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ひよこの足跡ブログ

漫画やゲームなどの感想を書いています。 ネタバレが含まれることもありますので、ご注意ください。

うしおととら感想 5

うしおととら感想 5



第四十四章 季節石化

結束しつつあった人間や妖達はうしおのことを忘れ、法力僧も石になってしまった。
白面の者の本領発揮ですね。
人間と妖怪をつなぐ核である、うしおととらに関する記憶を消してしまえば簡単に希望が失われる。
絆が己に対抗する力になるのなら、断ちきってしまえばいい。
てっとり早く、えげつない方法です。
相手の絶望を楽しみつつ力を削ぐという、趣味と実益兼ねた見事な作戦です。

そんな中、「しけた面してんなァ……うしお」と言われてガッツポーズする彼にシンクロする。
妖怪達の様子を見ると、単に記憶を失っているだけでなく、思考もギスギスした方向に狂わされているようです。
いつもの長なら少女を人柱にして槍を作ろうとはしないでしょうから。
雷信やかがりまで攻撃してきたのがショックだ。
人間の娘を捧げれば獣の槍を作れると考えた妖怪達ですが、匹敵する武器は作れないと思います。
ジエメイの献身とギリョウの激情や執念が合わさったから……特に後者が大きかったからこそ、あれほどの業物になったのではないでしょうか。

真由子を助けようとして体を張り、最終的に身代わりになると決意して灼熱の炉へ飛び込む麻子。
恐ろしくてたまらないはずなのに笑みを見せるなんて、いい女すぎるだろ……!
そこへ駆けつけたうしおが死ぬなと絶叫しつつ身を挺して庇う。
うしおが炉の中に半身を突っ込みながら受け止め、とらと槍が炉を破壊。
この一連の流れはスピーディー。槍の必死さが伝わってきます。
もう二度とあんな思いはしたくないんだろうな。
うしおの黒ずんだ全身、炭化した下半身が痛々しい。

妖怪達はうしおととらを邪魔者だと思い、容赦なく攻撃。
うしおは仲間になった相手に反撃できず、とらも雷信を殴りかけた手を止める。
かろうじて脱出するも、黒炎とともに紅煉襲来。
その間にずらかろうとするとらと、戻って妖怪達を守るため戦おうとするうしお。
とらが怒ってくれるから観ていてスッキリしますね。
自分達を忘れてしまった挙句攻撃までしてきた連中のためにどうして戦うんだ、いっそあいつらなんかやられてしまえばいいと。
うしおが戻って敵を撃退しても、妖怪達は何も言わない。
感謝されずとも、思い出してもらえればそれだけでうしおは喜んだだろうに。
河童の再登場が嬉しい。
友好的に接してくれる相手がいるだけで心が安らぐ癒される。

第四十五章 雨に現れ、雨に消え

流の裏切り、母のいる岩柱へのミサイル発射作戦決定などますます凹む展開の中、博士達が助けになってくれた。
法力僧が石になったのは記憶を失わないためとのことですが、うしおに一報入れる時間はなかったのか?
過去の行いに反発するうしおに対し、後悔していないと語る研究者。
彼らなりの信念をもっての行動でしたからね。
「悪の科学者で全部間違ってました、改心しました」だと引っかかったかもしれない。
妖怪漫画だと相反するイメージが強いですが、必ず対立しなければならないわけでもないですし。
やり方が過激だったのは事実で、そこは改めるべき部分ですが、目的自体は間違ってはいない。
冷徹さを見せつつ、「ヘレナは死んだが、彼女の残したデータは生きている」で温度も感じさせるのが熱い。
彼らも同じ想いで戦っている。
誤解を悟ったうしおは文句を言いにまた来ると告げる。ボクシングで相手すると応じるニコラスも粋。

第四十六章 不帰の旅

何て不吉な章名。
全壊した家を見て「きっついなァ…帰るトコも…なくなんのは……」と言ううしお。こっちもきつい。
とらと出会ったシーンを再現するのが唯一の救いです。
とらの方から仕掛けたというのが感慨深いですね。
うしおとの出会いに思うところがあったわけですから。

第四十七章 混沌の海へ

流vsとらが最大の目玉。この組み合わせはベスト3に入るほど好きです。
ちなみに他の二つはヒョウvs紅煉、うしおととらvs白面の者です。とらが何とかしてくれると信じて、ミサイル発射を止めるために先へ行くうしおですが…。
流の裏切りを信じられず、とらに手加減を頼むうしお。
敵に回って自分を攻撃してきた相手。しかも、一刻の猶予もない状況。
それでも信じようとするのがうしおの強さです。

心に風が吹く中、真っ直ぐな目を向けられた。
暗い目で見上げられてきた彼がうしおを同じ目で見るようになったのは皮肉というほかない。
うしおととらの存在が彼の中で大きくならなければ、最後まで「いい兄貴分」を演じていられたんだろうな。
ただ、全部演技で上辺だけの言葉だったら、うしおもあそこまで信頼しなかったでしょう。
本心で接したから信頼を向けられて、とうとう隠しきれなくなった。
「ガキ一匹の目が怖くて仲間を裏切るよーな人間に、わしが負けるかよ。わしは…妖だぜ!」
と言うとらが漢。
流の叫び全て受け止めてなお、威風堂々としています。

