忍者ブログ

ひよこの足跡ブログ

漫画やゲームなどの感想を書いています。 ネタバレが含まれることもありますので、ご注意ください。

ネウロ感想 8

ネウロ感想 8
新しい血族 後編




とうとうたいして働いていなかった葛西が動き出す。
彼の望みは単純でささやか。
シックスより長生きしてみたい。それだけ。
 大げさな目標を掲げるより現実味があって怖ろしいです。
手に炎をまとわせ、シックスに攻撃を仕掛ける姿は格好いい。
どんなマジックだと思いながらも見入ってしまう。
怖ろしい男に攻撃を仕掛けるのも、歯が立たなかったのに取り乱さないのも、意地や誇りを感じさせます。
「おじちゃんはいっちょ長生きしちゃうぞぉ」
シックスで気分が悪くなる分、癒し担当です。
伝説の犯罪者なのに何故か和む。多くの建物を壊し大勢の人を傷つけているはずなのに。
大物ぶらないからこそ逆に風格が出てくるというか……やってることはひどいのに憎めない。
張り切っていた昔とのギャップが大きくて面白い。

シックスが家族殺害の元凶だと知って笹塚が復讐に動き出す。
私も弥子やネウロのように「笹塚さんなら無茶な行動はしないだろう」と安心しきっていたので「おいおい、大丈夫ですよね?」と冷や冷やしながら読み進めていきました。
笹塚の表情の変化を見落とした弥子に吾代の言葉が刺さる。
「豹変しない人間なんていねーんだよ」
微かに笑んだだけで豹変と言われるのも珍しい。
これがネウロの普通の犯人なら「なるほど、豹変してる」「一目見ただけでわかる」と頷けるのに。
笹塚の異変を感じ取れなかった自分を責める弥子ですが、見抜くのは難しいよ。
彼女の視点では、笹塚は出会った時から今までずっと「どこまでも冷静で高い実力があって極めて頼もしい存在」ですから。
弥子とともにこちらの心も追い詰められていきます。

21巻の作者コメントでは、とっておいた伏線や展開を一気に解放してクライマックスへの流れを加筆する作業が、ショートケーキの残したイチゴを一気食いする快感にたとえられています。わかりやすい。
笹塚は父の言葉を思い出す。
「守るもののためには……狂う事をためらうな」
笹塚がかつて守れなかったもの、現在守りたいと思っているものを考えると重い。
彼がシックスを仕留めようとしたのは、復讐だけでなく現在守ろうとしているもののためでもあったと思いたい。
笑みを浮かべているのも、仇敵を前にすると険しい表情になるのも、普段の彼からは遠い。すっかり冷静さを失っています。
昔石垣に対して言った「おまえ後々犯人にならねーよな?」という台詞もここで再登場しました。
この言葉は便利です。
活かせるならばよし、活かせなくてもメタ的な発言ということで深く気に留める者は少ない。いきなり犯人が刑事という展開がきたので疑うのも当たり前ですし。
笹塚の行動はシックスの狙い通りだった。
わざわざおびき寄せて復讐への執念を確かめ、努力虚しく散る様を楽しむ。
趣味悪い。

最期に弥子に向かって微笑した笹塚は、頭を撃ち抜かれる。
一瞬の間に駆け巡る光景が破壊力を上げています。
好きなキャラが復活の望み一切無しに退場するのは悲しい。
感動の別れも最期の一言すらなかった。
おまけページもいつものおふざけはありません。
イレブンの記憶を読む能力は何でもありになってつまらなくなるんじゃないかと危惧しましたが、後々あってよかったと思いました。

