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ひよこの足跡ブログ

漫画やゲームなどの感想を書いています。 ネタバレが含まれることもありますので、ご注意ください。

ネウロ感想 1

ネウロ感想 1
脳髄の空腹~ひとりきりの歌姫




脳髄の空腹

推理物ではトリックの説明を飛ばしたり犯人をカン、もっというと人物紹介見ただけで当てようとするので、作者コメントに親しみを覚えました。
作者自ら「推理物の皮をかぶった単純娯楽漫画」と言うくらいですから、ぶっ飛んでいます。犯人とか動機とか。
憎悪や怨恨、復讐といった胃が重くなるような動機が語られることはほとんどありません。
「探偵の行く先々で事件が起こりすぎる、死神か何かじゃないか」という突っ込みも不要。
一巻はドーピングコンソメスープ(以下DCS)のインパクトが強いですが、二人の出会いや食への関心が強い性格、笹塚の登場など重要なエピソードが詰め込まれています。

父親が惨殺された女子高生、桂木弥子と、謎を求めて地上へやってきた魔人の脳噛ネウロ。
謎が嫌いな弥子と謎を求めるネウロが対比になっています。
彼女の「世界は謎で満ちている」という言葉への受け取り方、込められている感情は次第に変わっていきます。

泣く弥子に対しての
「貴様は泣くのではなく笑うべきだ」
という台詞は後でも出てきます。
父親の死で弥子が食欲をなくしていますが、これがどれほどの異常事態であるか段々わかってきます。
胃袋ブラックホールな食欲の権化ですから、衝撃の深さがうかがえます。
「人間は名乗らねばわからんのか」という台詞は、
・ネウロは魔界では有名で名乗る必要がなかった
・魔人の性質として名乗らなくてもわかる
のどちらなのか疑問に思いました。最初は前者しか考えていませんでしたが、深読みすると後者の可能性も?
 
ネウロは事件が起こる気配を察知して喫茶店に入る。
推理物を見るたびに浮かぶ、「何でいつも出かけるたびに事件に遭遇するんだ」という疑問が潰されました。
後のエピソードでは弥子が知らせて殺人を防ごうとするシーンがありますが、後に延ばされるだけ、殺人へ駆り立てるほどの悪意は簡単には消せない、謎は生まれるべくして生まれると語られます。

携帯電話のボタンを押す音など小ネタがちりばめられていて読み返すのが楽しいです。
第一話の犯人が指差されるまでまったく登場していなかった人物だとか、スマイルマーク顔に描いたら怪しすぎるだろとかツッコみたい部分はありますが、動機を完全にスルーしたネウロの表情が強烈なのでそちらに気を取られてしまいます。
犯行を認めた相手が涙を流しながら動機を語り始めたのに途中で退室。全ッ然興味がない顔だ。
お約束を期待していると外されました。
動機は最後まで聞きたかったです。
「我が輩を誰だと思っている。魔界の謎を解きくいつくした男だぞ」
「この『謎』ももはや我が輩の舌の上だ」
これらはネウロの決め台詞ですね。
弥子の場合は「犯人はお前だ!」です。

竹田刑事が犯人だと暴いた部分は、コンタクトレンズを片方だけ入れっぱなしという点に引っかかりました。
疑問も窓から侵入する竹田刑事の表情に吹っ飛ばされましたが。
竹田刑事が弥子の父親を殺したのは、彼女の表情を怒りや悲しみに「加工」したかったから。
同情の余地も何もない。

DCS編

DCSを最初見た時、「これを真面目に描くなんてぶっ飛んだセンスだ!」とばかり思っていました。
しかし、後から考えると松井先生は「ここらへんでインパクトを出そう」と計算していた部分もあったのではないかと思うようになりました。
自分の場合、
最初の数話:ミステリに詳しくない自分でもトリックが強引だと思うし、独特な雰囲気には惹かれるけど微妙……。
DCS:私が間違っていた。これは推理漫画ではないんだ。犯人が面白いからこれからも読んでいくか。クワッ。
事務所獲得:お、キャラがいい感じだ。何だかんだでけっこう楽しみにしている自分がいる。
ひとりきりの歌姫:こういう話も書けるのか。犯人豹変とかネタばかりに目がいってたけど他にも魅力的な部分があるなぁ。これからも読んでいこう!
こういう経緯で見事にハマりましたから。

事務所獲得や初の大物依頼人までの流れを見ると、ハジけたネタで掴んだ読者に別方向からの面白さを見せていった印象を受けます。打ち切られないためにも連載初期のうちにある程度読者を掴むことが必要ですし。
もっとも、そのネタがDCSという点が常人には真似できないところですが。
普通インパクトを出そうと思っても、もう少し常識的というかおとなしいネタになりそうなものです。
とにかく、DCS編のメリットを考えてみます。
・飛ばしていた、もしくは流し読みしていた読者の注目を得る
犯人のシェフがいきなり注射でスープを注入(たべ)て、筋肉ムキムキになるなんて想像できない。
一度キャッチすればなかなか離れないでしょう。
・「推理漫画としては」「トリックが」というマイナスの目線が減る
普通、推理漫画は自白した犯人が上半身裸になって「逃げるのを止められるかな?」なんて言ったりしません。
・「食」に関する二人の価値観を描く
ネウロと弥子の共通の楽しみ、最大の関心事である「食」について価値観を掘り下げ、二人の距離を縮める役割を果たしています。

