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ひよこの足跡ブログ

漫画やゲームなどの感想を書いています。 ネタバレが含まれることもありますので、ご注意ください。

金田一少年の事件簿 オペラ座館・新たなる殺人

金田一少年の事件簿 オペラ座館・新たなる殺人

・あらすじ
かつて殺人事件が起こった場所、オペラ座館で再び惨劇が起こる。
主人公の金田一は難事件に挑む。

あらすじがざっくりしすぎですね、すみません。
金田一少年の事件簿シリーズについてあまり詳しくなく、初期の話を幾つか読んだだけの状態ですので、ズレた発言や感想があるかもしれません。

・キャラクターについて
金田一 一:スケベだけど真面目なシーンでは男を見せる。
七瀬 美雪:推理物のヒロインらしく災難な目に遭う。が……頑張ってください……。
剣持警部:頭が固いが、終盤犯人との約束を守ったシーンで男気を感じた。

能条 光三郎:この男がイケメンすぎたゆえに今回の事件が起こったと言えるかもしれない。
非常に目立つキャラなので、後で詳しく語ります。
黒沢 和馬:娘を捨てて金と地位目当てに別の女に乗り換えた男に穏やかに接しようとする、人間できすぎてるくらい温厚な紳士。
恋愛に心変わりはつきもの、誰も悪くないと己に言い聞かせて、能条に対する怒りや憎しみを抑える様は見ていて心が痛んだ。
寛容さや忍耐力があるからこそ、憎悪を覗かせた時に印象に残る。
黒沢 美歌:被害者扱いすべき人物はまずこの人だと思う。
この作品を読んだ後でオペラ座館一作目を読むと、この時点で自殺について言及されていたので「おぉっ!」と思いました。
「恋人に捨てられたらしい」という情報もありました。
すでに能条の性格まで決まっていたんだろうか。
能条 聖子:能条の心を掴もうとしたが、まるでなびかなかった。
だが同情する気は全く起きない。
人の悪口を言いそうにない黒沢から「わがまま娘」「成り金の小娘」と呼ばれるなんて普段から相当酷かったんだろうな。
滝沢 厚:ナルシスト。「俺ってカッコいい」だけなら問題なさそうに見えますが……?
緑川 由紀夫:善良ではないが大それた悪事もしそうにない、良くも悪くも小物という印象でした。
加奈井 理央:印象の変遷は「ノーブラの人」→「女傑」。
喚く能条にビンタくらわせて啖呵を切ったシーンはスカッとした。殴り返されなくてよかった。
結城 英作:態度が怪しい。でも悪い人じゃない。
間久部 青次:外見が怪しい。何の証拠もなしに序盤でファントムの中身を見抜くという、さりげなくとんでもないことをやっている。彼の目に世界はどう映っているのだろう。
江口 六郎:美歌への想いはほろ苦くもキラキラした青春の一ページで終わるはずだったと思うと可哀想。事件後犯人をどう思ったか知りたい。
犯人『ファントム』:元ネタのファントムは醜い顔を仮面で隠してますが、このファントムは醜い姿を『仮面』にしています。
このキャラクターを見ていると『この世は舞台なり。誰もがそこでは一役演じなくてはならぬ』という台詞が浮かぶ。
……この人の場合は演じすぎだろう。
全ての想いと力を込めて演じて、舞台をおりた。

・知識が無かった場合の犯人予想
犯人が誰か知っている状態で読みましたが、もし何の情報もなく読んでいたらどんな風に疑ったか考えてみます。
レギュラーキャラの金田一、美雪、剣持、第一の死亡者の聖子は除外。
推理物読む時はトリック解明を完全に放棄して犯人を勘で当てようとする私の予想は……こうなる!
可能性:低
・結城、間久部
不審人物がそのまま犯人だったら逆に驚く。
間久部はマスクで顔を隠しているので、彼に罪を被せようとして犯人が変装するという展開はあるかもしれない。
・能条
金のためなら殺人も辞さないように見えるが、リスク等を踏まえて殺さない方が得と判断するでしょう。
「夫婦仲が冷えきっていて鬱陶しいので殺しました」では物足りない。
・滝沢、緑川
能条と同じく、「嫌な連中の内輪もめでした」では盛り上がらない。
緑川は二番目の死亡者ですし。

