忍者ブログ

ひよこの足跡ブログ

漫画やゲームなどの感想を書いています。 ネタバレが含まれることもありますので、ご注意ください。

Sorge il sole 第十五話

第十五話 読み合いの勝者



 ガルによって地上に戻されたポップ達は周囲を見回した。
 どちらへ向かえばいいのかわからない。
 異常な事態が起こったことは不気味な鳴動でわかるのだが、情報があまりにも少ない。
 ガルがラファエラまで地上に送ったことも気になる。敵である自分達に託し、頼むと告げた真意もわからない。
「ど……どうしますか、先生」
 明確な目標や敵があるならば勇気を振り絞ることができるが、分からないことだらけの状況で何かに邁進するのは難しい。アバンもさすがに一瞬困った顔をしたが、不安を和らげるように微笑んだ。ラーハルトはダイのことを案じているのか、上空を見上げている。
「気になるのはカラフルな輝きですね。天使によって各地に蒔かれた虹色の水晶と何か関わりが――」
 思索に耽りそうになったアバンを現実に引きずり戻したのは、頭の中に響いた声だった。
『魔法を扱える者に伝達する。各地の天の弓を停止させよ!』
 それから一度に情報が頭の中に流れ込んできた。
 声は聞き覚えのあるものだった。それも当然だろう、アバン達はミスト本体の声を聞いているのだから。
 色と対応する魔法、天の弓の大体の位置などが伝わり、アバンは表情を引き締めた。
「どうやら迷っている時間はないようですね。行きますよ、ポップ」
「よっしゃ!」
 一同は最寄りの天の弓まで移動した。

 その頃ミストはヒュンケルとエイミ両方の体を使い、呪文で飛び回って各地の紫の天の弓に暗黒闘気を浴びせていた。
 ヒュンケルはミストに体を譲っているが、魂まで明け渡すつもりは無い。乗っ取られそうだと感じたら即座に反撃できるように光の闘気をため込んでいる。
 順調に職務を遂行していると思われたミストだが、口調が苦々しげなものに変わった。
「お前の体を動かしつつ光の闘気を使うことは出来ぬ……」
 暗黒闘気の集合体であるミストには、光の闘気を操ることは不可能だ。
「オレは体をろくに動かせないが、光の闘気を持つ者ならば他にもいる」
「何?」
「覚えていないか? ヒム……金属生命体でお前を追い詰めた男だ。……お前はアイツを嫌っていたな」
 ハドラーの魂を受け継いだと告げたヒムに対し、ミストバーンは怒りを露にしていた。
 同じ人物に敬意を抱く両者だが、姿勢の違いから相容れることはない。
 ミストは不快そうに瞳を明滅させたが、断言した。
「大魔王さまのお言葉はすべてに優先する……!」
 ミストが感覚の網を広げていく。その中で微かな光を感じ、ヒュンケルが合図した。
「その近くには確か白金と紫の天の弓があったな。……人形などと協力するとは」
 声はこれ以上ないほど苦々しい。吐き捨てる、という表現がぴったりの口調だ。
 気が進まないと顔全体で意思表示しながらルーラを用い、飛ぶ。

