TW101SS『断念・待望』
鮫型の宇宙船内にて上機嫌な声が響いた。
声の主は宇宙海賊ガイゾックのリーダーであるヴォークン。彼は地球の戦士達と一戦を交えたばかりだ。
敵のチームを率いる若者は有望だ、ゆえに配下に加えたい――語る声は弾んでいるが、傍らで聞いている参謀のチューギは何も言わない。
寡黙な性格に加えマスクを被っているため表情も分からない。
会話する際困りそうな状況だが、ヴォークンは部下の心中を一切斟酌しないため、顔が隠れていようがいまいが関係なかった。
沈黙とともにチューギは思考を巡らせていた。
新たな戦士を迎え入れて戦力を増強する。
喜ばしい展開のはずだが、チューギは歓迎する気にはなれなかった。他のメンバーも同じ気持ちだろう。
自分達と同じ苦しみを味わうことになるのだから。
力を求める欲望に際限はない。
仮にゲスジャークを上回る力を得たとしても、ヴォークンが増大した戦力を手放すとも思えない。
皆の隷属の日々は続くだろう。
チューギは主君の横顔に視線を向ける。
能力の高さに疑問はない。
人質はあくまで離反を防ぐためのもの。
実力を確かめ部下に引き入れる時は、正面から相手を叩き伏せてきた。相手が集団ならば同数で。単身の時はそれに合わせて。
一対一の戦いも、集団を率いての戦闘も優れている。
普段の道化た言動が嘘のように視野を広く保ち、状況に応じて様々な武器を使い分け、敵を追い詰めてゆく。
認めたくはないが、資質はずば抜けている。こと戦闘センスにおいて彼を上回る者などごくわずか――広い宇宙でもそうはいないだろう。
だからこそ、腹が立つ。
能力に舌を巻くと同時にこうも思うのだ。
(何故、それほどの力を持ちながら――)
『ゲスジャークの暴虐から弱き人々を守る盾となりたい』。『そのために力を貸してほしい』。
そう真摯に頼まれ、頭を下げられたならば、頷いたかもしれない。
名の通り、忠義を尽くしたかもしれない。
現実には、彼は暴君で、己は侵略者の手先だ。
(いつこの日々が終わるのか……)
ヴォークンを止めるには、言葉だけでは届かない。
いくら心を込めて訴えようと、圧倒的な力に呑まれて果てるだろう。
力だけでも足りない。
ただ打ち負かしただけでは、再び同じやり方で――もっと過激な手段を用いて、力を得ようとするだろう。
彼を上回る力と心に響く言葉、二つを合わせねば止められない。
(可能性があるとすれば――)
何故かチューギの心に浮かんだのは、地球の戦士達の姿だった。
粗削りで、結束しきれていない烏合の衆。
自分達に遠く及ばない未熟な集団。
見込みは薄いと理解していても、期待を否定できなかった。