可能性:中
・黒沢
動機が明確すぎるが、温厚な人間が罪を犯した方が心に残るものがありそう。

可能性:高
・江口
いい奴だから怪しい。
我ながら酷い理由だ。
黒沢と同じく動機が分かりやすすぎるが、無害そうな人間だからこそ犯人だった時に盛り上がる。
・加奈井
女の細腕で男を絞め殺すのは困難……というのが逆に怪しい。
軽そうに見えるキャラが、重く、暗い感情を抱えているのはお約束です。

・計画・トリックについて
探偵の説明に「そうだったのかー」で済ませる私の意見など参考になりませんが、一応。
とてつもなく複雑とかものすごく豪快という印象は受けませんでしたが、バレるきっかけになった行動も、うっかりしすぎなどの目立つミスではありませんでした。
演技に関してはほぼノーミスじゃないか?
金田一が犯人の素顔に気づいたのは間久部の絵がきっかけで、理屈ではなく感覚によるものですし。
予想外の展開に対応し、計画を修正したのは見事だと思います。
金田一が○○○を見てトリックに気づいたように、犯人も○○○を見てトリックを思いついた気がしてならない。

・好きなシーン
ネタバレにならない範囲で挙げてみます。

・能条が黒沢を罵るシーン
能条の独擅場。
ゲス・オン・ステージ。
クズな態度を全開にする様はいっそ爽快。守りに入らず堂々と罵倒する様は恐れを知らないかのよう。
間違いなく名シーン。
・「彼」が能条を尾行するシーン
クライマックスが近いと感じさせる。
事件はまだ、終わっていない。
・真相解明
犯人との約束を守った剣持に男気を感じた。
刑事としては間違っていても、あの涙を目にして、悲痛な叫びを聞いて、それでも約束破ったら人間としてどうかと思う。

・見所
この作品の見所は能条のクズっぷりと、正反対の犯人だと思います。
まず能条について。
地の文でも台詞の中でも「美しい」と形容される風貌です。
・スポットライトに映えるその笑顔を見て、ハジメはハッとなった。
・男のハジメが目をみはるほどに、能条の容貌は美しかった。
対面した金田一がこの反応。「長身の力強い体格と不似合いなほどに、整った目鼻立ち」などの表現も。
ナルシストっぽい仕草してもカッコいいなんて腹立つなこの野郎。
・冷酷で打算的な美しい男
滝沢からはこう見えた。傲然とした振る舞いも滝沢だと空回りしますが、能条がやれば様になるでしょう。
ナルシストな滝沢からも美しい認定されるとは。
・整った口元を醜く歪めて
・青年の美しい面立ちを
これらは地の文。
・「あの絵の中の能条は、男のおれの目から見ても、美しかった」
金田一の台詞です。
何回美しいと言われるんだ……。

そんな風貌から繰り出されるストレートな罵倒・暴言の数々。
滝沢がしょっちゅうターゲットにされる。
「うるせえ、デブ。お前に言われる筋合いはねえ」
「おい、デブ!」
「はははは。やってみろ、デブ」
「さっさと捕まえろ、あのブタ野郎を!」
デブデブ言いすぎ。
身体的特徴を持ち出すなよ。
もっと品のある罵倒が聞きたい。
バリエーション豊かに罵ってくれないかな。

人間できてる黒沢も被害に遭います。
「え、違いますか、センセイよう?」
煽り力高いなあ。「先生」ではなく「センセイ」なのが完全に馬鹿にしている。
「けっ、偽善者が」
「善人面したジジイ」
能条に対する怒りや憎しみを抑える黒沢にこの言いよう。
「あんたの娘のことも、なんとも思っちゃいなかったよ。まあ、顔と体は悪くなかったが、それだけのことさ」
「おれはどっちかっていやあ、センセイ、あんたのコネが目当てだったんだよ」
この後も醜悪な本性を剥き出しにした台詞が続き、さすがの黒沢も殴りかかる。
自殺した娘についてこんなこと言われたら誰でもそうするわ。
ガラス製の分厚い灰皿とかバールのようなもので頭ぶん殴ってもおかしくない。
それにしても度胸あるな、能条。
滝沢や緑川には能条に刃向う気概はないでしょうけど、思い詰めた黒沢が娘への愛ゆえに刃を向ける可能性は浮かばなかったのか?

