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ひよこの足跡ブログ

漫画やゲームなどの感想を書いています。 ネタバレが含まれることもありますので、ご注意ください。

からくりサーカス感想 3

からくりサーカス感想 3



『銀の煙』はからくりサーカスのエピソードの中でもトップクラスに好きです。
ゾナハ病の治療施設に行き、自動人形の目撃者から真夜中のサーカスについての証言を聞くことになった鳴海、ギイ、ルシール。
苦しむ患者に話を聞かせろなどと言えないとしりごみする鳴海ですが、入ってみると子供達は明るく笑っています。
研究者のバンハート博士も笑顔で握手。
安堵したところに、空気の読めない……というより読む気など欠片もないジョージ登場。
最初は噛ませ犬だろうと思いました。
今思うと簡単に噛ませ犬とみなしすぎです。他の作品やキャラにも言えることですが。

子供達は意外と元気。医者や看護師も優しいと思って安心したら、子供が去った途端態度が急変。「しろがね」への敵意をむき出しに。
「ここは地獄だ」
「ここにいる間は、誰も抱きしめちゃいけないのだよ」
というギイやルシールの言葉に鳴海は反発し、子供達を力いっぱい抱きしめ、語り合ったり、遊んだり、一緒に絵を描いたりする。心から楽しそうに笑いながら。
今まで格闘技しか得意なものがなく、夢もなかった。
でもここに来てから夢ができた。
子供達を看病して、世話を焼いて、一緒にいてやりたい。
保育士やってる姿を想像するととても似合うな。
心がじんとなるような笑顔で穏やかに語る鳴海ですが……。

鳴海は深夜、看護師のヘレンや他の医者が錠剤やカプセルを貪り薬物を摂取する姿を目撃。
アニメ化で削除されそうだと心配したシーンです。
薬漬けで治療ができるかと憤る鳴海が見たのは、心に深い傷を負った子供をジョージが容赦なく問いただす光景でした。
「答えな、おまえも長いことないんだ。どうせなら役に立ってから死にな」
役に立ってから死ね、て……。ミストバーンか?
ひっでぇ。
鳴海は激怒し、ジョージを全力で殴り飛ばす。

その後鳴海はヘレンから薬を使う理由を聞かされる。
子供達が発作を起こさないのは、病気の謎が解明され治療されているからではなく、職員が笑顔を絶やさないよう薬で無理矢理笑っているから。
病気の研究が進まぬ焦り、つらさを隠したままで、ボロボロになりながら。
非情な「しろがね」を毛嫌いするのも当然です。
自分達は薬漬けになってでも患者の苦しみを和らげようとしているのに、心を踏みにじるような真似をするわけですから、良い感情を抱けないでしょう。

子供の一人、マークから鷲を描いてほしいと頼まれた鳴海は、明日描いてやると答えます。
最初に読んだ時「書いてやれ鳴海!」と心の底から思いました。
翌日、新しいクレヨンを持って訪れた鳴海に知らされたのは、マークの死でした。
バカヤロウ……。
マークの死に衝撃を受け、顔をゆがめている鳴海にバンハート博士が告げる。
「笑え!」
と。
何があっても子供達のために笑っていなければならないと語る博士の笑顔が壮絶。
「ニッコリ笑う顔」がここまでネガティブな意味を持つとは……。
歯を食いしばって笑う鳴海は、ここが地獄だというギイの言葉を噛みしめていました。
抱きしめてしまったからこそ、苦しみが跳ね上がる。ギイやルシールが冷たく振る舞うのは散々経験したためでしょうか。
『明日また描いてやるよ』
「マークにゃ明日なんて……なかった」
涙を流し、打ちひしがれる姿が痛々しい。
他の子供も姿を消し、彼の精神はさらに追い詰められていく。

