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ひよこの足跡ブログ

漫画やゲームなどの感想を書いています。 ネタバレが含まれることもありますので、ご注意ください。

ネウロ感想 5

ネウロ感想 5
電人HAL 後編




空母を支配し、兵士の間を歩むHALの幻が格好いい。
こういう演出に弱いです。
ゆば配達のおじさんはアレですね、とうふ屋の親父のパロディですね。ギャアアアという効果音も頭文字D仕様になっています。細かい。
ようやくHALと対決できるかと思いきや、新たなスフィンクスと最後の関門がそびえている。
パスワード入力!
来ました。こういう敵・状況ならば登場するのがお約束です。
間違えればもちろんペナルティ。
HALの姿にエジプトの石板風に字が書かれているのは、どんな意味がこめられているのか。
エジプトのモチーフが多いのは死者の書のイメージからでしょうか。

身体が限界のネウロは血を吐いて倒れ、HALは世界に声明を出す。
思わずパスワードのヒントを訊く弥子に「敵にヒントを求めるとは何とも都合がいい」ともっともな台詞を返すHALですが、バトル漫画では意外と能力や解決法を喋ってくれますよ。相手に教えるのが発動条件というわけでもないのに。
パスワードは彼の目的そのもの。
電子ドラッグで世界を混乱に陥れ、多くの人間を自分の忠実な兵士に作り替え、空母を占拠して世界を脅す……こんな壮大な、世界規模の犯罪を行う目的などさっぱりわかりませんでした。
ネウロを強敵だったと認め、去っていくHALの姿が威厳溢れています。
『願わくば君とは……私が春川であるうちに……もっと話しておきたかったよ』
これはHALの本心だったと思います。もっと早く会って可能性を知っていれば、別の方法で目的を達成しようとしたかもしれません。
相手への敬意を失わない姿勢が好ましい。

パスワードを弥子に解くよう告げるコマで、時計の絵が出ています。
噛み切り美容師編の、日付変更の台詞がここで活きてきます。
個人的にHALは大好きですが、許される存在ではないと断言する笛吹の心情にも共感できます。
弥子に希望を託し、好きな出前を選べと叫ぶ姿は男前でした。
そして弥子に喰われた。財布の中身が。

パスワードのヒントは、
・「1と0の狭間で生きる事」というそのものずばりなメッセージ
・以前出てきた講義の内容
・大切な者のために罪を犯したヒグチ
・動機はえてして単純なものというアヤの助言
・名前が載っている書類
・叶絵との会話
などなど随所にちりばめられています。
自分では解くことを放棄しさっさと諦めてしまいましたが、頑張って考えればよかった……。
パスワードを解いた彼女の背に、十二時を指した時計が描かれる。
彼女の日付が変わりました。

計算を続けるHALの傍に浮かぶ像はいびつで、虚しい。
ひたすら繰り返すHALが哀れだ。
空母に侵入する際の道具が以前登場したものだったのはやられたと思いました。
ぽっと出の道具で解決すると都合よさを感じますから、以前出した要素を活かすのが上手い。
空母侵入、スフィンクス破壊、パスワード入力を一話でやってのけたのも素晴らしい。
だらだら延ばさず一気に勝負をつけにいく!
興奮が維持され、高まっていきます。

ネウロとHALを隔てるパスワードの壁がガラスのように砕け散る。
美しい……。
この演出はHAL編の中でもトップクラスに好きです。
あれほど甘く見られていた弥子が追い詰める鍵となった。ネウロの期待や信頼に答えました。
三体のスフィンクス戦では少し展開がゆっくりに感じられましたが(それでも十分速い)、パスワードを突き止めてからの展開が速く、盛り上がる。
『謎』を展開するHAL、それを破っていくネウロ。
勝敗のわからない沈黙と、破られかけているドア。
ネウロは高らかに笑い、二万人を相手に大暴れ!
ずっと弱体化が描かれてきただけに、これでもかと強さを見せる様が爽快です。
お腹がふくれて遊びに行ってる子供みたいと弥子は表現していますが、そんな可愛らしいものではないと思う。
敗北したHALの無数の枝に貫かれているような姿が痛々しい。
敗れても取り乱さないのがまた素敵。劣勢になった時も口汚くわめく真似はせず、淡々と振舞っていました。風格が備わっている。