他のキャラにも罵倒します。
「はははは、馬鹿じゃねえのか、お前」
「ちくしょうが」
「ケッ、どいつもこいつも、偽善者ぞろいだぜ」
「ドブネズミども」
など。
最後の台詞には異議あり!
ドブネズミとか言うなよ!
ドブネズミに失礼だろ!

ついでに、
「お、おれは部屋に戻るぞ。こんな所にいられるか!」
「おれはそう簡単に殺られないぜ?」
には笑いました。
どんだけフラグ積み重ねる気だコイツ。
加奈井にビンタされた時の反応も面白かった。
「……な、何しやがる、この女」ですからね。
彼にとって加奈井は互いに本気にならない「都合のいい相手」だったでしょうから、ビンタと啖呵は予想外だったんじゃないか?
他の場面では殴りかかられても軽くかわしてるのに、この時はまともにくらってますから。

色んな意味で輝いている能条によって犯人の執念・忍耐力がいっそう光ります。
殺したいほど憎い相手を前にしても、目的を達成するため殺すわけにはいかない。
憎悪を抑え、耐え続ける執念と覚悟が壮絶で……痛々しい。
精神的に強かったり信念を抱いているキャラが脆さを見せた時グッときますが、犯人が涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして叫びを迸らせたシーンは「も……もういいです」となりました。
その後に立ち上がり戦う展開とセットだから興奮するのであって、ひたすら苦しむのが見たいわけではありません。

私は物語内の復讐について肯定派とも否定派とも言い切れません。
相手や方法、世界観など、内容によるとしか言えない。
誤解や人違いだったらやめろと言いたくなりますし、逆恨み・八つ当たりだと応援できません。
この犯人に対しては……止められない。
悪事の証拠を提出して社会的制裁を受けさせるのが真っ当なやり方でしょうけど、その方法は選べない。
それができるなら、わざわざ苦しみを味わうことはしない。

悲しい話ながらも救いのある結末で前向きに終わった……はずでしたが、不満があるとすれば黒沢のその後ですね。
復讐に人生を捧げた犯人にも希望があると思ったのに……!
黒沢のことを知ったら間違いなく絶望する。
力になれなかったことを悔やみ、己を責める。
外道な連中とはいえ命を奪った業・報いと言われればその通りなんですが、救いや幸福を求めてしまう。

ここからはネタバレありで犯人や好きな台詞について語ります。
犯人の素顔を見た後で読んでほしいです。


「おれは、美歌を愛していたんだ――」

最もインパクトの大きかった人物は犯人であるファントム。
一番強烈なシーンは真相解明時。特に動機語りの部分。
全て犯人が持っていきました。

一部のキャラについて、今度はネタバレ有の感想を。
能条 光三郎:イケメンすぎた男。
女癖の悪さはどこまで事実だったのか。
ファンのつまみ食い話も女癖悪いアピールみたいな感じでしたし、口先だけで実際に手を出してはいない気がする。
相手の女が本気になったら色々支障をきたします。嫉妬の恐ろしさは身をもって知っていますし……。
能条 聖子:能条の心に彼女が入り込む余地などまるでなかった。
いや、ある意味特別な存在になったと言えるか。
彼の心を掴んで離さなかった。悪い方向に。
滝沢 厚:「俺ってカッコいい」がいきすぎて、欠点を欠点と認識していない。
少し残酷なところや他の部分も魅力的だろうと勘違いしてるのは……そういうのが好きな相手に発揮するならいいけど、その気の無い相手にまでやるのは最低だ。
緑川 由紀夫:臆病な小物なら小物らしく、危険なことに手を出さなければよかった。
自ら悪事を企み実行する野心はなく、仲間の犯行を止める善良さもなく、欲を抑えて関わらずにいる自制心もなく、心を痛めたところで裁きを受ける覚悟まではなく、全てにおいて中途半端だった。
良心が無いわけでもないなら、土下座して心から謝罪していれば……。
結局何もしなかったのはなぁ。

