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ひよこの足跡ブログ

漫画やゲームなどの感想を書いています。 ネタバレが含まれることもありますので、ご注意ください。

からくりサーカス感想 12

からくりサーカス感想 12



勝はフェイスレスのもとへと向かう。
プラハの街並みを再現した場所へ行くために「井戸」を通らせることに、兄への執念・執着を感じる。
銀は井戸に身を投げて死にました。
兄に対する嫌がらせか、井戸を通って過去に戻って来いと願っているのか。
勝は土下座までしてゾナハ病の止め方を教えるよう頼みますが、断られます。
「いやあぁだよバアァカ!」
なんとイイ笑顔。おまえは子供か。
自分の計画を挫いた主人公を「バカでダメなヤツ」呼ばわりするラスボスもなかなか斬新。

何故好きな女を他人に譲るような真似をしたのかフェイスレスが問う。
「だってしろがねを最初に好きになったのは、ナルミ兄ちゃんだもん!」
それを聞いたフェイスレスの動きが一瞬止まる。
注意せねばならないは、主人公の答えだからといって、全部正しいものとして描かれてはいないところです。
勝の答えが正しいならば、金とフランシーヌが結ばれるべきという結論になりますから。
譲るも何もしろがねの愛は鳴海に向けられているので、フェイスレスの問いは筋違いです。それに対する勝の答えもずれています。
おそらく勝は、頭では「しろがねの気持ちが最優先」だとわかっていても、完全に割り切れずにいたのでしょう。
だから真っ先に出てきたのは「しろがねは鳴海を愛している」という模範解答ではなく、子供のような答えになったのだと思います。
昔の金のような、子供じみた言葉だからこそ相手の心に届いたのかもしれません。
「先に好きになったのに横から取るのはおかしい」という今までの考え方を肯定するならば、鳴海からしろがねを奪う真似はしてはいけない。
否定するならば、フランシーヌやアンジェリーナを先に好きになったのは自分という理屈で突き進んできたのが間違っていたことになる
どう答えても自分の行動を否定することになります。
「昔の自分」の言葉を聞くことで、好きになった順番で決めるのはおかしいと気づかされます。

さらってしまえばよかったと叫んでも、そうしたら幸せになれたかと訊かれると反論できない。
自分の元から逃げ出そうとしたフランシーヌや、彼女を殴り傷つけた自分の姿が浮かびますから。
勝は、しろがねが鳴海のことを愛しており、それが大事なのだと訴える。
フェイスレスの分身とも言える勝は、「兄」と愛する相手が結ばれることを願っている。
かつて彼も一度は相手の気持ちが大事なのだと考えました。

ここまででフェイスレスの心が揺らいでいることが感じられますが、決定的になったのがディアマンティーナの存在でした。
「一日千回抱きしめて! イヤ、一万回抱きしめて!!」
爆弾をあちこちに仕掛け、自分一人を永遠に愛することを強要する。
「ワタクシ一人をずぅ~っと、愛してくれるって言ってェ~」
彼女の姿を見て、ようやく彼は愛を押しつける醜さに気付きました。
「愛される方にも都合ってもんがあってさ、愛されたからってそのヒトを一番に愛するとは限らないんだよ」
「僕が別のヒトを愛する自由だってあるんだよーん」
そして、ディアマンティーナを分解!
分解された彼女の絵は特に気合が入っています。
フェイスレスが、ようやく……!

彼の目を覚まさせるには、まず計画をぶち壊して、夢に邁進するドリカムモードを解除しておくのが大前提。
そして、普通に正論をぶつけても効果は薄い。
「僕が愛してるんだから彼女も愛して当たり前」「他の奴なんて知ったこっちゃないね」と聞く耳持たない。
自分と同じ発想の、子供みたいな言葉や勝手な考えをぶつけられたからこそ、間違っていると知ることができた。
自分が正しいと思っているラスボスの思想を打ち砕く方法は、分身が鏡やブーメランとなることだったというのは上手い落としどころだと思います。

勝との対話、ディアマンティーナの登場と退場、勝との共同作業などで心境の変化が丁寧に描かれ、ゾナハ病の止め方を教える改心の過程に説得力があります。
・勝やディアマンティーナといった分身達に己の言動を直視させられる
・自分の分身=未熟な弟である勝に手を貸すことで兄の立場になる
・一番幸せだった頃の記憶が蘇る
・自分と同じはずの勝が違う答えを出す
そして、芸人を奮い立たせる観客である勝の前で、何かをやり遂げる気になった。
これらは「兄」である鳴海にはできないことです。

勝を脱出させて「ひとりぼっちは、さびしいな」と言うのは紛れもない本心だったのでしょう。
もともとは、大好きな兄と大好きな女性が結ばれることで、自分だけ取り残されて一人ぼっちになるのが嫌だったのだろうなと思います。
「弟を助けるのが、兄だもんなァ」に「見返りを求めず誰かの力になる」「自分が何か『してやった』からお返ししてもらうのではなく、してあげたい」という考えを得たことが表されている気がします。
「銀……兄さん」
「僕が、まちがっていたよ」
涙を流しながら微笑み、静かに最期を迎えます。

