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ひよこの足跡ブログ

漫画やゲームなどの感想を書いています。 ネタバレが含まれることもありますので、ご注意ください。

黒博物館 ゴーストアンドレディ

『黒博物館 ゴーストアンドレディ』感想。

・全体の印象
うしおととらとからくりサーカスの要素が含まれているように感じます。
前者は「おまえはオレが殺すんだ!」な台詞、後者はシェイクスピアの引用が多いので。
注意すべき点としては、ヒロインであるフローの成し遂げたことを語るために必要とはいえ、文字が多めです。
彼女の伝記の要素が強く、ピンチ! バトル! エンディング! というスピーディな決着を求める方には合わないかもしれません。
最終局面の盛り上がりと終わり方が見事な作品です。

まずは上巻から。

・表紙
アルレッキーノを連想しました。
真面目で孤高な人物かと思いましたが、砕けた話し方です。
灰色の服の男……グレイはいい味してる。
藤田先生は、うしおや鳴海みたいな真っ直ぐな性格のキャラだけでなく、陰のある、悪く言えばひねくれた人物の描写も上手い。
芯からねじ曲がって冷え切っているわけではなく、要所では熱いところを見せるのでグッとくる。

・出会い
後ろ向きな、死人のようなフローの目が印象的。
第一話の最後で彼女のフルネームを見て「おぉっ!?」と思った方も多いのではないでしょうか。

・悲劇
フローの言動にゾクゾクするグレイ、いい表情しています。
彼女に死を与えることで悲劇を完成させれば、観ているだけの存在だった己が役者となれる。
彼女を殺すと約束するが、望まれてホイホイ殺す気なんて湧かない。
絶望の瞬間死んでいくからこそ悲劇となるのだから。
勝手な言い草ですが、根っからの悪党ではないので、いざその瞬間が訪れたら心から喜べない気がする。

・関心
(この女の演じてるトコを……もっと観てみてえ!)
色々言いますが、突き詰めればこれですね。
生気を取り戻したフローの笑顔が可愛い。

・冷気
幽霊であるグレイは冷気を運ぶ体で、本人も寒さを感じている。
力を失うとチリになってしまうという台詞で、何となく展開を予想しました。
チリになったとしても何十年か霊気を集めれば、という台詞も合わせるとうしおととらの妖怪みたいですし。
“寒い”幽霊だから、熱さを感じさせるフローの姿をもっと観ていたいと思った。
自ら危険に飛び込む彼女にそれじゃ自分が殺せないと文句を言いながらもついていくグレイ、微笑ましい。

・苛立ち
フローの邪魔をする相手にイラッとするグレイ。
彼女が何もできなくては退屈だからと考えますが、それだけじゃない気が……。
「必ず『絶望』しますから、ずっと側で私を見ていてくださいね」
少し言葉を変えればプロポーズの台詞に聞こえる。

・デオン
美人。
男とも女ともとれる……って、実在の人物!?

・演劇
死を覚悟しながら入った場所で目にしたのは、美しい世界だった。
魂を奪われるのも納得。

・裏切り
本当にシャーロットはただの遊びとしか思っていなかったのか?
彼女の真意はグレイ視点ではわからないのがちょうどいいバランスですね。
本当に遊んでいただけならただの嫌な女ですし、デオンの陰謀や男の無理強いのせいだと、裏切られたと思い込んだグレイに引っかかりそうなので。

下巻へ。

・豪胆? 繊細?
図太そうに見えて意外と凹みやすいグレイ。
精神的に強そうなキャラが弱さや脆さを見せると引き込まれます。

・口調
デオンは「私」「僕」と言ったり、優雅だったり乱暴だったり口調が変わるのが面白い。

・熱い
「あなたといた時は……とてもあたたかだった」
聞いてるこっちが火傷しそう。

・フィッツロイ・サマーセット・ラグラン男爵
何この威圧感。
ラスボスとか黒幕じゃないか?
あの姿で名前を呼ばれたらビクッとなります。
バーン様に睨まれたハドラーの気分が味わえます。