彼らの行いを知った後だと、被害者という言葉を用いることが躊躇われる。
いい点を強いて一つ挙げるとすれば、下手に改心・謝罪しなかったことですね。
殺される直前に「あれから毎日罪の意識に苛まれていた」とか「家族の治療のために大金が必要で」とか言い出したら何それふざけんなと言いたくなるところだ。
滝沢がビデオテープをダビングしなかった理由は、
・悪事の証拠だから増やしたり渡したりしたくない
・楽しみは独占したい
のどちらなんでしょう。
どっちでもいいか。
ダビングしていたら犯人の苦痛が増していたところだ。

真相解明時に最も盛り上がりました。
推理物では犯人の豹変も楽しみの一つですが、この作品では特に光っています。
傲慢な態度を取っていた人物が穏やかに語る落差が激しい。
真摯に「信じてください」「許してください」と弁明、懇願を口にする様を見て黒沢も困惑。
戸惑いながらも事情を知ろうとする黒沢は心が広いな。
私だったら「今まで散々偉そうにしておいて……」と反発するかもしれない。
黒沢が美歌の最期の言葉を教えたらどんな反応を示すのだろう。
やはり苦しむか。

殺したいほど憎い相手から情報を引き出し、復讐を果たすためだけに、犯人は演じ続けてきた。
数々の演技の中で最も辛かったのは尊敬する師を欺いてきたことですね、間違いなく。
後から読み返すと、黒沢親子を侮辱する場面は名シーンだと思うようになりました。
自分の心にグサグサナイフ突き刺すような苦しみだったろうな。
いっそ仇への憎悪以外何も無ければ楽だったかもしれない。
何を食べても味を感じず、どんなに強い酒を飲んでも少しも酔えない状態までいったのは、かなり危険では……。
芝居、演技だと言い聞かせすぎたのか?
それくらい己を突き放さないとやっていけなかったんだろうな。
秘密を共有する仲間や演技を解く時間があれば楽だったでしょうけど、まるでなかったんですよね。
美歌を愛する黒沢をも欺いてきたんですから、他の人間に打ち明けるという選択肢はない。
聖子と夫婦である以上、一時も気が休まらない。寝ている時ですら、寝言で下手なこと言ったらアウトですので逃げ場がない。
……よく心が折れなかったな。

黒沢も辛いでしょうね。
娘が自殺した原因だと思っていた相手が娘を心から愛していて、娘のために何年も苦しみに耐えてきた。
それに気づかず、軽蔑し、憎んできたわけですから。

映像を見たと語るシーンで、時期について疑問に思いました。
二か月前に滝沢と喧嘩したのに、滝沢が部屋に連れてきたのは一か月前。
二人の仲が険悪になってからです。
喧嘩した理由はおそらく脚本についてでしょうけど、自分の信頼を裏切ったと知った後で滝沢が部屋に招くのか?
滝沢の過去の悪事をネタに脅して、無理矢理押しかけたなら分かりますが、似た者同士と思うようになった滝沢が連れてきたとのこと。

こういう流れでしょうか。
同じ匂いをかぎ取って親密に付き合う、『秘密』も教える
→脚本握りつぶし発覚、本性を妻に暴露すると滝沢が脅すが通じず
→残酷な男だと思い知らされさらなる同類認定&自分より格が上と認めて畏怖
=険悪になっても、跳ね除けて遠ざかる方向に行かなかった
『秘密』を知る相手を無碍に扱うわけにもいきませんからね。
仲が良かった頃に滝沢から『秘密』を打ち明けられたはずなのに信じ切れなかったのは、詳しく語られたわけではなかったのか。
それとも物証がないから?