全ての力を出しつくし、敗れた流の笑顔が爽やかで痛々しい。
殺さないでくれといううしおの言葉を気にして手を抜いたのか尋ねる流に、そんな面倒なことはしないと答えるとら。
私の解釈としては「殺したくはなかったけれど、手を抜いて勝てる相手でも無かった」のだと思っています。
風が吹く中、
「ああ…なんだ…風が…やんだじゃねえか…」
と満足そうに呟く流。
初めて読んだ時は、「和解して生き延びて味方に戻るだろう」と思っていました。
そんなことはなかった。
ガラスの破片が降り注ぐ様が美しく、鎮魂歌のようです。

気になるのは、彼の裏切りに対する他の伝承候補の反応です。
日輪は間違いなく怒る。怒って当然です。
悟は悲しみ、心を痛める。自分を責める気がしてならない。
流の方が彼らをどう思っていたのか知りたい。
日輪→流は「態度が気にくわないが実力は本物」、悟→流は「頼もしい仲間」かなと想像がつきますが、流から日輪や悟への感情は掴めない。
仲間に本当の自分を出さなかったのは、彼らも所詮自分には敵わないと見下していたのか?
自分が本気を出して勝ってしまったら他の連中同様嫌悪すると思い込んでいたんだろうか。
この見方は悪く捉えすぎか。
流なりに日輪や悟のことは気に入っていたから、関係をぶち壊さないために隠していたと思いたい。
彼らなら、さらけ出して一時的にギクシャクしても、最終的に受け入れそうな気がしますが……。
日輪はライバル意識剥き出しにしても陰湿な行為には走らないでしょうし、悟なら流の才覚に嫉妬を覚えても折り合いをつけて尊敬しそうですし。
疎まれないように力を制御する、という点は悟と似ているように思えますが、共感は覚えなかったんでしょうか。
「俺にはない人望がある」と言うくらいですから、認めていたと思いたい。
わざわざ「俺にはない」とつけたのは、複雑な心境の現れではないかと深読みしてしまう。

第四十八章 雷鳴の海

母に文句を言おうと思っていたうしおですが、いざ対面すると壮絶な光景に何も言えない。
文句を言うどころか気遣うのがうしおらしい。
親子の温かな一時はすぐに破られた。
頭を撫でてもらおうとした瞬間、ミサイルが岩柱に撃ち込まれます。
結界は解け、白面の者が復活。
「我は白面! その名のもとに、全て滅ぶ可し!」
たまらん……ゾクゾクする。

恐怖に呑まれて逃げようと訴えるうしおを、須磨子は平手で叩き、戦うよう促す。
須磨子の言っていることは何も間違ってはいません。
白面の者を倒さねば多くの人々が死ぬ。
獣の槍を使えるうしおが最大の戦力だから、戦わねばならない。
命を惜しんでいては勝てない相手。
それでも、あまりにも厳しいと思ってしまう。
即座に白面の者を追って倒そうとする須磨子の覚悟は、対峙してきた者に相応しい。
ですが、同じ覚悟をうしおに要求するのは……。
少し前まで普通の学生として暮らしていて、白面の者のことも、獣の槍についても、何も知らなかったわけですから。
立派に戦ってきたから忘れがちですが、彼はまだ中学生。
寂しさや辛さだって当たり前に感じる、一人の少年です。
母親と再会して「もっと一緒にいたい」と願った直後に命を捨てろと言われてうんと言えるわけがない。
彼女の言った通り、緊張の糸が切れてしまった状態では戦うどころじゃない。
過剰に「ああすればよかった」「こうした方がよかった」と言うべきではありませんが、抱きしめて、落ち着かせるべきだったんじゃないでしょうか。
命を捨てる覚悟を要求するのではなく、「一緒に生き残りましょう、味噌汁を作ってあげるから」的な言い方なら違ったかもしれない。
彼女もうしおを大事に思っているのに、彼の心に届かなかった。
このすれ違いは、お役目様として生きてきた期間が長かったから発生したのかもしれない。
彼がある程度弱音を吐いていれば違ったかもしれませんが、これまでまっすぐ生きてきただけに、反動も大きかったのでしょう。