次の話では早速葬儀に移り、笛吹や石垣など残された者達が描かれる。
展開が早い。
「もしかすると」という希望を持つ暇も与えずとどめをさしにこられた気分。
沈痛なムードを塗り替える葛西が救いかもしれません。
カッコつけやがってと思ったら普通にパチンコで負けたので怒りが静まりました。
葬式では泣かなかった笛吹が、同僚達に言葉をかける時一筋の涙を流している。彼の覚悟を表しているようです。
「私の策に君達の命を預けて欲しい」
「力を貸してくれ! これ以上市民が死ぬのに耐えられるか!?」
「これ以上! 同僚が無駄死にするのを我慢できるか!?」
上に立つ者が自分に全て預けるよう言いきってくれると頼もしい。
筑紫やヒグチらの目の色が変わっています。
シックスは怒らせてはならない者達を怒らせた。
ここから警察、正確には人間達の反撃が始まる。

さすがに弥子はまだ立ち直っていません。
精神的にタフになったとはいえ、目の前で大切な相手を殺されて、すぐに立ち向かう意思を燃やせるわけがない。
本城博士と語り合う中、和やかな雰囲気が一変。笹塚を死に追いやったのは本城だろうと問い詰める。
思考を研ぎ澄まし、筋道を立てて追いつめていく弥子が怖い。
笹塚の死で精神の均衡が崩れているのでは、言いがかりじゃないかと疑いましたが、言っている内容はしごくもっともです。
ヴァイジャヤ編などであった違和感に納得してしまう。

笹塚の退場でただでさえ沈んでいるのに追い打ちがかけられる。本城の豹変がこちらの心を削ってきます。
彼が内通者という線は考えてはいました。
それでも「無理やり脅された」「シックスに復讐するため笹塚を利用した」などと受け入れやすい形を予想していました。
それが「自発的に従った信奉者」だった。「娘も自ら差し出した」。
突き落とさないでください……。
松井先生は頁をめくってびっくりさせる表現を駆使しています。
ナイフくわえてダイブしかり、「刹那ァ――ッ!」しかり。
狂気を奔騰させる本城に怒りを隠せない弥子。
単に憎み切れる人物であったならば楽だったかも知れませんが、そうではなかった。
「ごめん……」
彼は涙を流しながら詫びて命を絶ちました。
散々嬉しそうに叫びまくった直後に静かな台詞を持ってくる。
穏やかな場面と激しい場面のつなげ方が上手い。

本城が憎んでいたのは自分自身。殺したかったが機会が巡ってこなかった。
絶対悪のシックスについて「あのお方は悪くない」と言うのは皮肉なのか問い詰めたい。
弥子に感謝と謝罪を述べて落下。
笹塚に続き、本城まで退場。しかも目の前で。
洞察力やずぶとさはあっても決して超人ではないのに。
髪をかきむしり絶叫する弥子の表情が痛々しい。叫び声も生々しい。
しかも本誌に載っていた時、この回の弥子の好物はアロワナのバター醤油いためでした。
本城との思い出の一品……鬼だ。

弥子が打ちひしがれる一方、警察は葛西を追いつめるのが熱い。
主人公が絶望しても、立ち向かう人々はいる。
ようやく動きだし成果を上げる葛西と、魔人に頼りきらずに止めようとする警察、どちらも互いの見せ場として頑張っています。
「おまえから犯罪を奪ったら何も残らん。だから……奪ってやる。おまえから全て奪って……おまえという人間を終わらせてやる」
笛吹の格好よさは天井知らず。初登場時の嫌味で傲慢で頼りない印象とは大違いです。
警察の面々の中で最も役に立っていなかった石垣さえ成長を見せる。
以前ユキが葛西に敗れたのは兄との逆襲フラグでした。
ユキがあっさり負けた時は「かませ犬にされたか、いいキャラなのになぁ」と勿体なく思っていましたが、後できちんと見せ場がありました。ただのやられ役で終わらないのが好ましい。