とにかく、憎しみに燃えながらも遺書の内容が事実かどうか確かめたのは評価したい。
まだ仲間のことを信じようとしていたんですよね、本当にそこまで酷い事をするのかと。
……そんな想いは無惨に踏みにじられたわけですが。
目にした『地獄』を語る様が痛々しい。
その場で相手を殺さなかった自制心に尊敬と感嘆を覚える。

改めて「よく耐えたな……」と思うところを列挙してみます。
・遺書を読んだ後、殺したい衝動を堪えて何年間も手出しを控える
これだけでもすごい。
・情報を引き出すために仇に近づく
具体的には以下の通り。
・元凶と結婚し、愛しているふりをする
殺したいほど憎い相手の誘惑に乗るなんて吐き気を催すだろう……。
自分から汚れることを選んだはずなのに、「汚された」と表現したくなる。
・直接危害を加えた男に対して理解者のように振る舞い、親密に付き合う
「気持ち悪いくらい仲がいい」と評されるレベルの付き合い。
やはり吐き気を催しそうだ。
・映像を握っている↑の男に同類と思わせるため、「野心のために他人を踏みにじることも厭わない下劣な人間」を演じる
ただ近づいても警戒されるだけでしょうね。
こうするしかなかった。
・ゲスな顔の上に好人物の仮面をかぶる
最初からクズさを全開にするわけにもいかない。
難しいのは、爽やかさの中に裏がありそうな様子を見せないといけないことですね。
「爽やかに見えるが、実は愚劣だった」と思わせなければならない。
悪人の演技だけでも辛いのに、二重に演じるとなると負担はさらに重くなる。
・美歌との関係はコネ目当てと言うなど、黒沢親子を侮辱
事件中は標的の隙を招くため、黒沢に対して直接罵りました。
この時は酷く心が痛んだろうな……。
・愛する相手の父親であり、尊敬する師から「娘を死に追いやった最低の人間」として軽蔑され、憎まれる
憎い連中と同類のフリをするだけでも腸煮えくり返りますが、より辛かったのは、好ましく思う人々を敵に回したことかもしれない。
心に憎悪以外無ければいっそ楽だったかもしれませんが、黒沢への敬意があるからこそ苦しみも跳ね上がった。

くじけそうになるたびにこれは芝居だと言い聞かせた結果……。
・何を食べても味がせず、どんなに強い酒を飲んでも酔えなくなる
仲間もおらず、気が休まる時間もなければ、そうなってもおかしくない。
一番凄まじいのは次でしょうか。
・とうとう愛する者が自殺に追い込まれた映像を見るが、その場で殺してやろうという衝動を必死で抑え込む
千切れそうになるまで舌を噛み、爪が掌に食い込んで血が噴き出すまで拳を握りしめ、死ぬ思いで耐え抜いた。
文字通り身を削っています。

当時の様子を語る際は、あれほど美しいと語られてきた顔が涙と鼻水でぐしゃぐしゃになり、嗚咽が漏れ、目が血走り、血を吐くような叫びを迸らせる。
本当に、よく耐えたな……!

殺意を抑えて計画を立てて復讐を完遂したのは見事。
ちゃんと事実を確認してからというのが好感が持てる。
実行時も関係ない人間を殺したり罪を着せたりしなかった。
黒沢が犯人と思わせるような台詞を吐きましたが、最終的に着せようとした相手は仇ですから。
仮に金田一や美雪に目撃された場合、口封じに殺したかどうか気になります。
この犯人のことはとても好きですが、殺さないと断言できるかというと……難しい。
目撃されなくて、危害を加えなくて、よかった。

一歩間違えれば救いのない、後味の悪い結末になっていました。
美歌を侮辱されて我慢の限界を超えた黒沢に刺される展開もあったかもしれない。
善良で誠実な人間が憎悪に呑まれれば恐ろしい復讐者になるのは、自身が証明しています。
別の展開として、金田一が真相を暴かなかった場合も暗い結末になるでしょう。
隠しておきたかった秘密は守られるが、一人で全てを抱え込むことになる。
そうなったら目的を果たした後、自殺したかもしれない。
真相が明かされたことで、犯人は仮面を脱いで穏やかな形で舞台を降りることができた。
黒沢も、全てを懸けて娘を愛し抜いた人間がいたこと、娘は愛する相手を間違えていなかったことを知った。
これで良かったと思えます。