「空腹とは日常的な病なのだ。時間とともに進行し、対処が遅れれば死につながる」
「食物の価値は美味いか不味いか、多いか少ないか、それだけでいいのだ」
といった台詞には共感できます。
「俺の車スゲーぜ」
「スゲー!!」
にはかなり笑った。
弥子が料理を食べるのを嬉しそうに見守る至郎田シェフは、料理への情熱を誤った方向に発散しなければいい人だったと思います。
そして問題のDCS披露の場面。
「ドーピングコンソメスープだ……さぁ諸君、俺が逃げるのを止められるかな?」
頑張ってツッコんでみます。
・血液や尿から検出されなくても見た目ですぐばれる
・体にものすごく悪そう
・上半身だけムキムキになり下半身はそのままで、どう見てもバランス悪い
・服が破けるのも面倒
・それほどの力を得たのに逃げることに使うんですか?
駄目だ、私の力ではツッコみきれない。
単行本のおまけページでは材料に「おいしく作ろうという情熱」が入っていたり、ご飯にかけてもいけることが記されています。マジかよ。

ひとりきりの歌姫

まずは事務所獲得編から。
今回のエピソードでは、事務所が手に入ったのと同じくらい吾代との出会いが重要ですね。
この時点では吾代がメインキャラになるとは予想していませんでした。
せいぜいたまに顔を見せる程度かと思ってました。
使えそうな要素、人員は残しておいて、展開に応じて活かすのが上手いです。
最初はただのチンピラというイメージだった彼は、物語が進むにつれていいキャラになっていきます。
吾代と生前の社長の会話が好きです。
「全てに満足できる仕事なんてねーんだよ」
「食う寝るに困らず退屈もしねえ仕事だろ? 他にてめーはまだ何か欲しいのか?」
社長は登場した場面は少ないですが、存在感があります。

コーヒーを飲んでくつろぐ目玉が可愛い。プリティー。
世界的歌姫のアヤ・エイジアが事務所に依頼しにきた。
「事務所開いたからっていきなり深刻な事件の依頼が舞いこんでくるか? そうじゃないと話が進まないけど……」という疑問は、ホームページに引き寄せる効果があるという設定で解消されます。
大物を釣り上げた表現がおどろおどろしくて記憶に残ります。
アヤの台詞は悲しい。有名でも、絶大な人気があっても、孤独を感じている。
逆に、入ってきた人間が彼女にとってどれほど大きな存在かも物語っていると思います。
笹塚キックで彼の実力が示されましたが、この時点ではまだ優秀な刑事の一人程度にしか思っていませんでした。
拷問楽器のイビルストリンガーが大変えぐいです。ネウロの能力の中でトップクラスの拷問度(?)を誇ると思います。
主人公側の使う能力とは思えない。

弥子のステージ乱入に笹塚がコーヒーを噴く。
滅多に動じない、それこそ表情すらろくに動かさない彼が飲物を噴き出すなんて異常事態。よっぽど驚いたんだろうな。

アヤは世界でひとりきりだと感じていないと、人々の脳を揺さぶる歌を歌えない。
だから大切な相手を殺した。
このような心を持つようになった原因は生い立ちにあるのだろうと自分で推測していますが、振り返ることはしませんでした。
普通なら家庭の環境や幼少期の心の傷などが出てくると思いますが、詳しく描かれません。
最後まで読んだ後だと彼女も血族に関わっていたのか、そのせいで悲惨な境遇だったのか、疑問が浮かびます。

サブタイトル「一」が、依頼に来た時の「ひとりめ」、孤独を感じる「ひとりきり」と対応しているのが上手い。同じ字でも読みを変えるだけで印象が変わりますね。
孤独な歌姫と聞いて『マクロスF』のシェリル・ノームを連想しました。
どちらも歌への情熱や、名声や人気を得ながらも孤独を感じていた点が共通しています。
しかし、一人きりでいることへの考えは違いそうです。
気になるのは、アヤが首を絞めた時のこと。
心を許しているから全く警戒していなかったとはいえ、いくらなんでも首を絞められれば抵抗するはずです。
しかし、アヤが二人の殺害に苦労した様子は特になかった。
返り討ちや反撃とまではいかずとも、はねのけるほど抵抗しなかったのでしょうか?
二人ともよほど心を許していたため、何らかの行動に移る前に力尽きたのか。
それとも、大切な存在であるアヤのすること=彼女に殺されることを受け入れたのか。
後者だといっそう辛い。

謎はネウロが解き、動機は弥子が見抜いてアヤは警察に出頭。
事務所編と違い、勘ではなく自分なりの考えで弥子はアヤが犯人だと気づいた。
一歩進んだと感じられます。
やりきれない結末に沈む弥子をネウロが褒めるのが意外でした。
「人間として人間の心を捕える力……それは貴様やあの女が持っていて、我が輩が持っていない能力だ」
脳を揺らすアヤだけでなく、相手の心に近づいた弥子を評価した。
ネウロと弥子の関係も一歩前進ですね。
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