須磨子に叩かれたうしおは、これまでの出来事を思い返す。
大切なものをことごとく奪われ、憎しみに囚われる様は完璧超人でも聖人君子でもない。
絆を力に換えて戦ってきた彼だからこそ、絆を壊された時の苦しみも深い。
憎しみで倒そうとしてはならないと言われても、無茶ですよ。
憎悪をむき出しにして白面の者に挑む彼を駆けつけたとらが止めますが、精神攻撃はまだまだ続く。
白面が真に恐ろしいのは、巨大な力ではない。
慢心せず、邪魔者を叩き潰すために様々な策を講じる狡猾さです。
圧倒的な強さを持つラスボスは人の心や感情の動きに疎くてもおかしくなさそうですが、熟知し、利用してくるんですよね。
白面の者は流の心に吹く風も理解していました。
流がうしおやとらを倒せばよし。
返り討ちにされても、二人の絆を断ち切る材料にできる。
事実を告げるとらの言葉が重い。
うしおは、とらなら何とかしてくれると思っていた。
とらのことを心から信頼していた。あえて悪く言うならば甘えていた。
それは流もです。
とらなら風を止めてくれる、何とかしてくれると思って戦った。
その後どうなるかは予測できていたんだろうか?
うしおの真っ直ぐな目に耐えきれなくて裏切った流に、疑問に思わずにはいられない。
本当にうしおがああなることを望んでいたのか。あれで満足か。
彼とて今まで悩んできたことも、あのやり方・タイミングしかなかったことも分かりますが、最悪の結果になりました。
候補の中で一番大人に見えた男が、一番余裕が無かったと言えるかもしれない。

うしおに問われ、殺してやったと哄笑するとら。
わざと乱暴な言い方をしたのは流のためでしょうけど、今のうしおには受け止めきれない。
ああいう言い方をするしかなかったとらにも、とらの胸を蹴って決別したうしおにも、やりきれなさを感じますし、責めることはできない。
ここまで徹底的に絆を壊しにくるとは……。
さらに麻子、紫暮のいる場所に攻撃を加えられたうしおは恐ろしい形相で呻く。
あれほど眩しかったうしおの目がどんどん憎しみに染まっていく様は悲痛。
極限まで憎悪を煮えたぎらせたうしおは白面の者に槍を突き出す。
だがまったく通用せず、槍は完全に砕け散ってしまった。
「これは――四分二十七秒の間に起きた事件。
四分二十七秒で決着した悲劇。
人間と妖そして日本は…四分二十七秒で滅亡を宣告された。」
というナレーションに震えました。

第四十九章 獣の槍破壊

気分はすでにどん底ですが、真の底は次章訪れます。

第五十章 とら

ラーマがうしお、ラーマの姉が真由子と重なるならシャガクシャはとら、そして流だと思います。
「お口に隠れていればよかった」
この台詞はとらが真由子を食べたい=守りたいという想いの裏返しだということを証明しているのではないでしょうか。
幼い頃シャガクシャを疎んじていた大人たちは彼に謝罪したいと思っていた。子供達は純粋な気持ちで英雄のシャガクシャ様が助けてくれると信じていた。
しかしシャガクシャは、彼らが自分を疎み、媚へつらっていると思いこみ、憎悪していた。助ける気などなかった。
シャガクシャに対して人々が温かく接していれば、謝罪と感謝を伝えていれば、白面は白面にならなかったかもしれません。
どんな憎悪や侮蔑の目より、最期まで信頼に満ちていた少年の瞳の方がシャガクシャの心を抉っただろうな。
ラーマはシャガクシャのことを「呪われた子と忌まわれても恨まずに、皆を守るために戦う立派な英雄」と思っていた。他の人々も彼への見方を改め、感謝し、信じていた。
実際は、シャガクシャはラーマと姉以外守ろうとは思わなかった。人々が自分を疎んでいると思い込み、憎悪し、白面の者を生み出してしまった。
自分を尊敬している少年に「実は他人を憎んでいた、そのせいで恐ろしい化物を生み出した」などと言えるはずもなく、慟哭。
血涙が字伏の隈取に見える。

「オレはそんな立派な奴じゃない」という想いは流と重なります。
それだけでなく、流もシャガクシャ同様「周りの連中に疎まれている、排除されると思い込んでいたがそうではなかった」という可能性があります。
流は「天才だから本当の自分を出さない」と思ってましたが、彼ほど極端でなくても大抵の人は見せたくない自分を抱えていると思うんですよね。
それで「あの、実は違うんです……」となったり。
根っこの部分は天才云々の特異なものではなく、多くの人間が大なり小なり抱えている悩みだからこそ、白面が見抜いて利用したのかもしれない。

白面の者を生み出した者が獣の槍を初めて使った。因果を感じます。

第五十一章 降下停止、浮上

章名のとおり、ここまで来たらあとは上昇するだけ。
ようやく物語の空気が変わる。
とうとうその時が来ます。記憶奪回の時が。

シャガクシャの憎悪によって白面の者が育ち、ギリョウの憎悪によって字伏達が縛られてきた。
ただ「憎しみに囚われてはならない」と説かれても説得力は薄いですが、憎悪がもたらしたものを見れば実感できる。
ならばどんな想いで戦えばいいのかというと、獣になりかけていた使い手が涙ながらに願ったことと同じ。
「皆を死なせたくない」。
砕け散った槍の破片が全国に飛び、脳に巣くっていた婢妖を粉砕。
人々はうしおととらの記憶を、希望を取り戻し、こう思う。
「うしおととらなら!」
記憶を奪っていた卑妖が砕かれ、日本各地で皆がうしおととらを思い出す様は圧巻。
苦しむ者達を助けてきたからこそ、この局面で希望を生み出すことができた。
旅の集大成だと感じます。
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