ここまででもうやめてくれと言いたくなりますが、さらに鳴海の心を突き落とす展開が。
ゾナハ病は三段階あり、第一段階は呼吸困難と全身の痛みに苦しむ。緩和する方法は他者を笑わせること。
第二段階は免疫力が低下した患者を合併症が襲う。ここで多くの患者が死亡していく。
第三段階はもっと恐ろしいことに「死ねなくなる」。体が石のように固くなり、苦しみながら横たわるだけ。
この段階になれば治療の施しようがなく、新しい患者が運び込まれベッドも足りなくなるため、床に転がしたままにするしかない。
子供の一人が血走った眼で手を伸ばし、「こ、ろ、し、て」と懇願。
人形を容易く破壊できる鳴海が己の無力さを痛感し、涙を流しながら神を恨む。

自動人形が襲来し、自動人形を壊すジョージを目撃したトムの一言が痛烈。
「あれも人形じゃないの?」
「人形が、人形と……たたかってる」
両親を喪い心に深い傷を負っているのに惨い尋問を受けたのですから、そう言うのも無理はない。
一方鳴海は、子供達のために働いていました。その中で女の子のべスは鳴海に心配をかけまいと発作に苦しみながらも笑ってみせ、クマのぬいぐるみ――ハリーを託す。
直後、症状が第三段階へ悪化。
苦しくても笑っていた女の子の顔が固定され、暗い部屋に運び込まれていくのを目撃した鳴海の感情が頂点に達する。

その頃ジョージはパウルマン先生とアンゼルムス、上級生たちに殴られていました。
後に男を見せることになるのですが、ここでは、うん……。
恐ろしい形相になった鳴海は子供達に安心するよう呼びかけ、ギイたちには一人で戦うと告げる。
「好きに呼びな……人形。さびついた声が……出るうちにな!」
「土は土に……人形は人形に還せ……てめーらは地獄に堕ちな」
「悪魔が、ここでくたばるわけにゃ、いかねえんだよ!」
「子供達の痛みの、その何百分の一かでも味わってやらねえと……オレが何なのかもわからねえんだよォ!」
悪魔のような鳴海の姿に人形のパウルマンが“恐怖”を覚える。
パウルマンもまた人の感情を知って壊れていった一体と言えるのか。

パウルマンを倒した鳴海が見たのは、己を恐怖する子供達の顔。守り抜いた者達の怯えた眼差しでした。
人形たちはフランシーヌ人形を笑わせるため作られたが、いまだに誰もできない下手くそな道化。
鳴海も同じで、笑わせたかった相手は怖がっている。
頭をかいて笑う鳴海が悲痛で悲痛でたまりません。「ごめんな……」と詫びる彼の顔は笑っていますが、読んでいて辛くなります。
『ダイの大冒険』でも主人公が助けた子供から怯え疎まれるシーンがありました。
それでも戦うことを選ぶ主人公の背負ったものが重いです。
こういう展開が大好きなのに見たくない。

ようやく見つけた夢は儚いものだった。
鳴海は仮面で顔を隠し、自動人形を壊し続ける悪魔になることを決意する。
子供らに嫌われ、大人たちに疎まれることも覚悟して。
もうベスみたいな子は見たくないから。
大切な何かを捨ててまで強くなり、誰かのために戦う。
かつて人形のようだったしろがねにあたたかさを与えた彼が、人間を捨てようとしている。
対照的です。
立ち去ろうとする彼を呼びとめたのはバンハート博士でした。ぬいぐるみを受け取り、任せろと力強く約束。
そこにトムが走ってきて礼を言う。
「ありがと……ナルミ」
彼だけが子供のために怒り、戦ったことを理解しての言葉。
張りつめた糸が切れたように、崩れ落ちるようにしてぎゅっと抱きしめた鳴海に言葉が出ません。
 
巻末おまけのパウルマン先生の人材教育センターに笑いました。
本編があれだけシリアスだったのに。
「これ! これくらい!」
「あれ! せめて飛べ!」
アンゼルムスが輝いている。
「君に、死が」は名台詞ですね。
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