フェイスレスの心境の変化について「急に改心していい奴になった」「悪行が無かったかのように救われた」と言われると、本当にそうか疑問に思います。
最期に笑みを浮かべたからといって、満たされたわけではありません。
ただ痛めつけるだけでは「僕は間違っていないんだよーん」「残酷な運命やくだらない世界、邪魔する奴らのせいで愛する人と結ばれなかった可哀想な僕」で終わります。
そのまま命を奪おうと、悪行に相応しい最期とは呼べなかったでしょう。
勝との対峙で己の言動を客観的に見ることができるようになり、間違いを認めた。
しかし、そこから何かできるわけでもない。
自分の手で幸せを壊してしまった愚かさを噛み締め、悔やみながら死んでいくことになる。
それこそが彼にとって最大の罰。
改心によって救われたのではなく、苦しむことになるのではないでしょうか。
残酷で外道な悪役の改心を表情で納得させるのはさすが。感情が混ざりあった笑顔です。

エピローグでは涼子が小鳥を身につけている……!
アルレッキーノ、見ているか?
彼の想いは確かに伝わったのですね。本当によかったな、アルレッキーノ。
きっと法安から渡された時、涼子は涙を流しながらもアルレッキーノに礼を言ったのでしょう。彼に影響を与えた眩しい笑みを浮かべながら。
法安が亡くなったのは残念ですが、天幕の中でパンタローネの歌を聴いているに違いない。
リュックから頭を出してるあるるかんにもなごみます。
鳴海は生身の腕でがっしとしろがねを抱き、子供達のもとへ。
仲間の想いの込められた右腕と両足はそのままに、左腕のみ取り戻し、大切な女性を抱く。
ルシールやロッケンフィールドさんの言葉が叶ってよかった。
二人とも幸せそうだ。
遠い国で子供達を助けた勝は、自分も強くなれるかと訊かれ、笑顔とともに答える。
「うん、きっと。ぼくよりずっとね!」
最初と最後をつなげるのが上手い構成だと思いました。
強引でも広げた風呂敷を畳みこみ、きちんと終わらせたので満腹感があります。

『カーテンコール』
からくりサーカスは「舞台で演じられている物語」という形式ですので、最後に登場人物が出てきて観客の拍手喝采に応えます。
因縁のある者達が微笑みながら手をつないでいて感慨深い。
個人的にグッときた組み合わせを片っ端から上げます。
・涼子とアルレッキーノ
もし機能停止しなければ遊んであげたのか、音楽を聞かせたりしたのかと妄想がつきません。
・法安とパンタローネ
天幕の中で歌うパンタローネを見たかった。
・ギイとアンジェリーナと正二
ハンサム魔王よ、思う存分アンジェリーナに抱きしめられるがいい!
・フランシーヌ人形とエレオノール(赤子)
胸がときめく。
・アプ・チャーとギュンター
アプ・チャーさんが笑っておられる。
・ドットーレとルシール、ルシールの子供
仇敵と手を握るルシール。この二人がいてこそ見事な復讐劇が見られた。
穏やかな顔のドットーレはいいおじさんに見えます。
カーテンコールで一番好きな組み合わせかもしれない。
・ルシールと梁師父
互いに渋い老人。
・ファティマとコロンビーヌ(大人)
最後に抱きしめられた者同士。
・タニアとシャロン
教師組。
・ジョージとシュナージー
ジョージが楽しそう!
 ・トーアとフランシーヌ人形(偽)
・白銀とフランシーヌ、白金
・ロッケンフィールドとメアリ、アル、リッチー
・ブリゲッラとビッグサクセス
ブリゲッラの笑顔は妙にインパクトがあります。
・ニコライ神父と赤ん坊
洒落たことを言う神父さん。
・シルベストリと女の子
・ディーンとエレオノール(少女)
・ドクトル・ラーオと丸木教授、リーゼ
・コロンビーヌ(少女)とディアマンティーナ
・あるるかんとオリンピア
二体とも笑ってる。
・フェイスレス(司令と白金)、しろがね、勝、鳴海
主人公たちとラスボスが満面の笑みで締めくくる。

溢れんばかりの笑顔、笑顔、笑顔。
皆晴れやかな表情です。
悪役としては小物感全開だったクピディアーも、あのように爽やかな笑顔だとイケメンだと思える。

最終巻の表紙は明るく笑いながら菜の花畑に立つ三人でした。
勝が地球に帰還しての再会を見たかった気持ちもありますが、記憶を取り戻した鳴海は勝に重荷を背負わせたことを気に病みそうですから、見たいような見たくないような。
勝もしろがねへの感情を自覚した以上、辛い気持ちがあるでしょうし、折り合いをつけるには時間がかかりそうです。
表紙の光景はすべてが片付いた後に見られるのだと思っています。

全体の評価としては、中盤の構成や終盤の尺の足りなさがやや残念で、からくり最終幕やサーカス最終幕の盛り上がりのまま最後まで走っていたらと思わずにはいられません。
「藤田先生なら、藤田先生ならもっと面白く……!」
と思ってしまいます。
好きなだけにそういった不満を抱いてしまいますが、駆け足ながらもあれほど大きく広げた風呂敷を畳み、まとめ上げたのは素晴らしい。
登場人物の生き様や表情が特に印象的でした。
どす黒い笑顔、眩しい笑顔、柔らかい微笑……どの笑顔も心に残る。
涙ぐむシーンが多く、心の揺らされ具合は今までに読んだ漫画の中で一番でした。
最も泣いた、感動した漫画を問われれば間違いなくこの漫画だと断言できます。
とても面白く、大好きな漫画です。
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