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ひよこの足跡ブログ

漫画やゲームなどの感想を書いています。 ネタバレが含まれることもありますので、ご注意ください。

Sorge il sole 第六話

第六話 門番



 数百年ほど前、魔界を二分する勢力の長同士が会談の場を設けた。
 大魔王バーンと、雷竜ボリクスに打ち勝ち冥竜王の称号を得たヴェルザー。
 元々彼らは魔界で対立する立場だった。単に勢力を争うだけではない。地上への干渉の手段があまりにも違いすぎるためだ。
 冥竜王は地上の侵略を。大魔王は地上の完全なる消滅を目的としていた。
 そのため、話し合うことなど何もないと思われていたのだが、バーンの提案は予想外のものだった。
 敵対することをやめようと言うのだ。
 他の者ならば冗談かと笑って片づけるだろうが、ヴェルザーは即座に却下することはなかった。彼らは争っていても同じ想いを抱いているのだから。
 共通しているのは、神々への憎悪。
 大魔王はチェスの駒を弄んでいる。触れるだけで折れそうな老体だが、鋭い眼光も全身から放たれる圧倒的な威厳も王者に相応しい。
 額の瞳があやしく光った。
「ヴェルザー。賭けをせんか?」
「賭け?」
「各々の戦略を進め、成功した者に従うのだ」
 双方とも相手を完全に叩き潰すのは難しいとわかっている。滅ぼせたとしても、自らの勢力が大きく衰退することになっては元も子もない。賭けに負けた場合の代償は大きいが、相手を従えることができればそれに越したことはない。
「面白い」
 ヴェルザーが牙を剥き、バーンも愉快そうに笑った。

 木々をバキバキとなぎ倒しながらヴェルザーが着陸した。
 ポップの頬を冷や汗が滴り落ちる。間近で見ると迫力が全く違う。
 ダイ達四人と黒騎士は戦闘態勢に入ったが、それを制したのは大魔王だった。長年会えなかった友人に再会したような笑みを浮かべている。
「聞こえなかったのか? 先に行けと言ったのだが」
「あんた一人に押し付けるのはおかしいだろ」
「たわけ。旧友と直接語り合っていなかったのだ。関係無い者がいては無粋にもほどがある」
 そこまで言って、バーンは挑発するように笑みを浮かべた。
「それとも余がいなければ不安でたまらぬか? ……ミストよ、お前も勇者達と共に進み、出迎える者と戦ってやれ」
 ミストは主の言葉に一瞬ためらいをみせたが、無言で四人を促した。
 その言葉でダイ達はようやく、黒い騎士の正体がミストだと分かった。敵だったというのに、主の命令で共闘しようとしている。
「いいのかよ、オイ」
 ポップがこっそり囁くが、答えは分かり切っている。
「大魔王さまのお言葉はすべてに優先する」
 それ以上留まっていると斬りかかりそうな眼光だ。ダイが頷き、一行は前へと走り出した。

「ここでは狭いな」
 バーンもヴェルザーも周囲の木々を瞬時に消し飛ばす力は持っているが、目ざわりであることに違いはない。
 ふわりと舞い上がり場所を替えるヴェルザーに従い、バーンも移動する。
 道から外れた所に広場があった。白塗りの椅子や噴水が設けられた憩いの場は、すぐに破壊されることになるだろう。
「お前の封印が解けているとは……神々に復讐しに来たか?」
「貴様はオレと戦うのだ、バーン」
 バーンの顔が失望に曇る。
「神々に封印を解かれ、飼い犬になり下がったか。門番とは冥竜王の名が泣くぞ」
「黙れ」
 ヴェルザーの目に理知の光は感じられない。あるのは虚ろな洞だけだ。
 バーンが鬼眼でヴェルザーを見据えると、全身に光の鎖が巻きついているのがわかる。特に首の周辺には幾重にも巻かれているのがわかった。
 ヴェルザーは操られている。封印を解かれ、無防備になった魂を縛られてしまったのだ。いくら肉体が復活しても本来の姿からは程遠い。
「牙を失った竜など蜥蜴も同然。今のお前では余は殺せぬ」
 もはや返答はない。ヴェルザーは全身を殺意と狂気に染めていく。
 直後、冥竜王と大魔王が激突した。

