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ひよこの足跡ブログ

漫画やゲームなどの感想を書いています。 ネタバレが含まれることもありますので、ご注意ください。

うしおととら感想 3

うしおととら感想 3



第二十一章 変貌

うしおを元に戻すため、五人の少女が櫛で髪を梳かねばならない。
正気に戻った悟は爽やかで頼もしい。
己も苦しい状況で舎弟をフォローし、力づける悟。さすが。人望があると評されるのも頷ける。
流や純、悟の舎弟の四人も協力してくれる。
今までうしおが助けてきた相手が今度は彼を助けるのが熱い。
法力僧だけでなく女の子達にも言えることです。

言い争う勇と麻子、どちらの言い分も理解できる。
麻子の憎まれ口は、普段ならともかく、彼の身が危ない時に心配している人達の前で言うことじゃないよな。
不安を和らげようとした台詞だとしても、あんな言い方したらカチンと来るでしょう。
勇も言いすぎ。
何も知らないくせにと言いますが、勇の方もどこまで知っているんだと言いたくなる。
麻子がうしおにとってどれほど大事な存在で支えになっているか知らないでしょう。
普段辛くても「へっちゃらだい!」と堪える彼が、麻子には「苦しいぜ」と呟くんですから。
それに、彼女は体を張って守ろうとしたから、偉そうなだけじゃない。
日輪は相変わらずです。
主人公的に批判的なのはかまわないのですが、内容が無茶なので何だかなぁ。
獣化は修行してどうにかなる問題でもないだろ。

「わしは妖だからいい。人を喰おうとムチャしようとよ…だけどよ…だけどよ! おまえは人間だろが!」
と言い切るとらの表情が切ない。いかにも心配してますって言葉ではないのに、二人の距離感に相応しい。
だからこそ槍でどつかれた時の表情が、続いて高らかに笑う様が、この上なく爽快です。
見開きで背中にうしおを乗せ、雷撃で婢妖を次々滅ぼすとらが嬉しそう。喜んでる喜んでる。
いよいよ獣の槍誕生の経緯が明らかになります。

第二十二章 時逆の妖

白面の者の凶悪さが炸裂。
正直外見だけなら可愛らしいと思ったのですが、暴れっぷりを披露してくれます。
父、母、兄ギリョウ、妹ジエメイの四人で貧しいながらも幸せに暮らす一家にうしおも和んでいる。
父親は穏やかで気のいいおっさん。復職を望んでいたのも、家族が苦労せずに済むからだろうな。
ジエメイの母も優しい。うしおは、母親はこんな感じかもしれないと思ったんじゃないか?
ギリョウの涼しげな目元に何も言えなくなる。
希望が光れば光るほど……。

この国にきた白面の者を倒せる神剣を鍛えれば、不自由のない生活を送ることができる。そんなささやかな希望は木っ端微塵に砕かれた。
白面の者が正体を現し、ずるりと姿を変える様にぞっとしました。
見開きで「しぱん」と人々の首が飛びます。
圧倒的、絶望的な威厳と風格。
これぞラスボスに相応しい。
兵士の血肉が爆ぜ、無数の剣が折れ砕ける。
無造作な一撃で父が絶命し、助けようとしたうしおの手は届かず母も上半身を消し飛ばされる。
歯を食いしばったうしおの表情が壮絶で、対峙する緊張感も凄まじい。
これでまだ恐ろしさを最大限に発揮していないんですよね。
単純な戦闘力だけでも恐ろしいのに、それを上回る悪辣さを備えていますから。