 ヒムは体力が回復しておらず、ミランチャと戦った際の傷もそのままで倒れていた。両腕は砕け散り、全身に深い傷が刻まれ、力無く地面に横たわっている。相手の必死に訴えるような眼差しが頭から離れない。
(アイツ……悪い奴にゃ見えなかったな)
 それでも戦ったのは譲れぬ信念があったから。善悪を超え勝負したのはヒムと同じだ。
 その彼が地上に戻るよう説得したのには、何か理由があるはず。頭をひねったが結論が出るはずもなく、動けぬ彼は体力の回復を待つしかなかった。
 突如、頭の中に声が響いた。
『光の闘気を操るお前の力が必要だ』
「おわっ!? 何だってんだ?」
 ビクリと身を震わせたヒムは目を見開いたが、情報を与えられ、顔をしかめる。
「けっ、お前の言葉に従うのは気に食わねーな」
 ヒュンケルの魂を破壊して傀儡にしようとしたミストにヒムは良い感情を抱いていない。ハドラーを評価していたという点がなければ、両者の間に全く共感は無い。
 いくら緊急事態だと言っても、かつての激闘を水に流すのは難しい。闇の衣を取ったミストバーンと直接戦った彼こそ、誰よりも深く脅威を味わっている。
 その時、空の一点が光り、急速に近づいてきた。光の中にはヒュンケルと彼の腕をとり呪文で飛んでくる女性――エイミがいる。その瞳は暗く、本人の意思は一時的に封じ込まれている。
 ヒムの口がぽかんと開き、間の抜けた表情になった。まさかヒュンケルと、ミストに乗っ取られた女性が来るとは思わなかった。
「ヒュ……ヒュンケル! お前動けない体だったろ、それなのに世界中飛び回ってんのか!?」
「暗黒闘気を使って天の弓を止められるからな」
 立てないながらも上体を起こし、ヒムは必死に叫ぶ。
「危ねぇって! そいつがしようとしたこと忘れたのか!? ボロボロになって死ぬかもしれないし、魂を砕かれるかもしれねえんだ!」
「オレはかつて一国を滅ぼした。ここで命を張らなければ意味がない」
 一瞬ヒュンケルの瞳に不思議な色が浮かんだ。己の破滅を覚悟しつつも、それに対する感情を消化したような。
 動けないヒムの傍らにエイミが近寄り、しゃがみこんだ。緊張するヒムだが、彼女は回復呪文でヒムの傷を癒していく。嫌悪するかつての敵を回復するという行為に、中にいるミストを凝視する。
 何も言わないミストに代わり、ヒュンケルがヒムを諭した。
「ミストバーンも通信呪文を使ったせいで消耗している。今は天の弓を止めるために協力してくれ」
「……わーったよ! ミストバーンさんよ、その忠誠心は見上げたもんだぜ」
 体力が回復し元気一杯になったヒムは勢いよく跳ね起きた。拳を打ち合わせ、不敵に笑う。
「さぁて、止めてやろうじゃねぇか天の弓とやらをよっ!」

 世界各地では未だ混乱は収まらないながらも、人々は天の弓を止めるために奔走していた。ニセ勇者と呼ばれる一行も同様だった。
「ちょっとでろりん! なんか天使みたいなキラキラしたのが飛んで来るよぉ!」
 女僧侶のずるぼんが叫ぶ。それなりの戦闘能力を持つとはいえ、ニセ者を自覚しているのだ。当然大軍を一度に撃退するような強さはない。
「ち……まぞっほ、どうにかなんねぇか!?」
「い、今はこの天の弓を止めるしかない」
 青く輝く天の弓にヒャドをかけつつ、まぞっほが答える。彼らに天使の刃が迫り、折られる。へし折ったのは魔物だ。天使よりも強そうな姿に一行はすくみあがり、動けないでいる。
 ぎょろり、と魔物が眼を動かした。失神しそうになりながらも抵抗しようとした彼らに、相手は淡々と声をかけた。
「魔界の地にも青い天の弓が多く設置されている。協力してくれ。そっちの女僧侶はホイミも使えるだろうから緑も頼みたい」
「そ、そんなこと言われたってぇ」
 いきなり協力しろと言われても簡単に頷けるわけがない。弱い相手を選んだとはいえ、今までの冒険でモンスターを倒してきたのだ。
 反応の鈍い彼らに呆れたような視線を向け、魔物は無色の天の弓を指差した。そちらにもモンスターが向かっている。
「これは取引だ。真空呪文や爆裂呪文を使う者を貸す。その代わりそちらの力も必要だ。でないと止められん」
「よく人間と力を合わせようなんて思ったな」
 でろりんが鼻水を垂らしながら思わず呟いた。
「バーン様からのご命令だ。早くしろ」
 断るわけにもいかず、でろりん達はそれに従った。
 各地で似たようなやり取りが展開されている。
「バギ使える奴、他にいないかぁ!」
「イオを唱えてくれ!」
「誰か援護を! 俺だけじゃ天使から守り切れない」
 アバンやポップも呪文を放ち、魔力が切れそうになると携行していたシルバーフェザーを使用する。他の人間はモンスターから魔力を回復させる薬を分けてもらう者もいた。大魔王の命令で魔力切れに対応できるように配られていたらしい。
 今は魔族に対する偏見を捨て、一致団結すべき時だと人間の誰もがわかっていた。魔族も人間に対する蔑視を棚上げすることに決めていた。
 魔法を使える者も使えぬ者も一つになり、働いている。戦う力を持つ者は魔法使いが呪文を放つ間護衛に徹し、戦えぬ者は結界の中で少しでも戦士の疲労を回復させるべく食事や薬草を準備していた。