最も好きなシーンは、やはり黒沢との会話ですね。

「黒沢先生。どうでしたか、おれの演技。少しは、巧くなりましたか?」
「私もヤキがまわったものだよ。弟子の演技も見抜けないとはな」

黒沢を責めるのは酷です。
それだけ犯人の演技が凄まじかった。
技巧ではなく精神力で完成度を高めたのではないでしょうか。
その後のやりとりもいいんですよ。

「君は、馬鹿だ。それほどの才能を、なぜ自分のために使わん。なぜそこまで、美歌のためだけに……なぜ……」
「ありがとうございます、先生――」

「なぜ」と疑問の形になっていますが、実質的には「己を犠牲にしてほしくなかった」という叫びに聞こえる。
だからこそ、犯人はありがとうという言葉で応じたのでは。
あえて言葉上の「なぜ」に答えるならば、答えは一つ。
ネタバレ防止にたたんだ直後の台詞が全てを物語っています。

復讐しない道を進んでいれば、人気や地位を得て成功を掴むことも容易いはずだった。
復讐を決意しても、もっと楽なやり方はあったでしょう。
それでも、彼にとって他に道は無かった。
「知人や警察に相談すべきでは」という、真っ先に浮かびそうな疑問はすぐに潰されます。
父親にも明かさなかったことを他の人間に話そうとは思えない。
黒沢も「美歌のため」と認識していますし、自分の恨みを晴らすためだけの行動ではありません。
犯人であることを隠そうとしたのも、ただの保身とは言えないはず。そもそも保身第一なら、わざと自分の評価を底辺まで落とすような真似はしません。
「捕まるなんてアホらしい、スッキリした後は人生を謳歌するぜ!」ではなく、「仇を葬り、映像を処分するまで誰にもバレてはいけない」から隠そうとしたんです。
映像を処分した後で、秘密が守られるならば、逮捕されようが死ぬ羽目になろうが受け入れたと思います。
すでに自身の名誉を捨てて、周囲を敵に回していますから。
仮に捕まったら適当な動機を並べて、捕まらなければ秘密を抱えて自殺したのでは……。
それほど隠したがっていた内容を真相解明時に喋ってしまったのも、ビデオの処分と引き換えなのでやむを得ない。
あの状況で黙っていたら、皆の前で映像を再生されるという最悪の事態に発展した可能性がある。
剣持が約束を守ってくれて良かった。
そのために何年も耐えてきたわけですから。

犯人は無期懲役になるとのこと。
計画的に三人殺したとなれば、死刑にならなかっただけでもよしとすべきか。
いくら相手が外道でも、罪は罪であって、そこをおろそかにすると被害者連中と同類になりかねない。
気になるのは動機や背景をどこまで話したかですね。
「惨い目に遭わされ自殺に追い込まれた恋人の仇を討ちました」と言っても、それを証明するものは自らの手で消しています。
剣持が始末書を書くと言っていたので、ビデオテープの存在自体は事実として認められるか。
ビデオを処分せずにいれば罪を軽くできたでしょうけど、そんな犯人は犯人じゃない。
困難な道だと分かっていながら進むことを決意し、苦痛に耐えながら歩み続け、立場が悪くなると分かっていても想いを貫く姿が心を揺さぶるのかもしれない。
苦しい道を選び、全てを捧げた姿に魅力を感じます。

劇団を立ち上げた黒沢は、罪の償いを終えて出てくる彼のために舞台を演出するつもりだった。
彼が出所するまでは現役で頑張るという前向きな決意を固めてくれました。
希望の持てる終わり方だっただけに、その後が残念でならない。
犯人が直接辛い境遇に陥るならば罪を犯した業や報いと無理矢理言い聞かせることができても、黒沢自身は罪を犯していないからやりきれない。
事故死したとされていますが、謎が多いだけに生存の可能性を求めてしまいます。
死体が発見されていないとのことですので、生き延びていることを願わずにはいられない。
そして、いつか犯人と再会してほしい。
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