけないだろうに。
当然、一年は拒否。
「おことわり……します!」の間がいい。
ああ、悪しき伝統が続いていく。