 木々の間にある小屋ではノヴァが天使相手に孤軍奮闘していた。避難が間に合わなかったロン・ベルクを見捨てるわけにもいかず、近くに設置された天の弓を止めていたため逃げられなかった。闘気剣で数体をまとめて叩き斬るが、敵の数が多い。魔力も尽きかけている。
 息が上がり、疲労の色が隠せないがそれでも小屋へ続く扉の前に立ちはだかり、ここは通せないというように睨みつけている。
「ノヴァ……オレのことは気にするな。早く逃げろ」
 両腕に包帯を巻いたロン・ベルクがその後ろに立ったが、ノヴァは首を振って拒否した。
「ここであなたを見捨てて逃げるわけにはいかない! あなたこそ、ボクが足止めしている間に逃げてください! 絶対に傷一つつけさせやしませんから」
 ロン・ベルクは息を吐いた。こうなったらノヴァの意思は何者にも覆せないだろう。おそらく命尽きるまで戦い続ける。少年が命を捨てる覚悟で戦っているのに、自分だけ避難するなどできるわけがない。
「……情けないな」
 動かぬ両腕を眺める。剣が使えればこの程度の敵に殺されなどしない。何十、何百といようが全て斬り伏せる自信がある。
 その時、孤立無援の彼らに声をかけた存在がいた。魔物だ。
「なぁ、何でお前、魔族のために戦ってんだよ」
「魔族のあんただって、人間のガキが何しようと気にする必要ないだろ」
 ノヴァが天使を斬り伏せつつ叫んだ。
「お前らに何がわかる! この方は自分の両腕を犠牲にしてまでボクを、人間を救ってくれたんだ……尊敬する師を人形なんかに殺させてたまるかっ!」
「ノヴァもまだまだ頼りないとはいえ、一応オレの弟子だからな。弟子を見捨てて逃げる師匠なんて格好悪いだろう」
 ためらいなく答えた二人に魔物二匹は顔を見合わせた後、天使に突進する。
「よく分かんねーな」
 と呟きながら。