ギリョウが告げた残された方法とは人身御供。
止める二人に微笑し、ジエメイは灼熱の炉に身を投じた。
妹を死に追いやった兄は血の涙を流しながら剣を打ち、やがてその体は柄に変化し、「槍」の一部分となった。
過去話は重く暗いものになりがちとはいえ、ここまで容赦ないとは思わなかった。
ジエメイは絶望して投げやりになったのではなく、うしおのいる世界に行きたいと願っていました。
生きたいと思い、希望を抱いていたからこそ、命を捧げる決断が重くなる。
ギリョウも同じです。
妹が生きていて希望が残されていたからこそ、自らの手で壊してしまった絶望が深くなる。
両親と同時に喪っていたら、あれほど憎悪に燃えなかったかもしれません。
自分の行動が妹を死へ追いやったから……どこかで望んでいたかもしれないから、やりきれない感情が噴き上がり、槍の力となったのでしょう。
ジエメイが一切責めず、恨まず、微笑んでいたのがなおさら辛い。

柄に漢字が刻まれていることは第四章で触れられていました。
ここで回収されるとは!
この時とらが槍を見て何かを思い出しかけます。
とうとう明らかになった槍の誕生、る。母の真意。同時にさらなる謎もまた生まれる。
一連の展開を書きたくて書きたくてたまらなかったんだろうなとこちらにまで伝わってきます。
この密度は何なんだ? 
一章一章、一話一話の濃さが半端無いぞ。

第二十三章 暁に雪消え果てず

雪女の垂は冷たい体と暖かい心の持ち主。
佐久間泰という人間に恋をした彼女は一緒にはなれない己の身を嘆き、その悲しみが吹雪を起こす。
彼もまた垂が好きなのですが、運命に流されるのはごめんだ、運命は自分が決めると叫ぶ熱い兄ちゃんです。
垂の母、朝霧は街を作り自分達を追いやった人間に復讐するため垂を作り出した。
「人が我らを恐れるならば、私はその存在を全うしよう!」という叫びが悲痛です。
昔は垂のような穏やかで優しい表情だったのに、現在は……。
きっと男が受け入れたならば、日崎御角みたいな柔らかな老婆となったでしょう。
「人の心の妖を受け容れる隙間は昔から小さい」というサンピタラカムイの言葉にダイ大を連想します。
現実では「無理」の一言で終わってしまいますが、少年漫画ですからできれば一筋の光明を、と願ってしまう。
最終的に垂は人間になり、朝霧は雪妖達の住まう里に行くことに。朝霧の流す涙が雪のように舞い落ちていくのは粋な演出です。
自らの掴めなかった幸せを得た娘の姿に彼女は何を思ったのでしょうか。

第二十四章 獣の槍を手放す潮

涙目になりながら必死で食べようとするとらと呆れたようなうしお、空気読んで適度なところで止まる槍がナイス。
人間を食べようとする凶悪な行為と、槍に怯える可愛さのギャップに戸惑ってしまう。

第二十五章 時限鉄道

帰るため汽車に乗るうしおととら、紫暮にイズナ。凶羅まで乗車。
今回の敵である山魚もビックリの凶悪さを見せてくれます。
混乱し、車両を止めようとする乗客を殴り「てめーらがカッテにくたばんならいいが、オレまでまきこむんじゃねえ!」と言い放つ。言いたい放題やりたい放題だなコイツ。
「陰で理屈ばかりのべていざとなったら何もできん。すぐ他人に頼り、都合がわるくなりゃ他人のせいだ。おまえらとっとと妖に喰われちまえよ」
耳が痛い。
もちろん全ての人間に当てはまるわけではありませんが、心に刺さります。
野村の姿もグサグサ刺さる。
嫌だと思っても笑顔でごまかして下向いて、笑って皆に合わせていれば溶け込めるかと思いきやそうもいかず、一人になることを恐れるあまり無理して自滅。
痛恨の一撃がきた。
野村が逃げようとする時の紫暮の台詞に、この漫画ともっと早く出会いたかったと思いました。
生きていれば理不尽な目にあう。今自分が大変な目に遭っているのにのほほんと飯を食っている人間もいる。
不公平だが――
「わかんねえのさ。いろんな不幸がなんで自分に起きるのか…なーんて、先生にも私にも……誰にもわからんのさ。でも…抵抗するしかないもんなァ。そのなんだかわからんもんにスネてみても…逃げてみても…仕方ねえもんなァ。みんな…自分のため、家族のため、抵抗すんだよなァ」
「なら一緒に抵抗してくれる自分っちゅうパートナーを好きんなってやらんとなァ。そのカオは、自分がキライでキライでしょうがねえって面だなァ」
「野村くんよ…トンネルってよ、いやあな時みたいだなァ。一人っきりで寒くてよ……でもな、いつかは抜けるんだぜ」
野村の担任も危険を知りながら技への参加を申し出る。「生徒」の前では「先生」でいたいからと。
うしおや紫暮、教師の姿に羨望の念を抱き涙する彼の心が痛いほど伝わってきます。
彼は決心し、妖に一撃ぶちかますのに貢献。
死んだような眼は生き返り、死闘の後に山魚に立ち向かうため共闘した凶羅もライバル宣言して去る。
爽やか。

