SS『Destati』
※原作後。ダイに何者かが呼びかける中、幾つもの懐かしい姿が彼の前に現れる。
気がついたら花畑に立っていた。
おれはどうしてこんなところにいるんだろう。たしか黒の核晶の爆発に巻き込まれて、目の前も頭の中も真っ白になったんだ。
おれ、どこか遠いところへ来ちゃったのかな。
あたり一面に花が咲いていてきれいだ。踏みしめているのは硬い感触じゃない。まるで雲みたいにふわふわしている。
風が吹いてて気持ちいい。夢を見ている気分だ。
……夢。
戦う必要のない世界。
おれの予想を裏付けるように、遠くに父さんと母さん、ハドラーも見える。後ろにいるのは親衛騎団だ。
再会できたことが嬉しくて走り出したけど、なかなか進めない。見えない壁に邪魔されているみたいだ。
みんなに近づこうとするおれに、どこからともなく声が聞こえた。
『ダイよ。おまえは地上に戻りたいか』
戻る?
父さんや母さんとまた別れるのは辛いけど、やっぱり地上に戻りたい。
おれが頷くと、声は続けた。
『そのためには長く辛い戦いに勝たねばならぬ。それでも良いのか』
どういうことだろう。大魔王は倒したけれどまだ戦いは終わらないなんて。
もしかして魔界のヴェルザーの封印が解けるのか。
混乱したおれに、声は淡々と説明していく。
『ヴェルザーではない。魔界の第三勢力とでも言うべき存在が地上を狙い、攻め込もうとしている。奴を止めねば、おまえが望んだ地上の平和とやらはすぐに破られる』
「だったら……」
戦うと言いかけたおれの目の前に、ぶうんと音がして映像が映し出された。ヒムたちがデルムリン島で生活している様子だった。楽しそうだけど、おれの心はずしんと重くなった。
ヒムも、クロコダインも、人間が好きになって、大魔王を倒すために戦ってくれた。
『見よ。誰が平和を守るために戦ったかも忘れ、異質な存在を排除する。人の性サガはそう変わらん』
大魔王を倒したのに。せっかくみんなの心が一つになったのに。やっぱりおれの居場所はないのかもしれない。
そう思ったとき、おれの名を呼ぶ声が聞こえた。
「ダイ! 帰ってこいよぉっ!」
「ポップ!」
最高の友達の姿が映される。
あいつは頑張っている。おれが帰ってくると信じて、全力で。他のみんなだって。
だったらおれが諦めるわけにはいかない。
おれは顔を上げ、はっきり告げた。
「おれは地上が、みんなが好きだ。守るために戦う」
今まで眠っている時みたいに力が入らなかった体に、力がわきあがる。気がつけば金色の光が全身からあふれている。
声はしばらく黙っていたけど、静かに呟いた。
『ダイよ……太陽の子よ。おまえならば変えられるかもしれん』
いつの間にか父さんとハドラーがすぐ近くにいた。母さんも微笑みを浮かべて立っている。
ハドラーが手を差し出したから、反射的に握った。
父さんはおれの肩に手を置いてくれた。
最後に母さんがおれを抱きしめてくれた。
触れたところから、温かいものが流れ込んでくる。
体がすごく熱くなって、頭の奥で光が弾けた。
おれが目を開けると、あたりはひどく暗かった。
洞窟の中にいるみたいだ。
全身を瞳のような丸い球体が包んでいる。今まで意識を失っていたおれを守ってくれていたらしい。
球体が割れた。
そろそろと手足を動かしてみる。怪我はないみたいだ。
外に出ると、空には光があったけど、とても弱い。
もしかして、ここが魔界なのかな。
見回しても緑なんて見つからない。暗い色ばかりで、荒れ果てた大地とマグマが広がっている。あまりにも地上と違いすぎる光景に、心が締め付けられたみたいに苦しくなった。
必要なものは、きっと地上と同じ。
(おまえならば変えられるかもしれん)
さっきの言葉は、このことを言っていたんだろうか。
地上を狙うやつを止めても、この状況を変えないと戦いは終わらない。時間がたてばきっと他の魔族や竜が地上を狙うだろうから。
第三勢力。魔界に住む人たち。地上のみんな。
今はまだどうしたらいいのかわからないけど――。
おれはよどんだ空を見上げた。
絶対帰るんだ。
そしてみんなで、竜族や魔族も一緒に暮らそう。
バーン。おまえが何よりも望んだ太陽の下で。