 協力する人間や魔族を尻目に、どこまでも我が道を進む男がいた。
 天の弓停止にもまったく関心を示さず、天使の集団に囲まれている彼が纏う装束は黒一色。奇術師を思わせる服装に身を包み、笑みを刻んだ仮面を被っている。
 手にしているのは刃が鋭く光る大きな鎌だ。気楽な体勢をとっているが、敵に襲われれば即座にかわし反撃するだろう。
 彼は退屈そうに肩をすくめ、近くにいる小人に話しかけた。
「機械仕掛けの人形が相手じゃつまんないんだけどね」
 一つ目の小人も、もっともだと言うように深く頷いて同意を示した。
 闘志の薄い相手を見逃すはずもなく、物言わぬ人形が得物を構えた。
 死神は周囲を見回し、魔族達が戦っている様を見てクスリと笑みを漏らした。余裕のない彼らは、とっとと戦えと眼で訴えている。
 相手の内心に気づいていながら死神はのんびりと進み出た。
「余力を残しておくのは大事だよ。……まあ今回は、観客がいるから華やかにいくか」
「わ~い、キルバーン頑張れ~!」
 小人の声援に手を振って応え、キルバーンは指を鳴らした。どこからともなく現れた一枚のトランプを宙に投げ上げる。
「ショータイム」
 一枚だけのはずのカードが、落下して再び手に収まる頃には束になっていた。腕を前に突き出し手を離すと、束は宙に浮かび、その中から五枚のカードが吐き出された。背を天使に向けている。
 普通の大きさだったのに、配られた五枚はあっという間に人間ほどに巨大化し、くるりと反転した。
「ダイヤの10、J、Q、K、A。ロイヤルストレートフラッシュ!」
 色とりどりの光が乱舞し、戦っていた魔族の目を焼いた。天使をあっという間に葬っていく光景に感嘆しかけたのもつかの間、巻きこまれそうになったため慌てて交代する。
 巻き添えにしても詫びるどころか、喜々として一緒に葬りそうだ。
 魔族達はぞっとした様子で距離を置く。血塗られた世界で生きるだけあって、冷酷、残忍というだけで嫌悪することはないが、自分達にまで被害を及ぼしかねない相手に近づきたくはない。遠ざかる魔族を見送り、キルバーンは残念そうな溜息を吐いた。
「仕事にしても単調すぎるとね……。出来の悪い人形ばかりでうんざりだよ」
 要らなくなった玩具を捨てる子供のように、キルバーンは残骸に目もくれず歩を進めた。

 ヒムが白金の輝きに闘気のこもった拳を叩きつけ、ミストが紫の灯に暗黒闘気を帯びた掌で触れる。金と黒の光が乱舞し、世界各地の天の弓を止めてゆく。時折天使が現れるが、ヒムが銀色の髪をなびかせつつ殴り、蹴り壊していく。
 傷つき疲労しきった兵士にレオナの激励がとび、天使にフローラの鞭が伸びる。クロコダインの斧が唸り、ラーハルトがハーケンディストールで数体を巻き込みつつ吹き飛ばし、完全に破壊する。
 魔族や魔物の中には、天の弓に呪文を唱えた直後に素早く移動し、天使に鋭い爪を叩きこむなど素晴らしい戦いぶりをみせる者もいる。
 ある魔族の女性は傷ついた戦士達に種族を問わず回復呪文をかけ続けていた。
 設置された場所が元魔界であるか否かはもはや関係なかった。呪文を放ち、天使と戦い、傷ついた者を回復させる。
 どれほどの時間が経ったのかわからない。
 気づけば、全て天の弓は停止させられていた。
 天帝は口を掌で覆い、目を大きく大きく見開いて、映し出された光景を食い入るように見つめている。
 映像の中ではようやく一息ついた魔族や魔界の魔物が太陽を指差し、興奮を露わにしている。初めて真の輝きを目にして眩しそうにしながらも、不愉快ではないのか手を広げ、存分に光を浴びている。
 ダイが瞳に強い力を覗かせつつ断言した。
「人間と魔族が協力したから止められたんだ。おれやバーンの戦う力だけじゃ止められなかったかもしれないけど、皆の心が一つになったからできたんだ」
「お前は余と同じ過ちを犯した。人間の力を過小評価し、侮るという過ちをな。人間は窮地に追い込まれるとしぶとい。実に強かだ」
 自らの人生をかけた計画を潰され、思い知らされた事実。それを告げるバーンの口調はどことなく楽しげだ。
「余の計画の二番煎じならば修正すべきだったのだ」
 バーンの手がすいと動き、駒を遊戯盤に叩きつけるような仕草をした。
「手の読み合いは余が一歩上だったようだな」
「おまえなんかに世界は壊されない」
 二人の声が重なった。
PR

コメント

ただいまコメントを受けつけておりません。

最新記事

(05/05)
(04/28)
(04/21)
(04/14)
(04/07)
(03/31)
(03/24)
(03/17)
(03/10)
(03/03)