第二十六章 HIGH SPEED EATER

ジジイと言われてブチ切れるとら、「おめえがノロマだからさ!」の表情が強烈。

第二十七章 四人目のキリオ

全体的に腹にズシンとくるボリュームのある章です。
四人目の伝承候補者、キリオは印象がガラリと変わります。
この時点では、澄ました顔してうしおを馬鹿にするいけすかない少年という印象でした。
光覇明宗の総本山に白面の者の分身、くらぎが襲来。うしおは力を反射させる反則体質の前に手も足も出ず。
その時颯爽と登場したのはお役目様。
あの凶羅も彼女の前では大人しくなります。
「ババアを狙ってるヤツがいんのか? 教えな、殺してやる」って、おい! 素直じゃないとかそんな問題じゃないよ!
「今日は泊まってお行きなさい」
「誰が! こんなトコロに長居なんぞ」
「誰かにいって床を…」
「ババア、オレはなあ!」
「泊まってお行きなさい」
「おっ、おう」
凶羅なのに。凶羅のくせに。
くらぎの前に立ちふさがった御角に「ババア、すっこんでろォォ!」と絶叫するし。
誰もが彼女が殺されてしまうと思った時に、御角は不敵な微笑を浮かべ告げる。
「我は二代お役目……日崎御角ぞ」
カッコよすぎる。
この風格、まさに白面の者を数百年封じてきた者。
うしおととらでは少年少女だけでなく幅広い年齢層の人物が活躍します。
くらぎを倒した彼女は力を使い果たして倒れ、皆に仲良くするように告げて息絶える。
凶羅は乱暴な言葉をぶつけて去っていきますが、戒めを解こうとして自らつけた足の傷が痛々しく、やはり人間だと思いました。
最後に口調が砕けるのが悲しい。今までお役目様として生きてきた彼女が、最後に役目から離れた、一個人として喋ったようで……。
彼女が力を振り絞って止めたくらぎに、とどめをさして得意顔のキリオ。
この時点では「おい……」となります。
キリオとエレザールの強さより、手柄を横取りした印象を与えかねない気がする。

うしおは自分の無力さをつきつけられて抜け殻に。
とらは物凄く退屈そう。
その裏では着々と不穏な動きが。
キリオの母役、斗和子が怖すぎです。キリオから見れば「ぼくのママ」ですが、読者から見たら「キリオー! それたぶん白面―!」と叫びたくなります。

第二十八章 檄召~獣の槍破壊のこと

囁く者達の家は流ととらの同行が見所です。同行を楽しんでいるのは流だけじゃないと思う。
 「うらやましい、ねたましい」か。似ているな。誰とは言いませんが。
流は昔から大抵のことはそこそこできるため、いつの間にか面白いと思うものが無くなっていた。妖怪と戦ってでもいなければ退屈して死んでしまう。
しかし、うしおととらに出会い興味をそそられたと語ります。
弱っちい人間のくせに面白いから危ないことをするなんて変だというとらに、危険になったらすぐに逃げると笑ってみせる表情がいい味してます。