散々撃たれて倒れた葛西はどこまでも不敵な笑みを浮かべている。
このおっさん、一応人間のはずなのに頑丈だ。自称「ただの人間」なキャラは台詞に反してしぶといイメージがあります。
全部小細工と言い放つのがふてぶてしい。
「人間の限界を超えない事が俺の美学だ。人間としての知恵と工夫で……奴より長く生きることに意義がある」
ビルを素手でよじのぼるのは普通の人間とは言い難い気が……相当鍛えてるということでいいか。
スープを血管に注入して異様な体格になるこの世界の人間ならば、これくらい普通の人間の範囲内です。多分。
シックスとネウロはどちらも人間の進化を促す存在。どちらが育てた人間が勝つかが二人の勝敗を決める。
見届けたかったが燃料切れで途中退場……自分が死ぬという状況で飄々としてます。
最期が近いのに「おーい誰か火ィ貸してくれよ」と叫んだり、焼け落ち崩れる天井に「火火火、悪いな」と呟いたり。
劣勢の時に真価が発揮されると思うので、こういう悪役は大好物です。

葛西の生き様や警察の奮戦に心が躍ったのも束の間、弥子とネウロの決別が描かれる。
今までめげずにやってきた反動が一気に噴き出した感じです。
そもそも、第一話の時点で父親を惨殺されており、食欲を失うほどになっていました。
竹田刑事の再登場で心の傷が刻まれていたことがわかります。
そのうえ目の前で笹塚、本城が死んだわけですから、心が折れても責められない。
最初から出会わなければよかったと叫ぶ彼女にネウロは失望する。
「貴様には人と接する能力があり、逆境に萎えない向上心があり、それらについては一定以上の敬意を払ってきたつもりだ。だがまさか……ここまで腑抜けだとは思わなかった」
普段彼女を奴隷扱いしているネウロがこれほど認めていたとは。こんな状況で聞かされたのが皮肉です。
「消えろ桂木弥子」
期待が大きかったからこそ失望も大きく、この台詞になったのでしょうが……ここで優しい言葉をかけないのが魔人なのだろうと思います。
「今まで……ご苦労だった。腑抜けの未来に……精一杯の幸あれ」
ネウロにしては最大限認めている発言だとしても残酷だ。
丁重な態度に軽蔑が込められている気がする。

もう駄目だと思いかけたところでこの御方が出てきました。
弥子が力を発揮した事件。そこで出会った相手。アヤが弥子の道に光をともす。
出会いは必ず何かを残す。シンプルだけに心に残ります。
笹塚の最期の笑みは、「この子なら問題無い、この先どんな試練も乗り越えていけるだろう」という意味だったとアヤが語る。
弥子の強さを知るアヤが言うと説得力がありますね。
アヤの目が血族のものでヒヤッとしましたが、これ以上落とされることはなくてよかった。さらに辛い状態になったらこちらまで心が折れるところでした。
これでアヤも血族で敵、あるいは正体がイレブンだったらどうなっていたことか。
ネウロがわざわざアヤの歌を聴きに来て人間を理解しようとしたのが感慨深い。彼なりに思うことがあったのでしょう。
タフな弥子の心がバキバキに折れたのを目の当たりにしたのが原因か。
出会わなければよかったと叫んだ弥子は、出会えて本当に良かったと思えるようになりました。

本城が残した情報を受け取り、ネウロの元へ戻る彼女の怯えようが尋常でない。
そばにいさせてと頼み込む弥子は必死で、応えるネウロも真剣そのもの。
いつものように楽しんでちょっかいを出さない。
ビンタ一発で全てを済ませるのが潔い。
ただ、彼女にツッコみたいのはどこからどう見ても「軽いビンタ」という絵じゃないということだ。ギャグ顔なので実際は軽めだと推測できますが。
ギザギザのコマが二人の間の亀裂を表していて、つなぎ合わされ、元通りになる。
いい演出です。
ようやく主人公達も反撃開始です。
PR

コメント

ただいまコメントを受けつけておりません。

最新記事

(05/05)
(04/28)
(04/21)
(04/14)
(04/07)
(03/31)
(03/24)
(03/17)
(03/10)
(03/03)