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ひよこの足跡ブログ

漫画やゲームなどの感想を書いています。 ネタバレが含まれることもありますので、ご注意ください。

邪眼は月輪に飛ぶ・黒博物館 スプリンガルド

藤田和日郎先生の短編二つを軽く紹介します。

『邪眼は月輪に飛ぶ』

その眼で見た相手をすべて殺すフクロウ『ミネルヴァ』に立ち向かうため、かつて撃ち落とした経験のある猟師の鵜平やデルタフォースのマイクらが立ち向かう。

友人いわく「鵜平さんかわいいよ鵜平さん」らしい。分かる気がする。
まっすぐな少年だけでなく渋い老人を主人公にしても光る。外見を裏切らない貫禄があります。
鵜平やマイクももちろん魅力的ですが、ミネルヴァが大好きです。
一話目のミネルヴァに見られて大勢の人間が命を落とす場面にビビりました。
「こんな敵どうやって葬るんだよ」と。
それほど恐ろしい存在でありながら、哀れにも思う。
同族をも殺してしまう孤独な存在ですから。
白面の者など、倒されねばならない敵の悲哀を描くのが上手いなあ。
不幸自慢になるほどくどくはなく、倒される敵としての格は保ったままです。

ここからは印象に残った台詞・文章を。ネタバレを含みます。

――その掟はひとつだけ。<ミネルヴァ>に見られた者はみな死ぬ。
怖い。
『うしおととら』の妖怪もそうですが、恐ろしさ・おどろおどろしさを描き出しています。

「おのれらは何で獲物を畏れん? 何で、自然の前でかしこまれねえんだ?」
自分の腕前と銃の性能に溺れ、獲物を馬鹿にした男たちへの発言。
山で神様に獲物を授けてもらうという意識によるものです。

「犬でも何でも、オレがなってやる!」
言葉とは反対に凛々しい表情。
それを聞いてにやりと笑う鵜平の表情が素敵。
犬呼ばわりされて「わん」と律義に答えるマイク、可愛げがあります。

「ウヘイ、死なさんぞ!」
娘の輪が涙とともに叫ぶ。熱い。

「獣を狩る者は獣になんねばな」
渋いと思ったら直後にマイクから呼び止められ、「犬めが何しとる!?」と言います。何やってんだよー、と言いたげな表情がナイス。

――何が来ても、もうこのフクロウは渡さん。この大切なフクロウを奪われて彼はアタマにきていたんじゃろうな。
禍々しいとしか思えなかったミネルヴァに少し心が痛みます。

「だから、邪眼。キサマの負けよ」
このシーンを挙げた理由は実際に目にしないと伝わらない。
アシスタントの方々がトーン貼りやインクを散らすことを拒否したのも納得の画です。


『黒博物館 スプリンガルド』

ヴィクトリア朝初期のロンドンを舞台に、バネ足ジャックと呼ばれる怪人が跳ぶ!

まず装丁が凝っていて、雰囲気出てます。
一時期犯人と目されていた放蕩貴族のウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイドと熱血警部のジェイムズ・ロッケンフィールドの双方が男前。
警部の方は『からくりサーカス』の鳴海を連想しました。ロッケンフィールドという名は『からくりサーカス』の中で登場しています。
ウォルターは主人公とは思えないゆがんだ表情をします。
「面白いから聞いてやるよ、犬っころ」や「面白かったぜ」と言う時はどこからどう見ても悪役顔。
だが、メイドのマーガレットには弱い。
赤面し、冷や汗を流し、すっかり情けない表情。
屈強な大男相手に喧嘩を吹っかけてぶちのめすような性根の持ち主なのに、惚れた女にゃからきし弱い。
陰のある青年主人公もいいなあ。

マーガレットの結婚式が行われている教会の前に立ち、殺人鬼の行く手を阻むウォルターの台詞がこの話で最も好きです。
「ここから先は敬虔で善良なる者以外立ち入り禁止だ。……オレたちは入れない」
マーガレットのように光に照らされた道を歩いてこなかった。
彼女の傍らでともに歩むのは自分ではない。
それを自覚しての台詞なのでしょう。
戦いが終わった後の「今度はおかしな女なんかと……出会わない遊びだ」という台詞も好きです。
異聞のマザア・グウスで印象に残る台詞は、
「人間にとっての『最高』ってヤツは『変わっていく』ってコトだろうからな」
ですね。
ウォルターも変わった。
「くだらないな、いいじゃないか」も読んでいてニヤリと笑いたくなる。
ウォルターが魔王のようなイイ笑顔をしていますから。
黒博物館そのものは終わっていないので、もっと色んな話を見たくなります。

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