斗和子の登場の仕方に少し笑ってしまった。
自分で照明の位置や演出を考えてチェロの練習をしたんだろうか。
槍を奪おうとする若い僧達も悪人とは言い切れない。
彼らは今までのうしおの道のりを知らない。
戦う姿も、獣と化した様も、槍の誕生も。
彼らが見たのは、「修行を積んできたわけでもない子供が最強の槍を手にして、白面の分身に手も足も出ずに負けて、お役目様が命を落とした」光景だけですから。
焦るのもわかるし、そこに認められたいという欲望が混ざっていても責められない。
称賛されたい、英雄になりたいという欲求だけでなく、恐ろしい化物に立ち向かいたいという想いも底にあるでしょうし。
そういった感情を利用する白面がひたすら厄介です。

優しいママの正体が白面の者の分身だったと知らされ、目の前で繰り広げられる惨劇に呆然とするキリオ。
「みーんなあなたに獣の槍を壊してもらうため……あなたのためじゃないわねえ…キリオ!」
何て顔をするんだ……!
涙を流し、絶叫しながら切りかかるキリオが悲痛です。
うしおに詫びながら死んでいく若い法力僧も痛々しい。
「我々も…白面の者と…戦いたかった…」と呟くのが。
白面の者の狡猾さ、邪悪さが最高です。力押しでも十分すぎるほど強いのに、邪魔者の排除は抜かりなし。

斗和子は最期までキリオの心を弄んでいきました。
いっそ恨み言でも吐いてくれれば割り切れた。
でも愛していると言われたらなぁ。
嘘だとわかっていても苦しみ、自分の影に囚われ続けることを知っている。
力押しでも十分すぎるほど強いのに、心の闇を理解し徹底的に利用する白面の者の恐ろしさがよく表れています。

第二十九章 麻子の運動会

前章がやりきれない思いの残るラストだっただけに緩急がついてます。

第三十章 愚か者は宴に集う

このエピソードで真由子、もしくはまゆとらコンビが好きになったという方も多いのではないでしょうか。
たゆら・などかは不思議な響きの名前です。
人は存在の停止である死を恐れるが、平然と笑みさえ浮かべて死を迎える者もいる。二人は長い間話し合っても、姿かたちを人間に似せても、答えを見つけられず、問い続けた。
「満足する死とは何だ?」と。
改めて振り返ると、人間を喰らう妖怪にしては心に余裕(ヒマ)がありますね。
生きるだけなら全く必要のないことについて考え続けたり、人間にわざわざ質問したり。
答えを得るためならどれほど他者を犠牲にしてもいい、仲間が助けを求めようと関係ない、そういう姿勢でなければ……考え方が変わっていれば、自力で辿りつけたかもしれない。
自分から遠ざかってきたと思うと残念です。
たゆらの方は答えを知ることなく死んでしまったわけですし。
などかの方は答えを得たから、「満足する死」を迎えたかもしれない。

質問に対する答えは、「泥なんてなんだい!」。
『うしおととら』の根底に流れる精神はこれだろうな。
うしおだけでなく、友人のために体を張る麻子や真由子、妖怪もです。
いきなり感化されるんじゃなくて、変だと評するのもいいですね。
全員が全員最初から自己犠牲精神発揮しまくりだと、それはそれで引っかかるでしょうし。
 
真由子がとらを助けるために高所から飛び降りる→とらに倒される瞬間などかが自分達の愚かさを悟る→間一髪で「愚か者が!」ととらが受け止める一連の流れは最高です。
今回の話で「愚か者」という表現が何度か出てきました。
愚か者とはどんな人物を指すのか考えると面白い。
他人のために自分が傷つくことも厭わない者か。
答えを見つけるためだけに質問し、殺し続ける者か。
他者を嘲り怒りをかう者か。
読めば読むほど味が出る章だと思います。
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