 ダイ達の背後から爆音が響く。
 地面が振動するたびに背筋が冷える。
 後ろを振り返る気にもなれず五人は歩を進めていたが、足が止まった。
 四つの人影が行く手を遮っている。その背には、形状や色は違えど、いずれも翼が生えている。
 先頭に立つのは黒い仮面で目を隠し、金髪を風になびかせている天使だ。笑みの浮かぶ口元は人形のように整っている。肌の色は白く、羽根も純白だ。
 二人目は竜の頭に鷲の羽根を備えた厳つい男。
 三人目は幼い少女で竜のように武骨な翼を生やしている。その眼は閉じられていた。可愛らしい服には似合わない、地味な枯木色のボタンがついている。
 四人目は槍を携え、無精ひげを生やしている男だ。背に生えているのは、昆虫を連想させる透明の翅。赤髪に黒の瞳を持つ彼は飄々とした笑みとともに、陽気に手を振った。
「悪ィが、こっから先は勇者と大魔王以外通せないんだ。仲良しさん達を引き裂くなんてこたしたくねえが、ここは心を鬼にして――」
「無駄口を叩くな」
 ぺらぺらと喋る男に叱責を飛ばしたのは仮面をつけた天使だ。
 仮面越しでも伝わるほど無遠慮な視線をダイ達に順番にぶつけていき、いきなりピタリと止まる。
 視線の先にいるのはミストだ。黒騎士を見つめる貌が、笑みを留めたままゆがむ。
「貴様はこの私、オディウルが相手だ。地を這う存在の居場所など天界にはない……下界で滅べ!」
 宣言と同時に魔力が仮面の天使とミストを包み、両者の姿が消えた。言葉通り地上へと赴いたらしい。
「せっかく昇ったのにそりゃねえだろ!」
 貴重な戦力がいきなり失われ、思わずポップは叫んだ。
 この場から連れ出されたミストの方も同じ心境だろう。戦いが終わった後に主の元に馳せ参ずるのが難しいため焦っているはずだ。常ならば簡単に敵の呪文に巻き込まれることはないはずだが、乗っ取って日の浅い肉体、天界の空間が持つ特異性、力を封じる結界など悪条件が重なりすぎている。地上へ戻ることで結界の効果はなくなるとしても、仮面の天使は機械仕掛けの人形とは比べ物にならぬ力を秘めているだろう。
 叱責された男も申し訳なさそうに頬をかき、頭を下げる。
「ごめんなー。アイツ、やっと戦えるから張り切ってんだ」
「そ、そういう問題か?」
 ポップが呆れると、男は同感だと言いたげに頷く。
「頭に血ィ上らせすぎだっての。……相手するヤツも気の毒に」
 空の彼方へ同情の眼差しをたっぷりと送ってから、男は向き直る。
「俺はミランチャってんだけど、どいつと戦えばいいんだい? 個人的には親衛騎団の兵士と戦いたいんだけどな」
 仲間を庇うようにダイが進み出たが、ラーハルトがそれを止める。
「神との戦いの鍵を握るのはあなた様なのです。その力を前座ごときに消耗させるわけにはいきません」
「でも……!」
 ダイは迷っていた。神々の企みを止めるため、危険を知りながらも相手の要求を呑み、指定されたメンバーで来た。一度天界に入ってしまえば要求に従う必要はなくなる。結界がポップ達の力を奪っていることもあり、自分が先に進んでもよいのか判断に苦しむ局面だ。
 たとえ神との戦いの前に消耗しても、仲間の安全には代えられない。そう決意し、剣に手をかけた時だった。
『何をしているんだい? 祈りでも捧げるつもりかな? ……ぐずぐずしたらそれだけ計画は進むんだ』
 この場にいない者の声は、神のもの。後半は声が真剣になったため、事実を告げているのだろう。
「ダイ、行け! 部下に加勢させないから安心しろ!」
 頷き、走り出す。迷っている時間はない。同時に槍を持った男、ミランチャが仲間の攻撃の巻き添えを食らわないようヒムを伴って移動した。竜頭の男と目を閉ざした少女は、ポップとラーハルトを相手と決めたようだ。
 自分に加勢してくれとは思わず、ただ仲間の無事を祈りながらダイは走り続けた。
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