・黒人の紳士
からくりサーカスで登場した男にそっくり。

・庇う
絶望する者と殺すことで悲劇を完成させる者という関係だったはずなのに、フローがグレイを庇う。
グレイが心底驚いている。
人間が幽霊を庇うんですから。
徐々に関係は変わってきましたが、ここで加速したのかもしれない。
衰弱していく彼女へグレイが力を分け与える。
「オマエはオレが殺す前に死ぬんじゃねえ」
やっと前進した。
素直じゃないなぁ。

・ラグラン
ホール相手には威圧感たっぷりだったラグランが、フローには丁重な態度と笑顔を……。
傷だらけの強面なのに可愛いと思ってしまった。

・裏切り
裏切られて死んだグレイに、「絶対に裏切らない」という言葉は効くだろうな。
この時の笑顔は、いつもの陰があるものではない。

・熱い
目を潤ませながらの「その時こそ私を殺してくださいね!」。
グレイの姿を思い浮かべながらの「本物の『天使』は……苦しんでいる人のために戦う人のことを言うのです」。
夏に読むと暑苦しいレベル。

・渋い
黒人の紳士、渋かっけえ……!
「銃相手にナイフ二本で無双」はロマンの塊。
ソワイエもラッセルもいい男だなぁ。
体を張り、命を懸ける!

・決着
ホールがフローの精神に斬り込み、偽善者と罵る。
自分の存在を認めてほしくて仕事に縋るだけだと。
それに対し彼女は反撃。
「たとえそれが『偽善』でも、貫き通さねばならない『偽善』がある」
武装錬金のブラボーの台詞を思い出した。
善でも悪でも最後まで貫き通せた信念に偽りなどない、だったか。
偽善だのきれいごとだの批判するのは簡単ですが、全力で貫いたのなら偽りではないと思います。

同時に、グレイとデオンの戦いも終りを迎える。
これまで絶望したフローを殺して悲劇を完成させると言っていたグレイですが……。
「舞台に上がるのはいつだって生きてる人間。限られた上演時間内で与えられた役を懸命に演じるんだ」
登場人物は生き延びるにせよ命を落とすにせよ、全力で歩むからこそ、読者の……観客の胸を打つんですよね。
「オレたち幽霊はただ観てるだけだ」
人間は人間、幽霊は幽霊同士で戦い、決着をつける。
これまでグレイが相手の生霊を斬って黙らせてきましたが、最後に相手に打ち勝ったのはフロー自身の力だった。
ずっと耐えてきた彼女が、元凶に感情を叩きつけた。
人に負の感情をぶつけまくるのはもちろんいけませんが、向けるべき時がある。
彼女の生霊が美しいデザインではなく、禍々しいものだったのもいいですね。

また女に裏切られたと言うデオンに、グレイは返す。
裏切られたというのはすなわち、信じたということ。
「オレは信じたいものを信じた」
ずっと引きずっていた「裏切り」を昇華できたと感じられます。
騙された、で終わるのではなく、得たものがあった。

・絶望
グレイの消滅を目にしたフローが絶望の淵へ。
グレイを喪った悲しみと怒り、そして憎しみを元凶のホールに向ける。
クリスチャンが人を殺せば地獄に堕ちると告げて思いとどまらせようとしますが……。
「そうしたらグレイと……会えるかしら」
完全に我を忘れている。
怒らせてはならない人物を怒らせたらこうなる。
己を殺そうとした相手すら助けようとしたのに、激情に駆られて人を殺めようとするのか……。
今までの自分の歩みを否定しかけている。
凶行を止めたのは、グレイだった。
どんな状況であの弾丸がと思っていたら……ここで使われたのか!
彼女の危機を救った時のものかと予想し、ある意味合っていた。
守ったのは命ではなく信念ですが。

・笑顔
グレイの笑顔が眩しい……。
最後のプレゼントも洒落ています。
弾丸誕生の経緯といい、使い方が上手い。
最後に同じ存在として触れ合えてよかった。
彼女と一緒に行けないのは、人を殺めてきたからでしょうか。
ハッピーエンドの中に寂しさがよぎる結末でした。
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