今までのサブタイトルも十分印象的ですが、このあたりの話はいっそう記憶に残っています。
「1」、そして「0」。読みも「ひとり」そして「――」へ。シンプルな中に色々な意味を見出したくなります。
弥子の推理がわかりやすい。
推理物だと狭い隙間を通り抜けるようなアリバイや緻密なトリックに混乱し、探偵の種明かしを聞いてもちんぷんかんぷんなのですが、解き明かすべきものがトリックではなく目的で、順を追って説明されると理解しやすい。

刹那と春川のエピソードはトップクラスに好きです。
たった一話やそこらの回想でこれほど記憶に残るのも珍しい。
「こんな過去があって……」な犯人は幾度か登場しましたが、恋愛要素が絡んできたのは初めてだからでしょうか。普通の推理漫画なら「亡くなった恋人のために」はよく聞く気がしますが、ぶっ飛んだ犯人が多いネウロでは意外です。
変化球を投げる印象が強い相手がストレートで投げてきた気分です。
スキンシップが激しいわけでもないし、大げさな言葉を使ってもいない。
しかし、互いを大切に想っているのがわかります。
教授の性格が性格ですからベタベタされても困りますし、全体的にさらりとしている雰囲気が好みです。
彼女を合理的に慰める春川教授の言い方が「らしく」て……。
最初は未知の病気の患者、貴重な実験体としか見ていなかったでしょうが、次第に人格に惹かれていく。
彼女も同じだったんだろうと思います。最初は自分を担当する相手、天才であると同時に変人でもある男。それが一緒にいたい相手に。
この場面での木々は、HALが目的について述べた時の背景と重なりますね。
回想ゆえに結末が薄々わかっていても死んでほしくないと思ってしまう。

病気が悪意の固まりと表現され、人為的なものであった可能性が示唆される。
「望む事は何だって……この頭脳で可能(かな)えてきた」
叶うとかけているのが上手い。
病気を解明できず患者を治せなかったという、研究者の誇りを傷つけられたことももちろん大きいのでしょうが、彼がこの道を選んだのは、やはり刹那への想いが深かったから。
恋や愛といった直接的な表現はほとんど使われていないにも関わらず、伝わってきます。
今まで「犯人にも事情があって」が控えめだっただけに、直球でこられるとガツンとくる。

刹那ともう一度会うために彼が選んだのは、彼女を造るという方法でした。
科学者・研究者だからこそ霊のようなオカルトな方向に突っ走らず、着実に段階を踏んでいった。
どんな手段を使ってでも会いに行こうとする決意が悲しい。
『デジタル世界に新たな刹那を構築する』のが春川とHALの目的だった。
しかし、それは不可能です。
美化も風化も無いなんてありえない。たとえどれほど記憶を再現しても「本物」にはならないでしょう。
現にHALの造る像はゆがんでいます。
HALがわざわざヒントとなりうる言葉を漏らしたのも、自分を止めてほしかったから。
調子に乗って弱点を喋ると興ざめですが、理由があるといい。

弥子がHALを消去したのも重要だと思います。
残虐非道ではなく悲しい過去を持った悪役に対して、主人公が直接手を下すのは珍しいと思いました。
刹那を喪った春川の決意、HALの説明、消去を実行する弥子。これだけでも十分すぎるほど読みごたえがあるのに、まだ盛り上がる。
少しずつ消えていくHAL。
何かに気づいた彼は振り向き、呟く。
「1の世界でも遠かった。1と0の狭間に来ても遠かった」
「どんなに彷徨っても、決して会えなかった君が……」
「こんな……こんな近くに!」
消滅する瞬間、刹那に再会し、満ち足りた表情で逝く。
このページは本当に綺麗でした。
空間ごと崩れ落ちていくかのような背景。
消えかけている彼の身体を抱えるようにしてすぐそばにいる刹那。
表情も狂乱していた時のものではなく穏やかな微笑。
残りのパーセントが刹那を表しているのも上手い。
春川教授は再会できなかったけれど、HALは満ちたりて消えた。

「泣くのではなく笑うべきだ」とあくまで食料にこだわり人間の感情を理解していないネウロは、弥子から手をはねのけられても怒らない。
彼なりに弥子が何かを掴み成長したと悟ったのでしょう。
「日付も変わった」という台詞は、文字通りの意味と弥子の成長を表しています。
おまけで余韻をブチ壊されたらどうしようと思ったけれど、杞憂でした。
むしろ感動が深まりました。
こういう穏やかな時間がずっと続けばよかった。
最近まで左隅の小さな文字に気づきませんでした。

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